第68話 白状
「男と男の熱い友情っ!!くぅっ!!感動的だなっ!!」
ジペットが勝手に感動している。
「ごめんっ・・・みんなも...ごめんなさいっ...!!」
ししゃも。が泣きじゃくりながら謝罪する。
「こんな感動的なシーンに水を差すなんて野暮な真似はしない。俺は全部水に流してやるぜ!」
「ぼくはさっきいっぱいビンタできたからもういいよー。ししゃも。がまだ叩いて欲しいならいくらでも叩くけど!」
ジペットとゼロが少しおどけたように応える。
「僕はなんの問題もないよ~!僕が勝手についてきてるだけだしね!」
「燈真に銃を向けたことも、燈真を騙していたことも俺は許すつもりはない。・・・だが、当の燈真が怒っていないと言っているのであれば、俺はもはや何も言うまい。燈真に感謝するんだな。」
デジデジと風路がそれに続いてそれぞれの言葉を投げかける。
ししゃも。は俯いた顔をあげて、みんなの顔を順番に見回す。
「本当にごめんなさい...!!・・・みんな...ありがとう。」
「ってことで・・・。話してくれるよな?なにがあったのか・・・??」
俺はししゃも。の肩を掴みながらししゃも。の目を見る。
「でも...また迷惑かけちゃう・・・」
俺は鼻をすすって、少しだけ強い口調でししゃも。に告げる。
「もうお前のそれは聞き飽きたんだよ!泣き語りパートなげぇからさっさと話せっバカ野郎っ!!」
「お前はやっぱりさっき殺しておくべきだった!!!!!!!!!!!!!!死ねっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺とししゃも。の泣き声がようやく小さくなるころ、部屋の空気も少しだけ落ち着きを取り戻した。
誰もが息を整えるために、ほんの短い間、言葉をやめる。
ジペットと風路はそれぞれ廊下の部隊に連絡を入れ、室内が問題ないことを伝えたらしい。
ドアの向こうは、いつの間にか静かになっていた。
「ん?そういやアイツら全然扉開けて入ってこなかったな??部屋の中から銃声が聞こえたって騒いで、みんな扉の前まで来たんだよな?」
俺が首を傾げると、ゼロが軽い調子で肩をすくめる。
「あれ?ししゃも。が風路くんに威嚇射撃した後すぐ、扉ドンドンされてうるさかったから通信機で、部屋の中は問題ないからまだ扉開けないでねぇ~って連絡したんだけどなぁ?」
「なるほど・・・。」
無線が入る前に車から出たから、俺だけ聞いてなかったのか。
「あれ?つーか問題なしっていう報告でいいのか?」
俺の問いに、ゼロはあっさり頷く。
「うん。だって報告したらししゃも。捕まっちゃうかもしれないでしょ?それはぼくたちもいやだからねぇ。」
「それって大丈夫なのか??いいのか?そんなので??」
「いいんだよー。ぼくたちは公安だよ?公安はね、全体の安全を守るためなら捜査のために盗撮や盗聴まがいのことだってするし、大きな犯罪の尻尾をつかむためなら多少のいざこざなら放任するんだよ。」
「職権乱用だな!!」
「まぁまぁ。ぼくたちは“大きな犯罪組織の今後の計画を阻止するため”に動いていたらししゃも。に行きついたってことをお忘れなく。ししゃも。を見逃すことで得られる情報のメリットが多いならスルーやむなし、だよ。」
ゼロは、少しだけ声のトーンを落として、ししゃも。の方を見る。
「じゃあそろそろ話してくれるかな?ししゃも。?」
「・・・わかった。」
ししゃも。は短く息を吐いて、観念したように言った。
「・・・友だちを・・・ケンちゃんを人質に取られてるの。」
「人質!?」
俺の声が裏返る。
「うん。昨日燈真きゅんには話したよね?施設にいたししゃも。の唯一の友だち。それがケンちゃん。本名は清水健人」
デジデジは、言葉を失ったように黙り込んでいる。
「今から大体1週間ぐらい前に、突然施設からいなくなったの。ししゃも。とケンちゃんは同室なんだけど、朝起きたらいなくなってた。」
「夜のうちにいなくなったってことか?」
「うん。だから最初は先生・・・施設の職員さんもししゃも。も、心配はしてたけど自分からいなくなったんならまだ大丈夫かなって思ってた。だから捜索願を出すのも夕方まで待つことにしたんだけど、結局戻って来なかった。」
「それから捜索願も出したんだけど、見つからないまま2日たったとき、ししゃも。のスマホに知らないアドレスからメールが届いて・・・。」
「メール??」
ゼロが眉を上げる。
