第63話 二回目
「おやっさん!」
「ったく、お前らは……。先輩を面倒ごとに駆り出しやがって。」
屈託のない笑顔で呼びかけるジペットに、おやっさんがめんどくさそうに小言を漏らす。
もう一回見たことがある光景だ。
事務所に出発する時間が少しズレたけど、大枠の流れは変わっていない。
事務所へは行かないことになったデジデジも、俺たちを見送ると言って外に出てきていたので、一緒におやっさんとの顔合わせをした。
デジデジが事務所に行かないと聞いたおやっさんは、
「さっきと話が違うじゃねーか!」
と眉間にシワを寄せながらジペットやゼロを叱りつける。一通り文句を言い終えると疲れたと言わんばかりに大きめのため息をつく。そのあとのおやっさんはどこか安心したような表情に見えた。
やっぱり俺たち未成年を現場に連れていくことに抵抗があったんだろう。
少しでも負担が減ってよかったってことなのかもしれない。
おやっさんとのあいさつを終えた俺たちは車に乗り込む。
シートベルトをつけて一息つき、窓の外を見る。おやっさんがほかの公安部隊の人間に指示を出していた。
これもすでに見た光景だが、今回はそこにデジデジの姿が見えた。
もうあいつが銃で撃たれて死ぬ未来なんて来ない。
以前より広く使える車内のシートを手のひらで撫でながら、少しだけ安心する。
それと同時に、視界の遠くに小さく映るデジデジの姿を見ると、一人だけ除け者にしてしまったように感じて居心地が悪い。
目を背けようとしたとき、ちょうどデジデジと目が合った。
デジデジはニコっと目を細めて優しそうな顔で笑うと、俺に手を振ってくる。
それを見ただけで居心地の悪さがなりをひそめた。
俺もできる限りの笑顔で手をふり返す。
待っててくれ。お前の未来は俺が必ず守るから!
・・・・・・
出発する車。
おやっさんからの説明。
流れていく景色。
全部経験済みだ。
俺は未来が変に変わってしまうことを防ぐため、以前の俺の行動をなぞるようにして過ごす。
…問題はししゃも。をどうするかだ。
昨日お風呂に入ったときにししゃも。の私物は確かめてある。
"少なくとも"銃は持っていなかった。
となると、ししゃも。が風路から銃を奪ったというのは本当だろう。
だとすると、ししゃも。自身の安全を考えるなら俺も一緒に事務所に行ったほうがいいのか?
…いや、俺が銃声を聞いて駆けつけるまではししゃも。もジペットもゼロも、みんな無事ではあった。
下手に動いたら今度はゼロやジペットが危険な目に遭うかもしれない。
それに前は動揺して動けなかったけど、俺の運動神経ならししゃも。から銃を奪うこともできるだろう。
よし...。
俺は前回と同じタイミングで乗り込む覚悟を決めて、拳をギュッと強く握りしめた。
やがて車は見覚えのあるビルの前で停車した。
「着いたぞ。」
おやっさんの無機質な声を聞いて、再び気を引き締める。
事務所に向かうジペットとゼロ。すぐに戻ってくる二人。おやっさんのため息。
すべてが俺の記憶通りに進んでいく。
もうししゃも。が事務所に乗り込むフェーズだ。
「燈真きゅん、心配しないで。ししゃも。は大丈夫だから。」
ししゃも。も、ほんの少し不安そうにしながら、それでも笑おうとしていた。
思い返してみると、最初の世界でししゃも。の笑顔を見たのはこれが最後だった。
だってそのあとはずっと気が張り詰めていて、ずっと苦しそうで...。
なぁ、どうしてなんだししゃも。......どうしてお前は・・・。
急に胸が締め付けられたように苦しい。目尻に涙がたまる。
ダメだ。こんなタイミングで泣いたら未来に影響が出るかもしれない。
「…………わかった。無理はしないでくれよ。」
涙が出るのを堪え、ようやく絞り出した俺の言葉は思っていたより小さかった。
「……うん。」
ししゃも。が、きゅっと唇を結んでうなずく。
おやっさんは全員の顔をざっと見回してから、短く息を吸った。
「……よし。作戦決行だ! 各員、配置につけ!!」




