第74話 デジデジの吐露2
デジデジは淡々と、でも途中からほんの少し声を震わせながら語り始めた。
「まず、僕の父の本来の職業は、公安だったんだ。」
「公安って、俺たちと同じってことか!?つまり・・・潜入捜査で松川会に近づいたんだな。」
「うん。現組長の娘である僕の母と出会って、婿養子になった。」
「単純に母と恋に落ちたからなのか、それとも婿養子になって松川会の中枢になるところまで最初の計画のうちだったのか・・・。どこまでが父の計画だったかはわからない。でも、僕から見て父はちゃんと母のことを愛してくれていたと思う。」
「母には二人の兄がいたんだけど、暴力団同士のいざこざで二人とも亡くなったらしくて、母だけが残った。それで跡取り候補が急に二人ともいなくなったことで組長は相当焦ってたんじゃないかな。」
「父の素性は気づかれず、すぐに松川家の若頭になれた。まんまと公安に中枢に潜り込まれたってわけ。」
「それからしばらくして、母と父の間に僕たちが生まれた。男三兄弟で兄が浩人、次男が僕で、三男が健人。」
「ちょっ・・・ちょっと待ってくれ!おかしいだろ!? 松川浩人、松川デジデジ、松川健人って!! 一人だけ名前おかしいだろうがよっ!?」
「燈真くん、黙れ。」
ゼロに刺され、俺は口をつぐむ。
「組長の男兄弟が亡くなったこともあって、念のため子供は多めに作るように組長からお達しがあったみたい。」
「兄とは結構歳が離れてて。優秀だったから父が組長になった後の、その次の跡取りには兄がなる予定だった。だから兄は中学に上がるころには家の簡単な業務をやらされて、跡取りとして育てられてたみたい。」
「でも、父と母はそのことをあまりよく思っていなかった。」
「父は公安だし、母も家のことが嫌いだった。だから家族だけのときによく父と母は話してくれた。」
「『いつか松川会をなくして、家族で平和に暮らそう』って。」
「計画としては、父が松川会の組長になった後、徐々に組織の力をそいで解体する手はずだったみたい。」
「でも父が婿養子だからっていう理由で、組長も含めて既存幹部メンバーからの風当たりが強かった。」
「だから組長が健康に動ける間は父は若頭のままで、役職に対して実質的な権力はあまり強くなかったみたい。」
デジデジは小さく息を吸った。
「それで、ある日事件が起きた。」
「事件?」
「『白波海洋研究員殺害事件』」
「・・・!」
ししゃも。が息を呑む。
「そう、しゃもしゃものご両親が殺された事件だよ。」
「僕も事件の全容を知っているわけじゃないから、知っていることだけを話すよ。」
「まず、この事件は新興宗教団体の『真世教団』から松川会に依頼があったものだった。」
「依頼の内容は、『研究データを奪取することと、当該研究所員の殺害』。」
「つまり、ししゃも。のご両親の研究データを奪った後、殺せっていう依頼だった。」
「どうして!!」
「僕にもどうしてそこまでこの研究データを真世教団が欲しがっているのかはわからない。」
「ただ、ししゃも。のご両親はこの研究のリーダーではあったものの、途中からこの研究を辞めようとしてたんじゃないかと思う。」
「え?」
「ここは僕の憶測が入るけど、ししゃも。のご両親は研究の危険性に途中で気づいたのかも。それで、研究の中止と研究データの破棄を行おうとしていた。」
「でもその研究を続けてほしいと考えていた真世教団の関係者ともめて、命を狙われた。」
「研究データさえあれば、他の人でも少なからず研究は続けられるはずだからね。」
ししゃも。が震える声で聞いた。
「・・・それで、デジざえもんのお父さんはその依頼を受けて、ししゃも。の両親を殺したの?」
「お父さんはそんなことしてないっ!」