「ケンちゃんを監禁したっていう話と、言う通りに行動しなければ...ケンちゃんを殺すっていう内容。画像もついてて、ケンちゃんが椅子に縛り付けられてて、目隠しされてる写真だった。...ちょっと待って・・・」
ししゃも。は手錠のせいで不自由な手をもどかしそうに動かしている。
それを見かねたゼロがししゃも。のポケットからスマホを取り出す。
そのままししゃも。に言われた通りに画面を操作して、俺たちに見せた。
――椅子に縛られた少年。黒い布を目に巻き付けられ、視界を封じられている。
中学の制服だと思われる白いワイシャツの半袖。殺風景な部屋も相まって、すごく寒そうに見える。
「っ・・・ひでぇ・・・!誰がこんなことっ!!!」
「わからない。でもたぶん、ジペッちょやゼロきゅんが今日話してた内容から考えると、「松川会」の奴らだと思う。」
「警察・・・には届けてないんだよね?」
ゼロが冷静に確認を入れる。
「うん。もし言ったらケンちゃんがどうなるかわからなかったから。」
ジペットが腕を組む。
「それで、そのあとお前はどうしたんだ?」
「続けて2通目のメールが届いて、そっちに具体的な指示が書いてあったの。だからししゃも。はおとなしくその指示に従うことにした。」
ししゃも。は一度視線を落としてから、吐き出すように言った。
「指示の内容は、『七代目黒崎組に保管されている携帯型脳波変換機と研究データを盗み出すこと』だった。」
「ケイタイガタノウハヘンカンキ??」
「……あのペンダントのこと。あれはただのペンダントじゃなくて、しゃもママたちの研究成果の一部だったみたい。」
「ししゃも。もそのことはメールで知ったの。というかペンダントのこと自体、そのメールを見なかったら思い出してなかったかも。」
「ケンちゃんを助けなきゃって言うのが一番だったけど、ママとパパが最後に研究してたものだっていうなら取り返したいって気持ちにもなった。」
「メールにはご丁寧に事務所内のどこに保管されているか、保管室のセキュリティキーの隠し場所はどこか、いつ警備が手薄になるかが細かく書いてあった。」
「それで、そこに書いてあった日時にこの事務所に忍び込んだの。それが一昨日の夜。」
「でも上手くいかなかった。ペンダントは保管室ですぐに見つかったけど、研究データが入っているUSBメモリが見つからなかったの。」
「それで探してる間にヤクザどもに見つかって、とりあえずペンダントだけ取って逃げたの。」
「なるほどな、それでお前追いかけられてたのか。」
「そう。・・・でも最悪。ここまで細かく指示しておいて場所間違ってるとか意味わかんない。」
その不満を、風路が淡々と切った。
「それは、俺が前日に場所を変えたからだな。」
「え?」
「ちょっと前に保管室の入室記録に不審なものがあってな。どうにも怪しいから、盗まれてるものがないかの確認と保管室のものを別の保管室に移動させる作業をやってる最中だったんだ。」
「そのガキの話を聞くに、うちの中にネズミが紛れ込んでるのは確定だな。」
風路は目を細める。
「お前、銃はどこで手に入れた?」
「さっき、事務所に入る前に案内してた男から受け取った。」
「お前がずっとぽこぽこ殴ってたあのときか!」
ジペットが驚いたように話す。
「アイツがっ!?・・・嘘だろ。アイツはかれこれもう5年はここにいるんだぞ!?・・・いや、いい。あとでそいつからは情報を聞き出す。」
風路も事実を受け止めきれない様子だ。
……俺も勘違いしていた。
俺はてっきり、銃は風路からししゃも。がとっさに奪い取ったものだと思っていた。
ししゃも。の話が真実なら、『何者か』が計画的にししゃも。に銃を渡したことになる。
まだ子どもであるコイツに......。
俺はふつふつと湧いてくる怒りを抑えるために拳を強く握りしめる。
風路は咳払いをひとつして、ししゃも。を見据えた。
「で、お前はその銃を使って俺を脅して研究データの在りかを吐かせるように指示を受けたと?」
「最初は少し違った。ここに忍び込んで逃げた後、研究データが見つからなかったことをメールの人に報告したら、今度はリストが送られてきて・・・」
「リスト?」
「黒崎風路の人質として使えそうな人間のリスト。名前と住所、年齢、職業。あと、みっちーとの関係性が簡単に書いてあった。」
「下衆野郎が・・・。あと俺をみっちーと呼ぶな。」
「リストに載ってたのは、みっちーの昔の同級生や七代目黒崎組の連中、行きつけの居酒屋の店主とか。それと・・・燈真きゅん。」
俺?どうしてそこで俺が出てくるんだ!?
