第40話 世界の影響
「ふぅ……。僕たちは気持ち的にすごく楽なんだけど、ししゃも。とデイジーは大変かも。」
ゼロが、少しだけ肩の力を抜いた声で言う。
「そうだな。」
ジペットが短く相槌を打つ。
「へ?」
唐突に出てきた名前に顔を上げる。
「ぼくたちは外側の世界の記憶があるから、ある意味でいまこの世界の中の自分たち自身のことを客観視してるんだよ。」
ゼロが淡々と続ける。
「この世界で何か嫌なことがあっても、最終的には元の世界に戻るからな。」
ジペットが言葉を継ぐ。
「でも、あの子たちは違う。あの子たちの感覚は、きみがこの世界を生きる感覚となんら変わらない。」
ゼロは続ける。
「辛い過去を経験して、いまどんなにつらい状況に陥っていようが、どうしようもなく今を生きていかなければいけない。」
「しかも、何の因果かアイツらは相当嫌なくじを引いちまったみたいだな。」
ジペットが、短い溜息が混じった声を差し込む。
「もし俺たちが“お前らはこの世界の外側から来た。だからこの世界で起こっていることなんて何も気にしなくていい”なんて言ったところで、到底信じられる話でもないだろう。」
ジペットが肩をすくめる。
「そう……だな……。」
いまの自分に置き換えてみれば、それがどれだけ現実味のない話か、すぐわかる。
「それに、今回二人は外側の世界の記憶を失ってしまっている。これは結構危険なんだ。」
ゼロの声が少しだけ低くなる。
「危険?」
思わず聞き返す。
「多少のことであれば問題ないんだけど、もしこの世界で大きな精神的ショックや心的外傷を受けると、外側の世界に戻ったときにその影響を受ける恐れが非常に高くなる。」
ゼロが淡々と告げる。
「……影響を受けるとどうなるんだ?」
息を飲みながら問い返した。
「外側の世界でも同じ心的外傷を負うことになる。そして別世界の記憶が色濃く残ってしまうことで現実と虚構の区別がつきにくくなる。結果的に無気力や鬱、過覚醒症状などを引き起こす。アイツらにとっての現実世界での生活に大きな支障をきたすことになるかもしれないんだ。」
今度はジペットが、真面目な口調で説明する。
「そんな……やべぇじゃねぇかよ!」
ぞくりと背筋が冷える。
「うん。だからぼくたちはあの子たちがこれ以上悪い方向に進まないように対処しなくちゃ。」
ゼロがきっぱりと言う。
「要は、今朝の事件を含めて俺たちでサクッと解決して、アイツらに平穏な生活を取り戻してやろうぜってことだな!」
ジペットが、わざと軽い調子でまとめる。
その言い方があまりに軽くて、でも頼もしくて、俺の心も少し軽くなった気がした。
「……そうだな! わかったぜ!!!」
「おう! 燃えてきたな!」
ジペットがニッと笑う。
「よしっ……!」
グッと拳を握りしめたところで、ふと気になっていたことを思い出す。
「ん? そういえば、ししゃも。に関しては悪い状況だって言うのはわかるんだけどよ。デジデジもなんかあんのか?」
そう問いかけると――
「…………。」
ふたりの間に、さっきとは違う種類の沈黙が落ちた。
「ん?」
思わず顔を見比べる。
「いやな、俺たちから言っちまってもいいような気もするが……。お前、デジデジとは友だちか?」
ジペットが慎重に言葉を選びながら聞いてくる。
「おう! そうだな! まだ出会ったばっかりだけどよ! 俺は……その……友だちだと思ってるぜ!」
正面から問われて、正直に答える。
「そうか。だったら俺たちの口から話すのは違うな。」
ジペットが少しだけ目尻を落として微笑む。
「そうだね。きみはデイジーと話して、直接彼の気持ちを聞いた方がいいかもしれないね。」
ゼロが穏やかに続ける。
「そうか……。そうだな! そうするぜ。」
後でデジデジと話してみよう。
「よしっ。そろそろ部屋に戻るか。アイツら放置してるからな。」
ジペットが立ち上がりながら言う。
「そうだな!」
俺も椅子を引いて立ち上がる。三人で並んでリビングを出て、廊下を歩き、自分の部屋の前まで戻ってくる。
ガタガタドカドカドサッ!!
妙な物音が、ドアの向こうから聞こえた。
「んー?」
ドアノブに手をかけながら首を傾げる。
………。




