第1話 このハゲーーー!!!
◇ ◇ ◇
これは夢だと思う。
そうじゃなきゃ、この記憶が自分の中に残っている理由が説明できない。
俺はぼーっと、ニュースを眺めている。
「続いてのニュースです。先日、K県の白波アクアランド水族館のカンディル水槽内で10代の男性とみられる遺体が発見された件に関して、その男性が都内の養護施設で行方不明になっていた14歳の少年のものである可能性が高いことが警察の調べで明らかになりました。」
俺はそのニュースから、なぜか目を離せなかった。
——理由は分からない。
ただ、
胸の奥が気持ち悪くなる。
男性のアナウンサーがなんの感情もないような声で、ただ淡々と事実だけを並べていく。
「遺体の司法解剖の結果、体内に侵入したカンディルに内蔵を傷つけられたことによるショックが死因と見られています。」
「警察では今回の件が事件と事故の両方の可能性があるとして、少年が施設から行方不明になっていた経緯も含めて現在も捜査が続けられています。」
◇ ◇ ◇
(今日はあんまり行かねぇ方に行ってみるか……)
商業施設や大きなゲームセンターを尻目に、栄えている駅周辺から離れるように歩を進める。
喧噪が遠のき、人通りがまばらになっていく。
(ちょっと駅から離れただけで、この辺なんもなくなるんだな……)
ぼんやりと考えていた、その時だった。
「……いてーー……!」
「ん? なんだ??」
「……どいてーーーーーーーーっ!!」
背後から、少年なのかおっさんなのか判別がつかない叫び声が、猛スピードで近づいてくるのがわかった。
(なんかめっちゃ走ってきてる……!?)
振り返ると、その叫び声の主は俺より幾分か若く見える少年のようだった。
彼は必死の形相で、一直線に俺に向かってきている。
中学生ぐらいだろうか?青色の半ズボンに灰色の半袖ジャケット。ジャケットの下には赤色のフード付きパーカーが見える。
あどけなさが残る顔立ちで、瞳が大きく、宝石のように輝いている。かわいらしい見た目だ。
「どけっつってんだろうっ!! このハゲーーーーーーーーーっ!!!!」
「はぁ!?」
前言撤回。可愛くない!!
突然の暴言。俺は不服な表情を隠さず、ただ少年とぶつからないように道の隅に体を寄せる。
だが、少年はなぜか俺の動きに合わせて方向転換し、そのまま突っ込んでくる。
「急に避けるなーーーーっ!!!!」
ドガッ!
鈍い音が響き、二人の体が交錯した。俺は軽くよろけた程度で済んだが、少年の方は大きく吹き飛ばされ、地面に無様に転がった。
「痛ーーーーいっ!!! もう最悪!!! なんでいつもししゃも。ばっかり・・・・っ!」
「お、おい、大丈夫か??」
派手な転び方だったため、俺は慌てて声をかけた。だが少年は涙目で食って掛かってきた。
「大丈夫なワケねぇだろうがぁ!!!! ししゃも。が避けようとしたのにぽ前が急に動くからぁ!!!」
「んがぁ!?」
一人称 ”ししゃも。” !?
人を ”ぽ前” 呼び!?随分キャラが濃いやつだな...。
「お前どう考えても俺が避けた後に方向変えやがったじゃねぇか!」
「だからししゃも。が避けようとしたのにぽ前が動いたんだろうが!!! だいたい道の真ん……」
「いたぞ! こっちだ!!」
少年の喚き声を遮るように、野太い怒声が響いた。
見ると、黒服を着た男たちが5、6人、血相を変えて走ってくる。
男たちの顔は怒り心頭っといった具合で、キリっとしたスーツには似つかない形相をしている。
「待てクソガキっ!!」
「ぶっ殺してやるっ!」
「あああああああああああっ!!!! ぽ前のせいでぇ!!!!!!!!!!!!!!」
少年は悲鳴を上げると、一目散に走り出した。その後ろを黒服の男たちが怒涛の勢いで追いかけていく。
嵐のような集団はすぐに路地を回り込み、あっという間に見えなくなった。
「……なんだったんだ……??」
取り残された俺は、呆然とその場に立ち尽くしていた。
まさかこの最悪の出会いが、俺の運命を変えるなんて。この時の俺はまだ知る由もなかった――




