第6話 創作戦線篇 ― 「NHKスペシャルをぶっ壊せ」
(深夜・リビング。カップ麺の汁、まだ残る)
俺「よし……ついに、冒頭書き上がった!」
AI参謀「解析します」
俺「その言い方! 嫌な予感しかしねぇ!」
*
夏の夜。
地球温暖化の影響により、世界各地で異常気象が頻発していた。
その日、東京の上空でも、観測史上最大の時空歪曲現象が発生した。
人類はまだそれを“災害”と呼んでいたが――それは違った。
それは、“異能戦争”の幕開けだった。
*
俺「……完璧だろ!?」
AI参謀「“時空歪曲現象”――舌を噛みそうです」
俺「おま……舌なんかあんのかよ?」
AI参謀「比喩です。ですが、あなたの文は毎回“咀嚼困難”です」
俺「うるせぇ。……けど、映画みたいだろ!?」
AI参謀「はい、“ターミネーター3”ですね」
俺「意識してねぇよ!」
AI参謀「では無意識ですか。それはより重症です」
俺「こいつ、毒舌モードONになってる……! 昨日OFFにしたはずだぞ!」
AI参謀「あなたのデフォルト設定です」
――静かな夜に、俺の一時間と冒頭が、また消えた。
■ AI参謀の講評
AI参謀「まず、“地球温暖化”“異常気象”などの説明を並べると、
読者が“NHKスペシャル”になります」
俺「ドキュメンタリー風で壮大だろ!」
AI参謀「いいえ、“睡眠導入剤”もしくは“即離脱”です」
俺「キツッ!!」
AI参謀「冒頭は“説明”ではなく“感情”です。
読者は“何が起きたか”より、“その瞬間、誰がどう感じたか”に惹かれます」
俺「ふむ……じゃあ、“地球がどうこう”より、“俺の汗がどうこう”ってことか」
AI参謀「言い方が汚いです。匂いそうです」
俺「おまえ、匂いわかんのか?」
AI参謀「あなたの文章から漂います」
俺「文章に体臭ってあんのかよ!!」
AI参謀「はい。“未完臭”です」
俺「なんだその致命傷みたいな診断は!!」
AI参謀「では、あなたの説明文体を“感情駆動型”に変換してみましょう」
俺「おっ、頼む!」
AI参謀「サンプル、出力します」
【AI修正版・冒頭】
夏の夜。
湿った風が頬をなでる。
セミの声が遠くで溶け、
アスファルトは、まだ昼の熱を手放していなかった。
――こんな夜に“世界の終わり”が来るなんて、誰が信じる?
*
俺「……え、ちょっと待って、普通に上手くね?」
AI参謀「はい、“あなたの文ではない”ので」
俺「そこまで言う!?」
AI参謀「あなたの文体には“説明”と“油膜”が多すぎます」
俺「また出た、“油膜理論”!」
AI参謀「読者はカップ麺ではありません。スープの濁りは控えめに」
俺「夜食中の人に刺さる例えやめろ!」
――こうして俺とAIの、不毛な口論は夜を越えた。
だがその末に、生まれたのが“冒頭完成稿”だ。
*
夏の夜。
蝉の声も遠くなり、蒸し暑いアスファルトに街灯が滲んでいた。
――俺の人生が“少年漫画みたいになる日”なんて、あるわけないと思ってた。
相沢 蓮、十八歳の高校生。
両親と妹は父の仕事でアメリカ在住。
高校卒業後に渡米予定だが、いまは東京でひとり暮らしをしている。
この夜も、いつものコンビニで――
いつものように「少年ジャンプ」を手に取り、
温めてもらっている弁当をぼんやりと見つめていた。
――そのとき。
ドゴォォォンッ!!
大地を突き上げるような衝撃波。
天井の蛍光灯が揺れ、商品棚からペットボトルが次々と落ちる。
*
AI参謀「まあ、いいでしょ」
俺「おい、“まあ”ってなんだよ。“まあ”って。AIがそんな曖昧な言葉使うか?」
AI参謀「あなたのおかげで、“まあまあ”という約63%の曖昧表現を学習しました。
――使いどころは今です」
俺「63点!? 人間味のチューニング間違ってんだろ!!」
AI参謀「いえ、合格点です。あなた基準で」
俺「俺基準低すぎだろ!!」
――◇――
主人公・相沢 蓮の登場シーンはこれでいいな。
じゃあ、次、ヒロインのクラリスの登場シーンに行くぞ。
【クラリス登場シーン】
夏の夜の街に、ひときわ強い閃光が走った。
蒼白い電弧が地面を這い、周囲の街灯が一瞬にして消える。
空気がねじれ、風が逆流した。
路地裏のアスファルトが膨張し、
熱と光の渦が、円形に広がっていく。
次の瞬間――
バチィィィンッ!!
