ダダダダ・ダイナブック構想
『ダダダダ・ダイナブック構想』(ダダダダ・ダイナブックこうそう、The DadaDada Dynabook Concept)は、アラン・ケイによる未来のパーソナルコンピュータのビジョンを描いた物語である。とある少女の夢の中に構築されるダイナブックの世界が時空を超えて暴れまわるのである。
ざっとあらすじを紹介しよう。
あるとき、主人公ケイはジャンクサイトの目の前に倒れていた。ジャンク屋ではなくてジャンクサイトというのがキーポイントである。ジャンク屋の場合は、ハードオフやブックオフ(豆知識:この二社は別の会社である。でも看板はよく似ている。さらに言えば、ブックオフの隣にハードオフが立つこともあり、相思相愛の関係であってもおかしくないのだが、事実で奇なりである。そしてこの事実は本編には全く関係ない)いろいろなジャンク部品が売られている。最近ではエレキギターが飾られていることが多く、かつてのけいおん!ブームに思わず買ってしまったギターがハードオフに並べられていることが多い。しかし、ジャンクサイトの場合は、電脳でありブラウン管テレビであり液晶モニタでしかないので、その前に倒れているケイは一体何者なのか。単に、ブラウザを使ってネットサーフィン(死語である)をしたまま机で寝落ちしてしまったのではないか、と思われるが事実はそのままであった。
ケイは、小学校に勤める補助教員であった。補助教員というのは、クラスに担当は持たずに、学年のクラスを渡り歩いてちょっとしたお手伝いをする教員である。いわば、サポート係なのだ。担当の教師が授業をしている間、教室の後ろから監視...ではなくて、生徒がどのような授業をしているのか眺める...ではなくて、観察してレポートするのである。ただただ、眺めているだけでは仕事にならない。生徒たちは、先生の話を聞いているようでなんとも、聞いていないのは明らかだった。ときどき、連絡網の折り紙が廻ってきたり、机の中にあるお菓子を食べていたり、友達と絵描きしりとりをしているのであった。ケイは、そんな生徒たちの様子を観察して、先生にレポートするのが仕事であった。
「先生、あの子たちはきちんと勉強しています」
ケイは告げ口が嫌いであった。
しかし、子どもたちが実に勉強していないのは気になっていた。そもそも、学校の授業を黒板(もうそろそろ、死語であろう)に書かれたものを手元のノートに書くというのは不便極まりないと感じていた。ノートに書き写す作業は、まさしく退屈な作業であって、もっとアクティブな作業に、もっとアクロバティックな動きにならないかとケイは考えていたのである。
例えば、モンキーゲームという重力を計算するゲームがある。いや、実際には重力加速度を使って、落ちてくるモンキーを打つゲームなのだが、それをプログラミングするわけだ。たまに、大科学実験とかやっているが、それをこの教室でもやってみたい、とケイは考えるのであった。
紙のノートにちまちまと黒板に書いた事実を書き写すわけではない。そう、もっと、アクティブにやりたいのである。勉強は座ってやるものだけではない。座ってばかりいるとお尻が痛くなってしまうではないか、たまに校庭に出て走り回ってみるのもいいだろう。
そう、外にでて本物のモンキーが落ちているところを打ち落とすのもいいだろう。
そこでケイは唱えた
「インスタンス・アブリアクション!!!」
校庭の向こうにでかいモンキーが現れる。
「ええ、なにあれ?」
「なんか、でっかい猿が空に浮かんでいるよ!」
「あれ、落ちてくるとどうなるんだろう?」
生徒たちは口々に叫びながら、教室の窓側に寄っていく。
黒板の前に立っている教師は、窓の外は空想の世界だと言わんばかりに、がんとして黒板にしがみつきながら算数の問題を解いているのである。
しかし、それだけでは収まらないのだ。
「ああ、あれは、ダイナブック!!!」
生徒たちは叫んだ。どうしてダイナブックという名前を知っているのかケイは思ったのだが、そこは空想科学の世界である。小学生は怪獣の名前や宇宙人の名前を常に知っているのである。知らないのは、科学者であり政治家であり、その辺にいる大人たちである。その辺にいる大人たちは、素直に PC でも使っておけばいいのである。
しかし、ダイナブックは現れるのであった。現実にあり得るとかあり得ないといかいう問題ではない。どこかの商標の「ダイナブック」とはスケールが違うのである。オブジェクト指向がメッセージだとか継承だとかいう問題ではなく、ダイナブックはそこにいるから、それはダイナブックなのだ。
ケイは、子どもたちに指し示すのだ。
「さあ、モンキーを倒すための方程式を考えてみよう」
小学生だから鶴亀算しかできないのでは?とか掛け算の順序が?とかサクランボ算が?というのは問題ではない。そんなことは不要なカテゴライズである。きょうびの小学生は2年生のころからアルファベットを学ぶので X とか Y とかなんてお手のものである。昔は隠し算とかいって、□とか△をつかっていたが、いまだと a とか b とかを使うことができる。さらに言えば、Scratch を皆使えるので、変数とかも大丈夫だ。猫だけじゃなくて、最近は機械学習を作ってしまう強者(まあ、小学生ではないけれど)もいるので、一見の価値がある。いや、是非二度見してほしい。
重力加速度 g を使い、砲台の角度を θ とし、初速度を v0 とすると、モンキーに当たるための方程式は以下のようになる。
x = v0 * cos(θ) * t
y = v0 * sin(θ) * t - 0.5 * g * t^2
ここでモンキーの空気抵抗や砲台の空気抵抗を無視することにする。
いや、無視していいのか? とケイは考えるのだが、そこは SF の世界なので大丈夫だ。実はモンキーが真空の中を落ちてくるのだから、鳥の羽でも同じように落ちるわけだ。よくみると、モンキーには翼が生えていて、ゆっくりと落ちてくるのだから、ひょっとしてそれは使途かもしれないね、とちょっとだけ思ったりするのだが、小学生が生まれる前の出来事なのでケイは黙っていた。
小学生が思い思いに、ダイナブックを応援する。その声援は、方程式であったり、バーコードであったり、C 言語であったりする。たまに、Python コードで操ろうとする小学生もいるのだが、ちょっとスピードが遅くてもたもたしていた。仮想環境の作り方がうまくいかないのである。
しかし、大丈夫だ。ダイナブックは、「ダダダダ・ダイナブック・インタープリター!!!」と言いつつ、モンキーをなぎ倒していった。いやはや、実は方程式は関係なかったのである。
「ふが、ふが・・・」
「先生、先生、起きて、授業が終わったよ」
「もう、先生、居眠りをしていちゃだめだよ」
ああ、生徒の起こされてしまったケイである。ちょっと黒板の文字を見ているうちに眠くなってしまった。そう、ケイがダイナブック構想を実現するのは、まだ先のことである。窓の外には、
【完】
「作ることを学ぶ」Sylvia Libow Martinez, Gary Stager 著
巻末にアラン・ケイの「ダイナブック構想」があります。




