第60話 このままだとまた死にます
「...さっき、時間が巻き戻ったと伝えましたが、それはもう大丈夫ですか?」
Gが問いかけてくる。たぶん俺がどこまで把握できたのか、どこまで信じられたのかを確認したいんだろう。
「それはもう大丈夫だ。デジデジが生きてたから。」
「...そうですか。じゃあ未来について話しましょう。このままだと、デジデジさんはまた死んでしまいます。」
「...!!」
なにも誤魔化そうとしない直接的な言葉が俺の心臓をグシャリと握りつぶす。
「なっ!なんでだよっ!!アイツせっかく生きてるのに!!」
動揺して大きな声がでる。
「...落ち着いてください。"このままなにもしなければ"の話です。」
「・・・未来は変えられるってことか?」
俺は一呼吸置いてから、縋るような気持ちで問い返す。
「...はい。変えられます。」
「そ...そうか......。」
Gからの言葉を聞いて、身体からスーッと力が抜けていくのがわかった。肩あたりが痛い。相当力が入っていたらしい。
「...でも、変えられるかどうかは燈真先輩次第です。」
「俺!?」
また肩に力が入る。
「...さっきの電話で伝えましたが、あの未来のことはほとんど誰も覚えていません。...一部例外はいますが。
…なので、あの未来を知っている僕たちが行動を変えなければ、同じ未来になるだけです。」
言われてみればそうだ。さっきみんなと話した感じからしても、みんなはあの未来のことは全然覚えていないようだった。
「じゃあ、事務所に行くのをやめればいいのか?」
「...そうですね。...その方が安全ではあると思うんですけど...」
Gはどこか煮え切らない。
「...なにか問題があるのか?」
「...はい。...まず言っておきたいのですが、変えられる未来と変えられない未来があります。」
「待ってくれ!デジデジの未来は変えられるんだよな!?」
「…はい。...燈真先輩次第ですが。
僕たち自身の未来を変えるのは簡単です。デジデジさんは今燈真先輩の近くにいるので、未来に介入しやすいです。」
「ならよかった...。じゃあ変えられないって言うのは?」
「例えば自然災害とか。...後は物理的に回避できないものとか。」
「物理的?」
「...物が落ちていくとかそういう話です。落ちていくものをキャッチできればそのもの自体の未来...つまり落ちて壊れることを回避できるかもしれません。...でもすでに落ち始めているものを落ち始める前の状態にすることはできません。」
「・・・なるほど...な?」
半分わかったようなわからないような。
もう一度Gの言葉を反芻して理解しようとする。
「……つまり、間に合わない可能性もあるってことか」
「...そういうことです。」
その一言で身が引き締まる。
「...それで、問題はここからです。考えたくないですが、もしかしたらもう銃の引き金は引かれた後かもしれないです。」
「え!?」
喉が締め付けられるような感覚。
「...あっ、デジデジさんだけの話じゃないです。デジデジさんを助けたその先の話です。...燈真先輩も見ましたよね?未来のあの街の様子を。」
一気にあの赤く染まった街の光景が蘇り、寒気がしてくる。
そうか。もし無事にデジデジを助けられたとしても、またあの未来になるならみんな無事でいられるかわからない。
「・・・あれはいったい...なんだったんだ?」
「...僕にも正確なことはわかりません。...なんの前触れもなくああなりましたから。
...でもいくつか推測できることがあります。」
「なんだ?」
「...僕は最初、半グレ組織とかの集団暴行事件だと思ったんですけど、それは違うかと。...全くそんな組織とは無関係な人が暴行や犯罪を犯しているところを見ましたから。」
確かに。
あの街の光景を思い出してみると、スーツを着たサラリーマンや身なりの整った若い女性、買い物途中の主婦のような人までもが暴行に及んでいた。全てを半グレ組織として括るには無理がある。
でもそんなに属性にまとまりがない集団なんてあるか?
会社員から主婦、フリーターまで......幅広い人が集まっている組織...
もしかして……。
俺の中で、嫌な連想が浮かび上がる。
「宗教団体...か?」
"宗教"というフレーズがスッと出てきたのは、この前ジペットたちに話を聞いていたからかもしれない。
「...その可能性は高いです。...昔の事件で宗教団体が同時多発的に無差別テロを起こしたっていうのもありましたし。でも...」
そのままGはしばらく無言になる。なにか考え込んでいるのかもしれない。
「どうしたんだ?」
「...いえ。...今は....なんでもないです。...話を戻します。....もしあれが宗教団体による犯行だとすると、その宗教団体がどこかって話になるんですが...。僕の記憶と燈真先輩の記憶を照らし合わせると、『真世教団』の可能性が濃厚です。」
「やっぱりな...」
という感想しか出てこなかった。
なぜかはわからないが、そうなる予感がしていた。
「ん?俺の記憶を照らし合わせる?」
考えてみたらおかしい。
なんでこいつはデジデジのことを知ってたんだ?そんな話はした覚えがない。それだけじゃない。どうして俺の状況をこんなに細かく把握してる?
「どうして俺が話してないことまで、お前が知ってるんだ?」
疑問をそのまま口にする。背筋をひやっとしたものが流れた気がする。
一拍、Gからの応答が遅れる。
「...まだ言ってませんでしたね。」
俺はため唾をのんでGの次の言葉を待った。