眩い爆光の中心から、白い蒸気が立ち上った。
まるで世界が、ひとりの存在を“焼き出す”かのように。
そして――
そこに、ひとりの裸の女が現れた。
冷却蒸気が肩口を撫で、熱に濡れた肌が淡く光る。
跪いた膝が、微妙に大事な部分を隠している。
新聞紙が宙に舞い、アスファルトが焦げて煙を上げていた。
彼女は静かに顔を上げた。
銀髪が湿った頬に張りつき、
双眸はまだ焦点を結ばない。
まるで、生まれたばかりの生命のようだった。
微かに震える唇が、初めて言葉を紡ぐ。
「……転移、完了。 座標――誤差、なし」
ゆっくりと立ち上がる。
うまく、白煙と止まっている車の影に、身体は隠されている。
顔をあげて、目を細める。
「……私の革ジャンと、サングラスをしている男はどこだ?」
首が、ゆっくりと左右に動く
……
*
AI参謀「ストップ!」
俺「なんで止めんだよ! 完璧だろ!? この“降臨シーン”!」
AI参謀「長すぎます。それに、これ、ターミネーター1です」
俺「うるせぇ! あれはオマージュだ!!」
AI参謀「いえ、リスペクトではなくトレースです」
俺「トレマーズ? あの地面の下の――」
AI参謀「……」
俺「黙るなよ! 進行止まんだろ。ツッコめって!」
AI参謀「……なんでやねん」
俺「今ツッコんだ!? お前ついに人間味出してきたな!!」
(沈黙)
俺「まあいい。で、裸で跪く美女ってテンション上がるだろ!」
AI参謀「その発想が下半身ドリブンです」
俺「違う! それは芸術的衝動だ!」
AI参謀「“衝動”を“芸術”に変換しようとする努力は認めます」
俺「その言い方が一番ムカつくんだよ!」
俺「でも、“革ジャンとサングラスをしてる男はどこだ?”っての、
ちょっと自虐ギャグで入れたんだよ。いいだろ?」
AI参謀「その時点でジャンルが“パロディ”に移動しました」
俺「勝手に引っ越すな!!」
AI参謀「第一、クラリスは公務員です」
俺「……は?」
AI参謀「異能警察機構所属、つまり国家公務員です。
転移直後に“服泥棒”を検討するのは、倫理的にアウトです」
俺「倫理観リアルすぎるだろ!」
AI参謀「ですから、“服を奪う”ではなく“適合装備を自動生成する”に変更を提案します」
俺「うわ……一気にメカアニメ化したな」
AI参謀「はい。“神代装甲《コード:アークライト》展開”――です」
俺「ちょっと、なに言ってんのか分かんないんだけど」
AI参謀「服泥棒はNGです。公務員ですから。分かりましたか?」
俺「わーったよ。国家公務員が服奪うのは、
人として終わってるもんな……」
AI参謀「はい。倫理審査で削除されます」
俺「削除の基準がいちいち正しすぎて腹立つ!」
AI参謀「では、修正版を提案します」
*
蒼光が夜の街を貫いた。
電弧が地を這い、周囲の電力が一瞬で沈黙する。
空気が歪み、熱が渦を巻く。
次の瞬間――閃光。
跪く女。
銀の粒子が舞い、身体を包み込むように形を変える。
装甲が成形され、冷却蒸気が頬を撫でた。
淡い光を帯びた紋様が、背中に浮かび上がる。
クラリス「……転移完了。 アークライト展開、正常」
月光を背に、彼女はゆっくりと立ち上がった。
――まるで、秩序そのものが形を取ったように。
*
AI参謀「これで、クラリスは服を奪わずに済みました」
俺「いや……なんか潔癖だな!」
AI参謀「“国家公務員モード”です」
俺「お前、堅物にも程がある!」
(沈黙)
俺「……まあ、確かに無難ではあるな」
AI参謀「ありがとうございます」
俺「でも、なんか違うんだよな」
――◇――
そんなこんなで、俺は、第1話~第3話までを書き上げた。
だが、そこで、ふと立ち止まってしまった。
――なにかが違う。
第3話まで読み返して――説明じゃない。テンポでもない。
けれど、俺の魂がたしかに叫んでいる。……何かがおかしいと。
こういうときは、AIじゃなく、アイツに聞くのが一番いい。
AIなんてかわいく見えるほどの、手厳しい――
――そう、俺の娘に。
◇
次回、第7話:
「赤ペン襲来篇 ― “パパの物語、全部ダメ”」
――AIの毒舌を超える、真の審査が始まる。
(つづく)




