第5話 痛いの痛いの飛んでけぇ
「いい大人が3人がかりで子どもいじめてんじゃねぇよ!!!」
俺が言い放つと同時に、先ほど宙を舞っていた男がドサリと空から落ちてきた。どうやら既に意識はないようだ。
残った二人の男たちは、地面に伏した仲間と俺を交互に見比べ、呆気にとられている。
「(いったい今何が起きた……!? こいつはいつからそこにいた……!?)」
声なき声が聞こえてくるようだった。
「聞いてんのかこのハゲーーーー!!!!」
「ぐふぉおおおお!!!!!!!!!」
俺に胸倉を掴まれ、豪快に投げ飛ばされた男が再び宙を舞う。
圧倒的な暴力。理不尽なまでの怪力。残された最後の一人は、瞬時に状況を悟ったようだ。
「(やばい……! 早く逃げねぇと!!)」
男は俺たちに背を向けて走り出す。
「逃がすかよ!!!!」
「(・・・・・なんでっ!?)」
男が振り返ると、そこにはすでに俺がいた。逃げたはずの背後に、すかさず回り込んでいたのだ。
「お前も吹っ飛べぇ!!!!!!」
ドガァッ!!
最後の男が宙を舞い、数メートル先に無様に転がった。
「・・・・なに・・・・これ・・・・??」
倒れていた少年は、口をあんぐりと開けて目の前の信じられない光景を見つめている。
俺はパンパンと手の埃を払うと、少年に近づいた。
「おい、お前大丈夫か!?」
「へ・・・? ......大丈夫」
「そうか、ならよかった。警察が来たら面倒だからとりあえず逃げるぞ!」
言うが早いか、俺は少年を米俵のように肩に担ぎ上げた。
「ちょっ待って!!!! 速い速い速いっ!!!!!! おかしいだろ!! 死ぬーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は車よりも速いスピードで走り出す。風が俺たちの髪を滅茶苦茶にかき乱す。
「うるせぇ! 今は黙ってろ!!」
「死ぬーーーーっ!!! 殺されるーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
***
数分走った後、静かな住宅街にある小さな公園に到着した。
俺は肩に担いでいた少年をベンチに座らせる。
「ここまでくればたぶん大丈夫だろう」
「死ぬ・・・死ぬ・・・死ぬ・・・」
少年は目を回している。完全にグロッキーだ。
「おい大丈夫か? しっかりしろ!」
ペチンッ!
俺は少年の頭を軽く叩いた。
「・・・はっ!」
少年はハッとして正気を取り戻したようだ。きょろきょろと辺りを見回す。
「・・・ここは?」
「わかんねぇけど駅とは反対方向に走ってきた。もしかしたら別の駅の方がもう近いかもしれねぇな」
「・・・そう。あいつらは・・・?」
「さっきのスーツ着た男達か? 全員ぶん投げたら大人しくなったぞ。たぶん死んではねぇよ。腰とかは痛めてるかもしれねぇけど」
俺は事もなげに言う。少年は信じられないものを見るような目で俺を見つめた。
「・・・そう。ねぇなんで・・痛っ!!」
少年はまだなにか聞きたい様子だったが、ケガした両足に痛みを感じて顔を歪めた。
「大丈夫か!? ちょっと見せてみろ」
俺は少年の前にしゃがみ込み、傷だらけの足を見る。
「・・・・うわぁ・・・結構ひでぇな。擦り傷だけじゃなくてぱっくり切れて肉まで見えてるところがある。転んだ時になんか鋭いもんに引っ掛かったんだろうな」
「・・・・・」
少年は自身の怪我を見ている俺の顔を黙って見つめている。
(こんくらいなら舐めれば治りそうだけど・・・。なんかコイツの足舐めるのは抵抗あるな)
俺は心の中で呟く。
「痛っ・・・・!」
「痛ぇよな・・・。しょうがねぇ俺がおまじないをかけてやる」
「え?」
「行くぞ・・・! 痛いの痛いのぉ~飛んでけぇ~!!!」
「ちょっ待って! 恥ずかしすぎるんですけど!!?」
公園中に響き渡る大声。少年は顔を真っ赤にして抗議する。
「痛いの痛いのぉ~飛んでけぇ~!!!」
「ねぇヤダ声デカい! ハズい無理死ぬ!!!」
「痛いの痛いのぉ~・・・飛んでけぇ~!!!」
「どんだけ~~~~っ!!!!!!!!!!」