デジデジが声を荒らげた。自分でも驚いたように、すぐに目を伏せる。
「・・・ごめん。続ける。」
「松川会には殺しの依頼が来ることがあったけど、実働的に父が現場に行くことはほとんどなかった。」
「そういうのは若中、いわゆる下っ端の中で殺しができる人が実行することが多い。」
「父は殺しの依頼が来たときに、いくつかの対策を取って殺しが行われないようにしてた。」
「殺しの対象が犯罪に手を染めていたら先に警察に情報を渡して逮捕させたりとか。先に逮捕しちゃえば殺せなくなるからね。」
「あと殺しの実行日時に合わせて警察を配備して殺し実行犯の若中を逮捕する。」
「若中が逮捕されたらその補充要因として公安や警察のスパイを潜りこませる。」
「これで、あとは現場のスパイと連携を取って、殺し対象を国外に逃がしたり、替え玉を用意して殺しを偽装したりしてた。」
「もちろん、すべての殺しを防げたわけじゃないけど、実質的な殺しの数は減らせていたはずだと思う。」
「『白波海洋研究員殺害事件』の件も、そうやって殺しの実行を防ぐはずだった。」
「でも上手くいかなかった。」
「なにかあったのか?」
「公安組織からの協力が得られなかったんだよ。」
「どういうことだ!?」
ジペットが顔を歪める。
「普段、父は殺しの依頼が来た際、公安組織に連絡してどう対処するか相談してた。国外に逃がしたり替え玉の用意したりとかは組織の協力がないとできないからね。」
「でも、この事件のときは『公安組織は協力しない』。」
「それどころか『研究に関わった人間も一緒に殺害できるように松川会を誘導しろ』っていうお達しがきた。」
「なにそれどういうこと!!?」
「おそらく公安は、その研究を行うこと自体を『テロ行為』、研究に関わる人間を『テロリスト』とみなしたんだと思う。」
「なんでだ!?百歩譲ってししゃも。の両親が研究してた内容がヤバい内容だったとしても、なんで殺すところまで行くんだよ!?普通に逮捕とかで済ませらんなかったのか!?」
「逮捕ってなると、公安組織の中だけでは完結しないんだよ。法務省や裁判所が絡んでくる。逮捕した理由も公にしないといけない。マスコミも動く。」
「そうなると研究の内容が外部に漏れる可能性も高くなる。」
「そうしたら真世教団以外の組織にもその研究が目を付けられて、各所で類似した研究やテロ活動が行われるかもしれない。」
「それを未然に防ぐには、殺してしまうのが手っ取り早い。」
「特に暴力団が絡む場合は、それだけでマスコミの介入を少なくできるメリットがある。首を突っ込みすぎると自分たちが何かされるかもしれないってね。」
「たぶん公安の考えはそんな感じだったんじゃないかと思う。」
「もうやだ・・・最悪・・・。もう何も信じられないじゃんっ!!!!」
ししゃも。が崩れる。
「ししゃも。!俺とゼロのことは信じてくれ!俺たちは絶対にそんなことはしない!」
「ごめん...。わかるけど・・・わかるけどっ...少し時間が欲しい。」
「信じてくれなくても大丈夫。でも僕たちはキミを助けるから。」
「...うん。ありがちょ・・・」
俺は息を吐いて、デジデジを見る。
「デジデジ。それで...そのあとはどうなったんだ?」
「そのあとのことは、もしかしたら俺の方が詳しいかもしれない。」
風路兄ちゃんが淡々と言った。
「え?」
「そのあと、デジデジの親父は殺しの計画を阻止するための作戦を立てた。そうだよな?」
「はい。父は公安上層部には内緒で、死体の替え玉を用意して研究員たちを逃がす計画を立てました。」
「どうして風路兄ちゃんがそんなこと知ってるんだ??」
「デジデジの親父が替え玉用の死体を用意できないか相談に来たのが、俺たち『七代目黒崎組』だったんだ。」
言葉が重く、部屋の空気が少しずつ沈む。




