第58話 吉報
「ぐあああああああああ!!!!」
喉に突き刺さった異物に抗うために、自分の喉を両手で締め付けながら精一杯声を荒らげる。
「燈真先輩っ!落ち着いてください!喉には何も刺さってません!」
「っ!!」
聞こえてきたかすかな声にすがるように、自分の喉元を指先で探る。
声の言う通り、俺の喉元には何も突き刺さっていなかった。
なにがどうなってるんだ...!?
颯真は!?...ここはどこだ!?
「...安心してください。颯真は無事で何ともないです。
ここは燈真先輩の家の中。」
言葉を頼りに改めて自分の身体を確認する。
どこにも怪我はないし、汚れてもいない。
辺りを見渡す。
…確かにここは俺の家の空き部屋だ。
俺は夢をみていたのか...?
そう考えたかったが、俺の頭の中に不気味なぐらいはっきりと存在している記憶がそれをすぐに否定する。
自分の喉に包丁が突き刺さった感覚も、男を殴り続けた拳の感覚も鮮明に覚えている。
受け入れたくはない。
でも、あれは確かに現実そのものだった。
「…少しは落ち着きましたか?」
「…あぁ。」
スマホ越しの少年、Gが、俺を心配そうな目で見つめている。
これ以上心配は掛けたくない。
それに、俺はGから話を聞かなければいけない。
コイツは今起こったことが何なのかを知っている。
確証はない。でも俺の心情を事細かに察して、最短ルートで俺の知りたい情報を提示してきたコイツが、何も知らないわけはないだろう。
「教えてくれ。何が起きてるんだ?」
「...はい。先に一番大事な部分だけ伝えます...。世界が改変されて、時間が巻き戻りました。」
到底信じられる話ではないだろう。
でも俺は、それをすんなり受け入れた。
だって俺は、一度世界がおかしくなったのを経験しているから。
「巻き戻ったってことは...」
「...はい。誰も死んでないし、誰も傷ついてません。颯真も燈真先輩のご両親も何事もないです。......デジデジさんも生きています。」
「!!」
Gからのそのたった一言で、足の先から頭のてっぺんまで、一気に熱い何かが駆け巡る。この感覚が何なのかがあまりに急な出来事で理解できない。
「...行ってきてください。」
「...え?」
「みんなの無事を確かめたいんですよね?みんなに会ってきてください。...もちろん、デジデジさんにも。...今は燈真先輩の部屋にいるはずです。...僕の話はその後で大丈夫です。」
Gのその言葉でさっきの感覚が何なのかがやっとわかった。
これは”喜び”だ!デジデジが生きてる!!
「...でも、まだあまり今起こったことの話はしないでください。
みんな覚えていないし、混乱させてしまうだけなので。」
「ごめんっ!ちょっと行ってくる!!」
「はい...。」
俺はGに申し訳なさを感じつつ、テレビ通話を切ってすぐにデジデジがいる部屋へ走った。
「デジデジっ!!」
俺は勢いのまま部屋の扉を開けながら、デジデジの名前を叫ぶ。
「燈真君っ!?」
...デジデジだ。
豆鉄砲食らった鳩みたいな顔で、何事もない素振りで、デジデジがそこにいる!
確かにそこにいる!!
「デジデジっ!!」
溢れ出した感情が、涙になって漏れ出てくる。
俺はズカズカとほかのものは気にせず一直線にデジデジのもとにいって、その身体を抱きしめた。
「ちょっ燈真君っ!?ホントにどうしたの??」
「よかった……!! お前、ちゃんと生きてるっ!!」
服の上からじんわりとデジデジの体温を感じる。
生きてる!ちゃんと生きてる!!
胸の奥で、やっと心臓が落ち着くのを感じた。
「生きてるに決まってるでしょ?笑
もしかして怖い夢でも見たの?
よしよし。」
デジデジが俺の背に手をまわしてぽんぽんと叩いて撫でてくれる。
照れくさいとかそんな感情は微塵も起きない。
今はただ、デジデジとこうして触れ合えていることが何よりも嬉しい。




