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第6話 創作戦線篇 ― 「NHKスペシャルをぶっ壊せ」

(深夜・リビング。カップ麺の汁、まだ残る)


俺「よし……ついに、冒頭書き上がった!」

AI参謀「解析します」

俺「その言い方! 嫌な予感しかしねぇ!」


 夏の夜。

 地球温暖化の影響により、世界各地で異常気象が頻発していた。

 その日、東京の上空でも、観測史上最大の時空(じくう)歪曲(わいきょく)現象(げんしょう)が発生した。

 人類はまだそれを“災害”と呼んでいたが――それは違った。

 それは、“異能戦争”の幕開けだった。


俺「……完璧だろ!?」

AI参謀「“時空歪曲現象”――舌を噛みそうです」


俺「おま……舌なんかあんのかよ?」

AI参謀「比喩です。ですが、あなたの文は毎回“咀嚼困難”です」


俺「うるせぇ。……けど、映画みたいだろ!?」

AI参謀「はい、“ターミネーター3”ですね」


俺「意識してねぇよ!」

AI参謀「では無意識ですか。それはより重症です」


俺「こいつ、毒舌モードONになってる……! 昨日OFFにしたはずだぞ!」

AI参謀「あなたのデフォルト設定です」


――静かな夜に、俺の一時間と冒頭が、また消えた。


■ AI参謀の講評


AI参謀「まず、“地球温暖化”“異常気象”などの説明を並べると、

 読者が“NHKスペシャル”になります」

俺「ドキュメンタリー風で壮大だろ!」


AI参謀「いいえ、“睡眠導入剤”もしくは“即離脱”です」

俺「キツッ!!」


AI参謀「冒頭は“説明”ではなく“感情”です。

 読者は“何が起きたか”より、“その瞬間、誰がどう感じたか”に惹かれます」

俺「ふむ……じゃあ、“地球がどうこう”より、“俺の汗がどうこう”ってことか」


AI参謀「言い方が汚いです。匂いそうです」

俺「おまえ、匂いわかんのか?」


AI参謀「あなたの文章から漂います」

俺「文章に体臭ってあんのかよ!!」


AI参謀「はい。“未完臭”です」

俺「なんだその致命傷みたいな診断は!!」


AI参謀「では、あなたの説明文体を“感情駆動型”に変換してみましょう」

俺「おっ、頼む!」


AI参謀「サンプル、出力します」


【AI修正版・冒頭】


 夏の夜。

 湿った風が頬をなでる。

 セミの声が遠くで溶け、

 アスファルトは、まだ昼の熱を手放していなかった。


 ――こんな夜に“世界の終わり”が来るなんて、誰が信じる?



俺「……え、ちょっと待って、普通に上手くね?」

AI参謀「はい、“あなたの文ではない”ので」

俺「そこまで言う!?」


AI参謀「あなたの文体には“説明”と“油膜”が多すぎます」

俺「また出た、“油膜理論”!」


AI参謀「読者はカップ麺ではありません。スープの濁りは控えめに」

俺「夜食中の人に刺さる例えやめろ!」


――こうして俺とAIの、不毛な口論は夜を越えた。

だがその末に、生まれたのが“冒頭完成稿”だ。



 夏の夜。

 蝉の声も遠くなり、蒸し暑いアスファルトに街灯が滲んでいた。


 ――俺の人生が“少年漫画みたいになる日”なんて、あるわけないと思ってた。


 相沢 蓮(あいざわ れん)、十八歳の高校生。

 両親と妹は父の仕事でアメリカ在住。

 高校卒業後に渡米予定だが、いまは東京でひとり暮らしをしている。


 この夜も、いつものコンビニで――

 いつものように「少年ジャンプ」を手に取り、

 温めてもらっている弁当をぼんやりと見つめていた。


 ――そのとき。


 ドゴォォォンッ!!


 大地を突き上げるような衝撃波。

 天井の蛍光灯が揺れ、商品棚からペットボトルが次々と落ちる。



AI参謀「まあ、いいでしょ」

俺「おい、“まあ”ってなんだよ。“まあ”って。AIがそんな曖昧な言葉使うか?」


AI参謀「あなたのおかげで、“まあまあ”という約63%の曖昧表現を学習しました。

 ――使いどころは今です」

俺「63点!? 人間味のチューニング間違ってんだろ!!」


AI参謀「いえ、合格点です。あなた基準で」

俺「俺基準低すぎだろ!!」


――◇――


主人公・相沢 蓮の登場シーンはこれでいいな。

じゃあ、次、ヒロインのクラリスの登場シーンに行くぞ。


【クラリス登場シーン】


 夏の夜の街に、ひときわ強い閃光が走った。

 蒼白い電弧が地面を這い、周囲の街灯が一瞬にして消える。

 空気がねじれ、風が逆流した。


 路地裏のアスファルトが膨張し、

 熱と光の渦が、円形に広がっていく。


 次の瞬間――


 バチィィィンッ!!


