第37話 世界の外側
リビングには、さっきまでのバタバタが嘘みたいに静かな空気が漂っていた。テーブルをはさんで向かい合い、俺はずっと気になっていたことを切り出す。
「で、話って言うのはなんなんだ?」
真正面に座った革ジャンが腕を組む。
「そうだな!……ゼロ、なにから伝えればいいんだな!?」
ゼロは、顎に指を当ててしばらく考え込んでいた。
「うーん……」
「……なんだよ??」
焦れた声が勝手に出る。
「先に前置きをしておくと、今からぼくたちが話す内容は信じられないことかもしれない。」
淡々とした声が、妙に静かに響いた。
「でも、きみならたぶんわかってくれると思うから話すんだ。」
「……なんなんだ!? もったいぶらないで教えてくれよ!」
そこまで言うならさっさと言え、という気持ちが抑えきれない。
「そうだな。まず先に伝えておくと、“俺たちはこの世界の外側から来た”。」
「……は?」
あまりにもぶっ飛んだ一言に、頭の中が一瞬で真っ白になる。
「何言ってるのって感じだよね。でもきみは信じられるはずだよ。だって、いまこの世界でそういう不可解な出来事に遭遇してるから。そうだよね??」
その言葉に、胸の奥でこじあけられたみたいに、ぐっと何かがこみあげてきた。
「あっ、あぁ! そう、そうなんだ!! いまなんかおかしなことになってるんだ!!」
言葉が止まらなくなる。
「コウがっ、須戸コウがいねぇんだ! 急にいなくなっちまった! なのにA太もB斗もほかのやつらもなんかあいつのこと忘れちまってるし、あいつと一緒に撮ったはずの写真もないしっ! あいつがいた形跡が何もかもなくなっちまってて……!」
そこまで一気に吐き出して、喉がひりひりした。
「唯一あいつのこと覚えてたクソ兄貴とはギクシャクしちまってて、もう全然その話もできてねぇし……!」
指先が震える。胸の奥で、ずっと押し込めてたものがぽろぽろこぼれ落ちていく。
「どんどんアイツの存在が薄れていってる気がして……! それで俺、俺っ……! おかしいのは俺の方なのかなってちょっと思っちまった……。」
言えば言うほど、情けなさも込み上げてきて、でも止まらない。
「でも違ぇんだよな!? お前はアイツのこと知ってるんだろう? 覚えてるんだろう!? なぁ、アイツちゃんといるんだよな!!??」
必死に縋るような声になっていた。
「安心して。マスターは……須戸コウはちゃんと“存在”しているよ。」
その言葉が降ってきた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
「……………よかった……っ……よか゛っ゛た゛ぁああ!!!」
変な声のまま大きく泣き出していた。情けないとか恥ずかしいとか、そのへんの感情は全部どこかに吹っ飛んでいた。
「今までよく一人で頑張ってきたな! 大丈夫だ、これからは俺たちもついてる! お前を一人にはさせないぜ。」
背中に大きな手のひらがあたたかく触れる。
「ほら、いい子いい子。もう泣かないよ。」
頭にも、優しい手が乗った。
「……………だっでぇ!!……っ……ほん゛とによか゛っ゛た゛ぁああああ!!!!!」
さすられる背中と、なでられる頭。その全部が、今の俺にはありがたかった。




