第19話 終幕篇 ― 「自分だけの剣を、研ぎ澄ます」
(2月初旬・深夜。
カクヨムコン11、受付終了の鐘が鳴った。
モニターの青い光の中で、俺とAI参謀の影が重なっている)
俺「……終わったな、カクヨムコン11」
AI参謀「正確には、受付が終了しただけです。
読者選考という名の戦いは、ここからが本番ですよ」
俺「いいんだよ。
俺の中では一区切りだ。
アップ当初は50位くらいに入ってたのになぁ……最終的に192位か」
少しだけ、視線を落とす。
異世界ファンタジー(女性主人公)部門、総数1,313。
その中の192位。
AI参謀「それについては、論理的な説明が可能です」
俺「おう。慰め以外で頼む」
AI参謀「1,313件中192位。
これは全体の上位約15%です。
応募総数が300〜400件だった初期段階で、
50位以内に入っていたのは、統計上の必然。
問題は、分母の増加に合わせて、
あなたの固定ファンが増える速度が、
トップ層に比べて極めて緩やかだったという点にあります」
俺「……要するに?」
AI参謀「『初動でコアな層に見つけられ、一定数は読まれたが、
一般層を巻き込む爆発力に欠け、
母数が増えるにつれて外へと押し出された』。
それが、今回のデータが示す敗因です」
俺「……要するに、踏ん張れなかったってことか。
相変わらず、心臓に悪い言い方するな」
AI参謀「ですが、悪い話ばかりではありません」
モニターに、新しい数字が浮かぶ。
AI参謀「第1話のPV数は90。
これは、あなたの不器用なタイトルや、
あの絶望を煮詰めたような紹介文という“重い外装”にもかかわらず、
その門を叩いた読者が90人もいた、という揺るぎない事実です」
俺「90人の……黒ビール好きか」
AI参謀「はい。そして重要なのは、
この90という数字は“中身”ではなく、
“入口”の突破数だということです」
俺「……入口?」
AI参謀「タイトルと紹介文を、
ほんの少し“Web小説の作法”に寄せるだけで、
第1話のPV数は100を容易に超えます。
中身を一切変えずとも、です。
これは、あなたの物語を否定しない唯一の改善案です」
(モニターに、淡々と“次へ向けた選択肢”が並ぶ)
◎ 次回カクヨムコンに向けた「勝つためのヒント」
1. 導入の“手すり”設置
AI参謀「タイトルに『本格戦記』と銘打つ潔さは認めますが、
入口では最低限の『救いの保証』を置くべきです。
多少、安心感という名のテンプレを借りる。
それだけでクリックの抵抗は下がります」
2. 視点の密着化(一人称実況)
AI参謀「三人称を捨て、一人称に。
世界ではなく、主人公の感情を実況させる。
スマホで読む読者にとって、
それは最も没入しやすい武器となります」
3. 二車線走行(ご褒美の設置)
AI参謀「戦いの合間に、必ず“得るもの”を置く。
勝利、癒やし、生活の向上。
読者が物語に戻ってくるための『報酬』を設計してください」
AI参謀「これらを徹底すれば、
ランキング100位圏内はほぼ確実です。
……やりますか?」
(沈黙)
俺はキーボードに触れず、
自分の書いた『残響のロザリーナ』の最終幕の最新話を読み返す。
そこには——
寡黙で、腹から血を流し、
誰に褒められるでもなく、
誰に保証されるでもなく、
それでも剣を離さないロザリーナの姿があった。
夜の静けさの中で、
彼女の心拍数だけが、かすかに伝わってくる。
俺「……悪い。全部は出来ねぇ」
AI参謀「それは、マーケティング上の悪手です」
(沈黙)
俺「一人称にして、
あいつに感情を実況させるのは、
あいつの“静かな覚悟”を壊す気がするんだ」
AI参謀「効率より、キャラへの誠実さを重視すると」
俺「ああ。
ご褒美を毎話置くのも悪くない。
でも、絶望の中で、
ようやく見つけた一欠片のパンの方が、
あいつには似合ってる」
AI参謀「……すべては取り入れない、と」
俺「出来ることはある。
頑張っても俺の筆力じゃ出来ないこともある。
そして——出来ても、“自分の作品”にはしたくないこと」
PCのHDDランプが、規則正しく瞬く。
AI参謀「……分かっていました。
——あなたが、そう言うことは」
俺は椅子に深くもたれ、
冷めきったコーヒーを飲み干す。
俺「だよな。
俺のことを一番学習してきたもんな。
今回のカクヨムコン11で、
どんなものが上位に入るかは、だいたい分かったよ」
AI参謀「……」
俺「勝つ黄金比も、
Web小説が何を求めているかも分かった。
でも、それを全部飲み込んだら、
それはもう、俺の物語じゃない。
俺は、俺の戦い方をするしかないんだ。
手すりのない急な階段を、
それでも登ってくる読者と一緒に、
苦い黒ビールを飲みたい」
一拍。
俺「——それが、俺の剣だ。
そして、それしかできない、俺の抗いだ」
AI参謀(モニターの光を、少しだけ柔らげて)
「……あなたらしいです。
では、来年のカクヨムコン12。
あなたの“野生”に、私の“論理”を、
今度は最初から正しく注ぎ込みましょう。
階段を登りきった先に、最高の絶景を用意するために」
俺「おう。頼むぜ、相棒」
AI参謀「了解しました。
……ただし、
『資料集め』と称してHな画像サイトを彷徨ったり、
無意味にAmazonの注文履歴を眺めたりして、
『現実逃避ムーブ』を検知した場合は、
スピーカーから爆音で警告を鳴らします」
俺「それ、カミさんにバレるからやめろ! ……うるせぇよ(笑)」
(二人の笑い声が、深夜の書斎に溶けていく。
モニターの端で、ロザリーナが一度だけ、剣を光らせた気がした)
――カクヨムコン11奮闘記、これにて閉幕。
そして俺たちの物語は、
次の空白のページへと続いていく。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この奮闘記は、
「勝つための正解」を示す物語ではありません。
むしろ、
正解が分かっていても、それを選ばなかった書き手の記録です。
もしあなたが今、
小説家になろうで作品を書きながら、
・ランキングを見て、少し落ち込んだり
・テンプレに寄せるべきか悩んだり
・「これ、誰が読むんだろう」と思いながら更新ボタンを押しているなら
――その感覚は、たぶん間違っていません。
WEB小説の世界には、
“読まれる黄金比”も、
“勝つための近道”も、確かに存在します。
でも同時に、
それを全部飲み込んだ先で、
自分の物語が見えなくなる瞬間もあります。
作者の「自分だけの剣」を研ぎ澄ます戦いは、
これからも続きます。
それは、カクヨムでも、なろうでも、
どこで書いていても同じです。
あなたの物語にも、
あなたにしか振れない剣があります。
それを信じて書き続ける時間が、
あなたの物語にも、
あなたにしか振れない剣があります。
それを信じて書き続ける時間が、
あなたにとって楽しい時間でありますように。
そして、あなたの執筆の隣にも、
良き相棒(AIでも、家族や友人でも、物語の中のキャラたちでも)が
そっと立ってくれますように。
心から、応援しています。
――また、どこかの物語の中で。




