第26話 愛してるよ
「あのよぉ・・・急に変なこと聞くけど、10年ぐらい前に白波アクアランド水族館ですげぇ嫌な事件があったのってお前、知ってる?」
俺は少しだけ声をひそめて尋ねた。
「え?・・・あぁ、確かあったね。結構ひどい内容だったから覚えてるよ。生きたままピラニアみたいな人食い魚の水槽に人を落として殺したってやつだよね。」
「そ、そう!それだ!!」
(やっぱりししゃも。が言ってた事件はホントにあったのか・・・)
「酷い事件だったし、たまに動画サイトとかで特集されてるのを少しだけ見たことあるな。確か犯人はまだ捕まってなくて・・・ただ、結構現場とか荒らされたままになってて、犯人につながりそうな証拠もたくさん残ってただろうって。」
「そうなのか?」
「うん。現場の状況と被害状況から見て複数犯による組織的な犯行だって言われてて・・・。」
「・・・」
「証拠もあるのにいまだに犯人が捕まってないのと、悲惨な殺し方とかから考えると、暴力団とかテロ組織とかの犯行じゃないかって噂みたい。」
「噂・・・」
「あくまでネット上の噂だからどこまで信ぴょう性があるかはわからないけど。」
「そうか・・・」
(ししゃも。が話してくれた内容と一致してるな・・・。そうすると、やっぱり今日アイツを追いかけてきたやつらが昔ししゃも。の両親を殺したやつらなのか・・・?だとしたらもしアイツらにししゃも。が捕まったら・・・)
背中を汗がつうっと伝う感覚がして、思わず喉が鳴った。
「ねぇ燈真・・・。俺、なんかすごーく不安になってるんだけど・・・。もしかしてそうとうヤバいことに首突っ込んだりしてないよね・・・?」
「そそそそそんなことっ!そそそんなことねぇぞぉ!??」
声が裏返りまくって、我ながら誤魔化し方が下手すぎる。
「ふーん・・・。まぁいいや。わかった。」
「あっ、あとよぉ!前も聞いたかもしんねぇけど、冬海の家の事件・・・は起こってないんだよな?」
話題を無理やり変えるようにして、前から気になっていたことを口にする。
冬海...B斗とC名は俺の友だちだ。
「えっと・・・B斗たちの家族や使用人さんたちが殺されたって言ってた事件??・・・そうだね、B斗のおじいちゃんも現役で冬海製薬の会長を務めているし、お父さんも社長のはずだよ。何より、C名とは燈真も学校で顔合わせてるでしょ?」
「そう・・・だな。そうだよな、わかった。」
(少なくともこの世界では、その事件はまだ「起きてない」ってことか…)
「ねぇ燈真やっぱりなんか危な」
「あっ!!じゃあそろそろ寝るかな!?」
慌てて言葉をかぶせる。
「・・・・もう。今日はいつもよりずいぶん早いね。」
「あっ、いや・・・今日出かけてて疲れたからよ!」
「・・・わかった。ゆっくり休んでね。」
「おう、ありがとう。」
「じゃあお休み、燈真。愛してるよ。」
「おやす・・・あっ愛!?あいしっ!??」
布団の上で変な体勢になりながら、情けない声が出る。
「もういい加減慣れてよ。笑」
「・・・」
「おやすみ。」
「お、おう・・・おやすみ・・・///」
通話終了。
スマホの画面が暗くなったあとも、しばらく耳の奥で「愛してるよ」が反響していた。
「うぅ!!俺、アイツに愛されちまってるぅ!!イケメンに愛されちまってるうぅぅ!!!!」
俺はベッドの上で枕を抱きしめ、なぜかシーツに爪を立てて引っ掻きながら悶絶する。
「心臓がもたねぇ!!!くぅ!!!!!」
「なにしてんの?きっしょ・・・」
ふと視界の端に人影が立っていて、顔を上げると、部屋の入り口にししゃも。が立っていた。髪が少しだけ湿っていて、母ちゃんが用意したらしいパジャマを着ている。




