第16話 監視してきて
数分間、店内に響くほど泣きじゃくった後、ししゃも。はようやく落ち着きを取り戻したようだった。
ししゃも。は泣き顔を隠すために目元を覆っていた手の甲をそのまま左右にスライドさせて、赤くなった目をこする。
「・・・ごめん。話してたら昔の記憶がいっぱいよみがえってきて、取り乱した」
「気にすんなよ。あんな話、思い出して平気なやつの方がおかしいって」
「うん。辛いのに話してくれてありがとう」
俺とデジデジが声をかけると、ししゃも。は照れ隠しなのか、少しおどけて見せた。
「・・・はぁ。こんなところで取り乱すなんてししゃも。もまだまだ修行が足りなかったかなぁ~??」
その様子を見て、俺たちは少し安心したように微笑む。いつもの調子が戻ってきたようだ。
「ししゃも。、カフェとかレストランとかでほかのお客さんの迷惑も考えずに大声で怒鳴ってるクソおやじとか、別れ話してわんわん泣いてる痛カップルの女とか大っ嫌いなんだけど、なんか自分がその分類に入っちゃった感じしてショック・・・」
「まぁでも、幸いこのカフェあんまりお客さんいないみたいだし、ちょっと声が大きくなったのも最後の方だけだったからそんなに迷惑も掛かってないと思うよ」
「そうだ、そんな気にするなよ」
「でもなぁ~・・・はぁ...。二人にも迷惑かけちゃった。・・・ごめんね」
しおらしく謝るししゃも。に、俺は気恥ずかしくなって頭を掻いた。
「それはもういいっての!」
重苦しい空気は霧散し、俺たちは少し話題をそらしながら、しばらく談笑を続けた。
そうこうしているうちに、窓の外は完全に日が落ちていた。
「さて、もう外も暗くなってるし、交番に行かないとかな」
「うぉ!もうこんな時間か」
デジデジがスマホの時間を確認して腰を上げる。
「二人はここで待っててよ。交番確かここから5分ぐらいのところにあったから、結果がわかったら戻ってくるよ」
「ししゃも。は行けないけど、燈真きゅんはデジざえもんについていったら?落したときの状況もわかってるし、こんなんでも何かの役に立つかもしれないよ?」
「おい!」
ししゃも。の失礼な物言いに軽くツッコミをいれる。
「でも・・・」
デジデジは俺の目を見つめて、無言でアイコンタクトを送ってきた。
俺はその意図を察する。
(・・・たぶんデジデジ的には、あんなことがあった後だからししゃも。についてやってた方がいいんじゃないかってことだよな・・・)
・・・
一瞬迷ったが、俺はししゃも。と一緒にカフェに残ることを決めた。
あんなことがあった後だ。今はししゃも。のそばにいてやりたい。
それに、まだ少ししか話してないけどデジデジはかなりしっかりしている印象を受けた。
「まぁデジデジならしっかりしてそうだし一人でも大丈夫だろう!俺もここで待ってるぜ」
俺は思ったことをそのまま伝えた。
「でも・・・」
ししゃも。が言いよどむ。たぶん迷惑をかけたくないと思っているのだろう。
「大丈夫。すぐに戻ってくるから。じゃあちょっと行ってくるね」
そう言い残すとデジデジはカフェから出ていく。
テーブルには俺とししゃも。が残された。
・・・・・・
「燈真きゅん、もしかしてししゃも。のこと心配して残るって言ってくれたの?」
「いやっ・・・別に・・・まぁ・・・」
「ありがちょう・・・。でも、ししゃも。はもう大丈夫だよ。あと・・・」
「ん?」
「あんまりこんなこと言うのよくないと思うんだけど・・・」
ししゃも。は声を潜めると、鋭い視線を店の出口の方へ向けた。
「なんだよ・・・?」
「ししゃも。、デジざえもんのことあんまり信用できないの」
「え?」
「さっき会ったばっかりだし・・・。それになんか妙に親切すぎる気がしない?」
「親切すぎるって・・・。俺だってよぉ...そのぉ...割と優しいだろう??」
「おめぇの話は今どうでもいいんだよ!!!!あと別におめぇのことも信用してねぇよ!おめぇどうせバカだから裏切ったとしてもどうとでもなるから気にしてねぇんだよ!!」
「なんだおめぇ!!」
突然の罵倒。俺がのけぞると、ししゃも。はさらに早口でまくしたてた。
「・・・ってことで、今からでもデジざえもん追いかけて監視してきて」
「監視って・・・」
「いいから早く行って!もし交番にペンダントが届けられてて、持ち逃げされたらどうするの??」
「あぁもうわかったよ!行きゃあいいんだろう?」
「さっさと行けぇ!!」
(・・・コノヤロウ)
俺は憎まれ口を叩くししゃも。を背に、デジデジを追いかけるためにカフェを出た。
店内に残されたししゃも。が、俺たちが去った後の扉をじっと見つめ、小さく呟いたことも知らずに。
「・・・・・・」
「なに考えてんだよ・・・」
「・・・・・・」
「ケンちゃん・・・待っててね・・・」




