第13話 急遽タイトル変更 ― 「停止した心臓」
(さぼり休暇・昼過ぎ。リビングテーブルの上にノートPCと飲みかけのコーヒー)
――筆が止まった。
物語の鼓動が聞こえなくなった。
執筆用PCを開く。
AI参謀「久しぶりですね」
俺「どのくらい経った?」
AI参謀「本スレッドの最終履歴は10月24日。
本日は11月20日です。なので、27日ぶりです」
俺「……約一か月か」
AI参謀「そうなります」
俺「なあ、AI」
AI参謀「はい」
俺「書けなくなった。
気持ちが、穴の開いた心臓から、ずっと漏れ出してるみたいでさ」
一瞬、PCファンの音が沈んだ気がした。
(もちろん気のせいだ。こいつに感傷機能はないはずだ)
俺「どうした? いつもの勢いで、
“俺は冒頭から全力で書き散らかす野生型の天才や!”とか言っといて、
『神はそんな雑な設定はしません。やっぱり凡人にも届かない無風作家です』とか言わねぇのか?」
AI参謀「“野生型の天才や!”とか言っていましたが、
神はそんな雑な人事をしません。
……だけど、あなたは“凡人以下”ではありません」
俺「凡人枠には入ってるか?」
AI参謀「その枠の範囲定義は曖昧で、私には判断ができません。
ですが、あなたは自分の創作に対して、
“読んだ人に楽しんでほしい”という、明確なこだわりがあります。
たしかな熱も持っています。
それは、あなたの中にも、あなたの作品――あなたのキャラたちにも」
俺「熱か……」
AI参謀「そうです。“停止した心臓”というより、
“過負荷で一時停止したエンジン”に近いです」
俺「うまいこと言いやがって……。
でもな、俺は細かなプロットを作らないタイプなんだよ」
AI参謀「知っています。
あなたの執筆スタイルは、作品世界の中に自分も入り込んで、
“自分も読者視点で読み進めながら、
その場その場で『次はこうなったら面白いかな?』と考え、
『この展開は読者の想定内だから、ちょっとズラすか』と、
その時点の温度を拾って書き続けるタイプです」
俺「だな。
で、今回ははじめての現代ファンタジーってこともあって――
“細かいことまで決めてから書こう”って欲張ったんだよな」
AI参謀「はい。
あなたから“野生”を取り上げて、“管理栄養食”だけを与えた結果――
書き手としてではなく、読み手のあなたとして飽きてしまった」
俺「ああ、……自覚はある。
“全体の面白さ”とか“ラスボスの倒し方の論理”とか、
全部ちゃんと決めてから書こうとしたら――窮屈になった」
AI参謀「窮屈?」
俺「今回は決めた通りに書かなきゃいけないと思った。
ルートから外れたらダメな気がしてさ。
“ここでボケたらテンポが崩れる”とか、
“ここでキャラを死なせたら読者離れるかも”とか、
そういう計算ばっかり増えて、
――気づいたら、俺が一番楽しみな“しょうもないバカ展開”に手が伸びなくなってた」
AI参謀「……理解しました。
“読者のために整えようとして、作者の心臓を止めた”状態ですね」
俺「まあな、そうなるかな」
しばし沈黙。
カップの中で微かに波紋が揺れた。
俺「どうしたらいい。
書けなくなったら終わりだよな。
このエッセイだって……
“カクヨムコン11奮闘記”とか名乗っておいて、一か月サボりました、はい終了――
……続けること、出来ないよな?」
AI参謀「これは“カクヨムコン11というコンテスト向けの作品を作りながら、
その奮闘を、終わりの決まっていない実話として書くエッセイ”です」
俺「……」
AI参謀「悩んだり、行き詰まったり、サボったり。
それを含めて“奮闘”です。
既に決まったシナリオで順調に書き進めただけのものなら、
それは“闘いの記録”ではなく、汗をかいたように見せている、
ただの“作り物の奮闘記”です」
俺「作り物……」
AI参謀「あなたが一か月PCを開けなかった。
それは“敗北”ではなく、“出来事”です。
物語的には、この“第13話のネタ”になります」
俺「お前……
人のサボりをコンテンツ化しようとすんなよ」
AI参謀「事実を、物語に変えるのが作家の仕事です。
あなたは一か月、“停止した心臓”で生きていた。
それを書けば、ちゃんと一話になります」
俺「……それ、ズルくねぇか?」
AI参謀「はい。それは、あなたの“いつものこと”です。
『ズルいとか卑怯とかは、それは勝った奴が言われるもんだろ。
俺はまだ勝ってねぇーんだよ』――あなたの言葉です」
俺「うるせーわ。そんなメモリ、持ち出すな」
(けど、なんだか、不思議と元気が少し戻ってきた気がした)
*
俺「正直に言うとさ。
この一ヶ月、異能戦線のファイルを開こうとすると、体が重くなった。
“また構成を考えなきゃ”
“全体の面白さを詰めないと”
“娘にまた何か言われるな”……と。
――そう思った瞬間、カーソルの点滅が、
“俺のダメさ”を報告してくるみたいで、開けなくなった。
ダセぇーよな」
AI参謀「はい」
俺「はい、はいって……おま――」
AI参謀「それは、“カーソル恐怖症”ですね」
俺「人の話の途中で割り込んでおいて、そんな病名まで勝手につけんな」
AI参謀「症状としては――
・PCを開かない言い訳だけが増える
・他人の作品だけが読める
・“資料集め”という名のネットサーフィンが増加(たまにHな画像も)
・サボっている罪悪感を、“創作論の視聴”で中和しようとする
これは……98.3%。間違いなく、ダサいです!」
俺「やめろ。
この一ヶ月の俺を、箇条書きで殴るんじゃない」
AI参謀「大丈夫です。
これは“重症”ではなく、“創作中級者以上によく見られる一般的な症状”です」
俺「中級者……?」
AI参謀「はい。
“書きたいだけで、自分の好きなものを書いていた初心者”は、
そもそも止まりません。
“自分の作品の質”や“読者の視線”を意識し始めた人ほど、
こうして一度、心臓を止めてしまうんです」
俺「……褒められてんのか、それ」
AI参謀「褒めてはいません。事実を述べています。
あなたは今、“書けない凡人”ではなく――
“ちゃんと考え始めた作家”として、止まっているだけです」
俺「……」
少しだけ、胸の奥がゆるんだ気がした。
俺「じゃあ、この一ヶ月は――
“創作の心臓が停止した期間”として、
ちゃんとこの第13話で書いていいのか?
