第1話 このハゲーーー!!!
(今日はあんまり行かねぇ方に行ってみるか……)
商業施設や大きなゲームセンターを尻目に、栄えている駅周辺から離れるように歩を進める。
喧噪が遠のき、人通りがまばらになっていく。
(ちょっと駅から離れただけで、この辺なんもなくなるんだな……)
ぼんやりと考えていた、その時だった。
「……いてーー……!」
「ん? なんだ??」
「……どいてーーーーーーーーっ!!」
背後から、少年なのかおっさんなのか判別がつかない叫び声が、猛スピードで近づいてくるのがわかった。
(なんかめっちゃ走ってきてる……!?)
振り返ると、その叫び声の主は俺より幾分か若く見える少年のようだった。
彼は必死の形相で、一直線に俺に向かってきている。
中学生ぐらいだろうか?青色の半ズボンに灰色の半袖ジャケット。ジャケットの下には赤色のフード付きパーカーが見える。
あどけなさが残る顔立ちで、瞳が大きく、宝石のように輝いている。かわいらしい見た目だ。
「どけっつってんだろうっ!! このハゲーーーーーーーーーっ!!!!」
「はぁ!?」
前言撤回。可愛くない!!
突然の暴言。俺は不服な表情を隠さず、ただ少年とぶつからないように道の隅に体を寄せる。
だが、少年はなぜか俺の動きに合わせて方向転換し、そのまま突っ込んでくる。
「急に避けるなーーーーっ!!!!」
ドガッ!
鈍い音が響き、二人の体が交錯した。俺は軽くよろけた程度で済んだが、少年の方は大きく吹き飛ばされ、地面に無様に転がった。
「痛ーーーーいっ!!! もう最悪!!! なんでいつもししゃも。ばっかり・・・・っ!」
「お、おい、大丈夫か??」
派手な転び方だったため、俺は慌てて声をかけた。だが少年は涙目で食って掛かってきた。
「大丈夫なワケねぇだろうがぁ!!!! ししゃも。が避けようとしたのにぽ前が急に動くからぁ!!!」
「んがぁ!?」
一人称 ”ししゃも。” !?
人を ”ぽ前” 呼び!?随分キャラが濃いやつだな...。
「お前どう考えても俺が避けた後に方向変えやがったじゃねぇか!」
「だからししゃも。が避けようとしたのにぽ前が動いたんだろうが!!! だいたい道の真ん……」
「いたぞ! こっちだ!!」
少年の喚き声を遮るように、野太い怒声が響いた。
見ると、黒服を着た男たちが5、6人、血相を変えて走ってくる。
男たちの顔は怒り心頭っといった具合で、キリっとしたスーツには似つかない形相をしている。
「待てクソガキっ!!」
「ぶっ殺してやるっ!」
「あああああああああああっ!!!! ぽ前のせいでぇ!!!!!!!!!!!!!!」
少年は悲鳴を上げると、一目散に走り出した。その後ろを黒服の男たちが怒涛の勢いで追いかけていく。
嵐のような集団はすぐに路地を回り込み、あっという間に見えなくなった。
「……なんだったんだ……??」
取り残された俺は、呆然とその場に立ち尽くしていた。
まさかこの最悪の出会いが、俺の運命を変えるなんて。この時の俺はまだ知る由もなかった――