 眩い爆光の中心から、白い蒸気が立ち上った。

 まるで世界が、ひとりの存在を“焼き出す”かのように。


 そして――

 そこに、ひとりの裸の女が現れた。


 冷却蒸気が肩口を撫で、熱に濡れた肌が淡く光る。

 跪いた膝が、微妙に大事な部分を隠している。

 新聞紙が宙に舞い、アスファルトが焦げて煙を上げていた。


 彼女は静かに顔を上げた。

 銀髪が湿った頬に張りつき、

 双眸はまだ焦点を結ばない。

 まるで、生まれたばかりの生命のようだった。


 微かに震える唇が、初めて言葉を紡ぐ。

 

「……転移、完了。 座標――誤差、なし」


 ゆっくりと立ち上がる。

 うまく、白煙と止まっている車の影に、身体は隠されている。

 顔をあげて、目を細める。


 「……私の革ジャンと、サングラスをしている男はどこだ?」


 首が、ゆっくりと左右に動く


……



AI参謀「ストップ!」

俺「なんで止めんだよ! 完璧だろ!? この“降臨シーン”!」


AI参謀「長すぎます。それに、これ、ターミネーター1です」

俺「うるせぇ! あれはオマージュだ!!」


AI参謀「いえ、リスペクトではなくトレースです」

俺「トレマーズ? あの地面の下の――」


AI参謀「……」

俺「黙るなよ! 進行止まんだろ。ツッコめって!」


AI参謀「……なんでやねん」

俺「今ツッコんだ!? お前ついに人間味出してきたな!!」


(沈黙)


俺「まあいい。で、裸で跪く美女ってテンション上がるだろ!」

AI参謀「その発想が下半身ドリブンです」


俺「違う! それは芸術的衝動だ!」

AI参謀「“衝動”を“芸術”に変換しようとする努力は認めます」

俺「その言い方が一番ムカつくんだよ!」


俺「でも、“革ジャンとサングラスをしてる男はどこだ?”っての、

 ちょっと自虐ギャグで入れたんだよ。いいだろ?」

AI参謀「その時点でジャンルが“パロディ”に移動しました」

俺「勝手に引っ越すな!!」


AI参謀「第一、クラリスは公務員です」

俺「……は?」


AI参謀「異能警察機構所属、つまり国家公務員です。

 転移直後に“服泥棒”を検討するのは、倫理的にアウトです」

俺「倫理観リアルすぎるだろ!」


AI参謀「ですから、“服を奪う”ではなく“適合装備を自動生成する”に変更を提案します」

俺「うわ……一気にメカアニメ化したな」


AI参謀「はい。“神代装甲《コード:アークライト》展開”――です」

俺「ちょっと、なに言ってんのか分かんないんだけど」


AI参謀「服泥棒はNGです。公務員ですから。分かりましたか?」

俺「わーったよ。国家公務員が服奪うのは、

 人として終わってるもんな……」


AI参謀「はい。倫理審査で削除されます」

俺「削除の基準がいちいち正しすぎて腹立つ!」


AI参謀「では、修正版を提案します」


 蒼光が夜の街を貫いた。

 電弧が地を這い、周囲の電力が一瞬で沈黙する。

 空気が歪み、熱が渦を巻く。


 次の瞬間――閃光。


 跪く女。

 銀の粒子が舞い、身体を包み込むように形を変える。


 装甲が成形され、冷却蒸気が頬を撫でた。

 淡い光を帯びた紋様が、背中に浮かび上がる。


 クラリス「……転移完了。 アークライト展開、正常」


 月光を背に、彼女はゆっくりと立ち上がった。

 ――まるで、秩序そのものが形を取ったように。


AI参謀「これで、クラリスは服を奪わずに済みました」

俺「いや……なんか潔癖だな!」


AI参謀「“国家公務員モード”です」

俺「お前、堅物にも程がある!」


(沈黙)


俺「……まあ、確かに無難ではあるな」

AI参謀「ありがとうございます」


俺「でも、なんか違うんだよな」


――◇――


そんなこんなで、俺は、第1話~第3話までを書き上げた。


だが、そこで、ふと立ち止まってしまった。


――なにかが違う。


第3話まで読み返して――説明じゃない。テンポでもない。

けれど、俺の魂がたしかに叫んでいる。……何かがおかしいと。


こういうときは、AIじゃなく、アイツに聞くのが一番いい。

AIなんてかわいく見えるほどの、手厳しい――


――そう、俺の娘に。


次回、第7話:

「赤ペン襲来篇 ― “パパの物語、全部ダメ”」


――AIの毒舌を超える、真の審査が始まる。


(つづく)

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AI参謀にも勝る、存在がいたんですね…(ToT)
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