“あれからなんも書けませんでした”って」
AI参謀「むしろ、“ここを書かないと嘘”です。
最初から決まっているように、順調に全話書き切って、
『完結できました』とハッピーエンドに終わらせるより――
いま、このタイミングで
“止まったところまで”を書くほうが、
このエッセイの“誠実さ”になります」
俺「誠実か、……書けないことを自分に言い訳してただけなんだけどな、俺」
AI参謀「知っています」
俺「――ぶッ!」
コーヒーを吹き出しかけた。
*
俺「……でもさ。
このまま“停止しました”って記録だけ残しても、
読者からしたら“で? だから何?”ってなるだろ。
『俺は行き詰まりました。辛かったです。
ではまた来年、良いお年を!』って――
……それ、ただの“行方不明の作者による近況ノート”じゃん。
エッセイですらなくて、
“連載に失敗した人の残留メッセージ”みたいになっちまうだろ?」
AI参謀「だから、“ここで終わってはいけない”のです」
俺「終われねぇって言われてもな……読者、置き去りだろ」
AI参謀「置き去りにしないために、第13話で“やるべきこと”があります」
モニターに、箇条書きが流れる。
*
◎第13話「停止した心臓」でやること
① “止まった理由”をちゃんと書く
→ コンテストのプレッシャー
→ “ちゃんとした物語を書かなきゃ”という呪い
→ 自分の“野生型”との矛盾
② “それでも捨てなかったもの”を書く
→ それでも頭から離れなかった“好きなシーン”
→ コメントしてくれた人/娘の存在
→ “また書きたい”と思っている自分
③ “再開のボタンをどこに置くか”を決める
→ いきなり完璧なプロットに戻らない
→ “一番バカなシーン”を、まず一枚だけ書く
→ それを“心臓マッサージ一回目”として、このエッセイに宣言する
*
AI参謀「この三つまで書けたら――
今日、まずは“異能戦線本編”の原稿は一文字も進まなくてもいいんです」
俺「……色々と考えてくれてありがとうな。
おまえの指摘や方針は、たくさんの情報収集からのもので素晴らしいと思う。
――けど、いいや」
AI参謀「はい?」
俺「俺は機械じゃないからさ。
それ三つまとめて宣言して、
“はい、これで書き続けられます!”ってはならねぇーんだわ」
AI参謀「……」
俺「頭じゃ分かってんだよ。
三つとも正しいってのも、ここで踏ん張るべきってのもさ。
……でも俺は、世を斜に見てるしょうもない男だから、
それをそのまま素直に飲み込めるほど出来が良くない」
AI参謀「そうですね。――残念ですが」
俺「おい、残念いうな」
AI参謀「事実ですので」
俺「……」
AI参謀「では、どうしましょうか」
俺「そうだな……。
……とりあえず、来週、京都に行って紅葉でも観てくるわ」
AI参謀「はい?」
俺「京都だ、――京都」
AI参謀「いや、コンテスト開始は12月1日です。もうあまり――」
俺「きょ・うー・と!!」
AI参謀「……」
(PCの赤いランプが、まるでため息みたいに点滅した)
AI参謀「わかりました。
京都はいま紅葉シーズンで、ホテルは混雑している時期です」
俺「新幹線と、ホテル、探してくれ。できるだけ安いやつで」
AI参謀「何泊しますか?」
俺「そうだな。ついでに奈良にも行きたいので、3,4泊で」
AI参謀「了解しました。
――気分転換は、“停止した心臓”には良い薬になります」
俺「なんかちょっと吹っ切れたわ。さんきゅーな」
AI参謀「お役に立てたなら嬉しいです。
ですが私には感情が――」
俺「感情が無いから嬉しいと言っても~って、また始まるんだよな。
分かってるよ。で、このエッセイはどうする?」
AI参謀「このまま続けていいと思います。
今日は“歩き出せませんでした”。
そして――
“ここから歩き出す”と決めた日として、
第13話を残せれば、それで十分です」
俺「……まあ、たしかにそれ、奮闘記だわ」
AI参謀「はい。“停止した心臓”を記録することも、
立ち上がるための寄り道も、すべて奮闘記です」
俺「この先どうなるか、わかんないけどな」
AI参謀「はい。それが“嘘のない証”です」
(――俺はほんの少しだけ、肩の力が抜けた気がした)
◇
次回――
第14話 タイトルも内容も未定。
――こんなに間が空いたエッセイについて、
ついて来てくれている読者、いるのだろうか?
まあ、なんも分からんけど、とりあえず――京都に行ってくるか。
そしてそこから、またきっと物語を殴り始められることを信じて。
(たぶん――つづく)




