第2話 ・・・ユルサナイ
突然の不運に見舞われたものの、しばらく辺りを散策していたらだいぶ落ち着いてきた。
とりあえず気晴らしにカフェに行きたい。
検索すると一番近くには評判の高い店があるようだったが、ハードルが高すぎる気がして、少し離れたチェーン店に向かうことにした。
名前の知らない店に一人で入るのは、元ぼっちだった俺にはまだ敷居が高い。
「えっと……ストロベルっ! ストロベリーチョコレートクリームフラペチーノ……」
レジ前で冷や汗をかきながら、なんとか呪文のような注文を終えた俺は、商品を受け取ると逃げるようにカウンター席に腰掛けた。
どっと疲れが出た。
(やったぁ! ちゃんと買えたぞ!! あっ・・・そうだ写真撮っておこう)
俺はパシャリと写真を撮った後、自身のSNSに画像を投稿した。
数分後、すぐに投稿にコメントが付く。
『いちごが甘酸っぱくておいしそう。燈真がカフェに行くなんて珍しいね』
投稿者の名前は『KR』。
プロフィール欄や過去のやり取りを見て、俺は息をのんだ。
「これ……玲か!?」
思わず声が漏れ、周りの客から怪訝な顔をされる。俺は小さく頭を下げた。
如月玲。俺の高校の同級生でイケメンなやつだ。
俺たちは友だちだったはずなのに、世界がおかしくなってからはなぜか玲が俺の恋人ってことになっていた...。
(この感じはぜってぇ玲だよな・・・。どうなってんだよ! やっぱ俺たち付き合ってることになってんのかよ……)
胸がざわつく。
やはり、おかしいのは俺の方なのだろうか。
(いや! おかしいのは俺じゃない!! コウは絶対いたはずなんだ!)
思考を切り替えるために、俺は別の可能性を探る。
自身のチビッターアカウントのフォロワー一覧をスクロールして物色するが、やはり『須戸コウ』のアカウントは見つからない。
「はぁ・・・」
大きくため息をつく。
やるせない気持ちでふと顔を上げ、ガラス窓の向こうを見た――その時だった。
ガラスにべったりと張り付く、二つの眼球と目があった。
「うわぁ!!!」
思わず大きな声を漏らす。
先ほどぶつかってきた少年が、窓ガラスに顔を押し付け、俺を睨みつけていたのだ。
「ヤットミツケタ・・・ユルサナイ・・・ッ!!」
ガラス越しに怨嗟の声が聞こえた気がした。
俺の心臓が早鐘を打つ。
(やべぇ! あいつ店の中に入ってくる!!)
少年が入り口へ向かうのが見えた。
俺は飲みかけのカップをトレイごと返却口へ....いやもったいない!
急いで全部飲み干すと脱兎のごとく席を立つ。
入れ違いで店に入ってきた少年が、キョロキョロと獲物を探している。
俺は身をかがめ、棚の影に隠れながら、少年の背後を通って出入口の方へ向かう。
頼む、バレないでくれ……!
あと少し、もうすぐ店を出るという寸前のところで――
少年の眼球がギョロリと動き、俺の姿を捕らえた。
「ミーーーツケ・・・タ・・・・・!!!」
「ふぃぎきゅあっ!!」
俺は店を出ると全力で走りだした。
背後から、何かが追いかけてくる気配がする。




