第78話 ごめん
「……あった。これだ」
黒崎風路は倉庫部屋の奥、骨董品や古い書類が積み上げられた棚をすり抜け、壁際に鎮座する頑丈な金庫の前で膝をついた。
鍵を回し、重い扉を開ける。中から取り出したのは、一本のUSBメモリ。
それを握りしめたまま、風路は静かに部屋を後にした。
・・・
エントランスで待っていた俺たちのところに風路兄ちゃんがやってくる。
「おう、来たか!」
ジペットの声に、風路兄ちゃんが短く頷く。
「ほら、これだ」
風路兄ちゃんは、ししゃも。にUSBメモリを差し出した。
ししゃも。は一瞬だけ指先を止め、ためらうように視線を落としてから――そっと受け取る。
「ありがちょ……」
「あぁ」
ししゃも。は手のひらの上の小さな物体を、まるで宝物みたいに見つめた。
そこに“ある”ことを確かめるように、ぎゅっと握りしめる。
「これが、ママとパパの……」
言葉が途切れ、喉が小さく鳴る。
ジペットが車のキーを指でくるりと回した。
「よし、そろそろ行くか。もたもたしてるとまたおやっさんにどやされる」
「じゃあ、ネズミからなにか聞き出せたらまた連絡する」
風路兄ちゃんが言うと、ゼロが手をひらひら振った。
「わかったー。よろしく頼んだー!」
「世話になったな。これからも世話になるぜ」
「はぁ……お前らはほんと現金なやつらだな」
風路兄ちゃんは呆れたように息を吐いた――が、すぐに表情を変える。
「……燈真」
「ひゃい!」
間抜けな返事が口から出て、少し恥ずかしい。
「今日はお前に会えてよかった」
「えっ!? あっ……お、俺もっ……会えてよかった……!」
風路兄ちゃんが一歩だけ俺に近づく。
「お前のことは俺が守る。なにかあったら必ず連絡してくれ」
声は低く、身体に響いてくる。
「はぅわ……っ……わかった……連絡、しゅりゅ……///」
「おう。またな」
「うん……///」
背後で、小さく舌打ちがした。
「チッ……いちゃついてんじゃねぇぞ……」
ししゃも。の視線が刺さる。
顔が熱い!
慌てて車へ逃げ込んだ。
俺たち五人は車に乗り込み、俺の家へ向けて出発した。
風路兄ちゃんが見送ってくれているのが遠くに見えたが、車が角を曲がってしまって見えなくなった。
車内
「なんか……色々あったな」
俺はぽつりと言う。
「そうだねー」
ゼロが力の抜けた声で同意する。
「……ごめん。色々迷惑かけた」
ししゃも。が小さく言った。
「気にしてねぇから大丈夫だ!」
俺はすぐ返す。
それを聞いて、デジデジも視線を落としたまま言った。
「僕も……ごめん」
「大丈夫だ! お前もずっと一人でがんばって大変だったんだよな」
ししゃも。が一瞬だけ迷ってから、デジデジに向き直る。
「デジざえもん……さっきは言い過ぎた。……ごめん」
「いいよ。たぶんホントのことだと思うし」
「ううん、違うの。あれはデジざえもんのことを言ったんじゃなくて……たぶん自分が言われたらいやだと思った言葉を並べただけ。だから気にしないで」
「そっか……。わかった。……僕も頭叩いたりしてごめんね」
「ううん。ししゃも。のこと、止めてくれてありがとう」
「僕もみんなに止めてもらわなかったら、今頃どうしてたかわからないし……ありがとう」
ししゃも。とデジデジの間に、言葉のない沈黙が落ちる。
「――あぁあああああ!! もういったんやめようぜ!!」
俺は思わず叫んだ。
「ありがとうとかごめんとか……っ!! いや、ありがとうはいいのか……?? いやでもいったんやめよう!! なんか変な感じするからよ!」
「そう……だね……ごめん……」
「そう……だよね……ごめん……」
「お前らそれわざとだろ!?」
後部座席が少しだけ明るくなる。