「教えてくれ!!!!みっちーはどうして俺のことをだいしゅきなんだ!!!?」
「いまそんなことはどうでもいいんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ししゃも。の怒号が響く。
「・・・っ!燈真に・・・みっちーと呼ばれるのは悪くない・・・っ。だが、叶うのであれば昔のように風路兄ちゃんと呼んでくれないだろうか・・・?」
「えっ・・・」
昔のように?俺にはそんな記憶はない。でも......
「かっ・・・風路……兄ちゃん…………///」
「いまその話はどうでもいいっつってんだろうが!!!!!!!!!!!!無理やり恋バナに持っていこうとすんじゃねぇ!!!!!!!!!」
「ししゃも。!こいつらは無視してそのまま話を続けてくれ!!!」
ジペットが頭を抱えている。
......舞い上がってしまっていた。
「クソがっ・・・!・・・・それで、ししゃも。はそのリストの中で一番取り入りやすそうな人が誰か確認したの。それが燈真きゅんだった。」
「俺!?」
……なんで俺なんだ?
「うん。年も近そうだったり、それよりなによりアホでチョロそうな顔してたから。」
「おい!!!」
「でもやっぱり人質を取るなんてところまで行っちゃったら、もう戻って来れないような気がして・・・。だからずっとどうしようか悩んでた。」
「ししゃも。・・・」
「そしたら、偶然・・・本当に偶然だった。昨日、駅前で燈真きゅんを見つけたの。」
「人質にする決心なんてついてなかった。でも、なにか運命的なものを感じて、とりあえずしばらく後をつけることにしたの。」
「でも途中で、『何やってるんだろうな自分』って思って、それで燈真きゅんのところからはいったん離れたの。」
「そうだったのか・・・。」
「うん。でも離れてすぐに七代目黒崎組の人たちに見つかって・・・。逃げた先に燈真きゅんがいて・・・。ぶつかって・・・。」
「なるほどな・・・。」
「ぶつかったのが腹立ったから、『やっぱこいつを巻き込んでやろう』と思って、そのあと燈真きゅんを探して見つけたの。」
「おい!悪意じゃねぇか!!!!!!!!」
「でもそのあとは・・・。燈真きゅんと話してたらやっぱり人質になんてできないって思ったから離れようとしたのに・・・。燈真きゅんが離れようとしてくれないからずるずるずるずる・・・。」
「それで今日になってジペッちょとゼロきゅんに出会って、急遽この事務所に乗り込むことになったからメールの人にそれを報告した。」
「そしたら、燈真きゅんも事務所に連れて行ってみっちーの目の前で脅して研究データを奪う作戦に変更になったの。銃の受け取りもそのとき指示された。」
「でも燈真きゅんをもう巻き込みたくなかったから、自分一人で解決しようと思ってみっちーに銃を向けた。・・・なのにみっちー全然動じないし。そしたらまた燈真きゅんが目の前に現れて、ししゃも。の予定は全部狂った。」
「なるほどな・・・。だいぶ見えてきてはいるが、まだ謎も多いな。」
ジペットが顎に手を当て、唸る。
俺も頷いた。確かに、引っかかることが多すぎる。
――だからこそ、俺は一つ、口を開いた。




