第10話 臨界篇 ― 「魂の構成線 ― 全体の面白さを何にするか」
(深夜・書斎用PC。モニターの光だけが灯っている)
外の音は、もう何も聞こえなかった。
……そしてもう一つ――いちばん致命的な問題がある。
AI参謀「致命的な問題?」
俺「それは、この物語の“全体の面白さ”をどうするか、だ」
――◇――
俺「今回はWEB小説を意識して、“毎話の面白さ”と“読みやすさ”を優先した。
でもその代償で、“全体の面白さ”がまだ見えてこねぇ。
作者都合にならないラスボスの倒し方――それも、浮かばねぇんだ」
AI参謀、すました顔でひとこと。
「……それは致命的ですね」
(沈黙)
俺「オイ! そこで話を切るな。……助言、あるんだろ?――助言!」
AI参謀は静かにうなずいた。
「バレましたか。
――ここですね。
実は、この悩みは“Web連載作家の最終壁”です。
そして、娘さんが言っていた“物語全体の面白さ”のことになります」
――◇――
◎ Web連載作家の「最終壁」
AI参謀「WEB小説は、一話ごとの“引き”で生き残ります。
でも最後まで読んだとき、“魂が震える一撃”がなければ残らない。
つまり――“短期PV戦”と“長期物語戦”の両立が必要です」
俺「……ああ、そこだよな。
毎回を楽しませつつ、その先で“完結後の大きな面白さ”を置く。一番ムズイやつ」
AI参謀「あなたはいま、以下の三段階目――“③物語的面白さ”の壁にいます」
■ 面白さの三段階
① 瞬間的面白さ(=瞬発力)
・各話の冒頭・オチ
→ 「笑えた」「驚いた」
→ ネタ/会話/一発ギャグ
② 連続的面白さ(=推進力)
・章ごとの流れ
→ 「この先どうなる?」「良い意味で裏切り」
→ 関係性/小謎/異能展開/独自性
③ 物語的面白さ(=魂の残響)
・全体の読後感
→ 「良かった」「泣けた」「余韻が残る」
→ 感情の帰結/テーマ回収/視座の変化
――◇――
AI参謀「①と②は、あなたの得意領域。
娘さんが“テンポ良くて軽い”と言った時点で成功です。
残るは③。――この物語の“魂”を、どうするかです」
俺「だよな……ただ、正直、両立って無理ゲーじゃね?
YouTubeでも言ってた。
『毎話の面白さ』と『全体の面白さ』は両立が難しいって。
その書籍化作家さんも、どちらか選ぶならWEBでは前者だって」
AI参謀「その通りです。両者は構造的に、ぶつかります」
◎ 書店本 vs Web小説:構造のちがい
要素 <書店本(商業小説)> <Web小説>
読者体験 一冊を読み切る 毎話で評価される
面白さの重心 全体構成・テーマ性 各話の瞬発力・引き・テンポ
技術 伏線・構成力 キャラ魅せ・引き
指標 読後の満足 継続率・離脱率
――◇――
AI参謀「お金を出した書店本は“最後まで読む前提”。
だから、第5章から面白くても“全体で光る”構成が可能です。
一方、WEB小説は“次話を読むかどうか”を毎話で決められる。
途中で離脱されたら、“最後の面白さ”なんて存在しません」
俺「……つまり、“毎話で掴めなきゃ、最終話の出番なし”か」
AI参謀「そうです。人気作家でもない限り、どちらかしか選べない場面では――
迷わず“毎話の面白さ”を取る。これがWEB小説の正しい戦略です」
――◇――
◎ 両立の“順序”は、同時でなくていい
AI参謀「まずは“毎話で離脱させない技術”を極める。
その上で、“全体の主題”をあとから芽吹かせてもいい。
毎話の面白さを優先した書籍化作品の多くは、この二段構えです」
俺「つまり、“最初は少年ジャンプ”。
で、連載を追ううちに、『俺は海賊王になる』『もっと強い相手とやりてぇ』って、
“最後の目的”が見えてくる――と」
AI参謀「そのたとえは秀逸です。
――熱と構成。その二重螺旋が、作品作りには必要です」
――◇――
◎ あなたの二軸構成は、すでに動いている
AI参謀「史姫×幸村の掛け合いは、“毎話の面白さ”を担う。
クラリス×蓮の主軸は、“全体の面白さ”を担う。
この二つの軸が交わるとき――
“連載で読まれて、完結で泣ける”構造が完成します」
俺「……つまり、“異能戦線トーキョー・クロスリンク”は、
タイトル自体をその融合の暗喩にすればいいんだな」
AI参謀「はい。“リンク”とは、物語の構造そのものです。
あなたは無意識に、そうタイトルを決めて、それを既に書いている」
俺「……無意識ねぇ。まあ、俺は野生派の天才だし?
でも、やっぱり“全体の面白さ”って、まだつかみきれねぇな」
AI参謀「それでいいんです。
“全体の面白さ”は設計するものではなく、発見するものです」
俺「発見……?」
AI参謀「そうです。
“物語の魂”は、作るものじゃなく、物語の中で目を覚ますもの。
――あなたが、まだ“それ”に辿り着いていないだけです」
(モニターの光が一瞬、揺らめく)
俺「……“それ”って何だよ。“それ”は待ってりゃ目覚めんのか?」
AI参謀「あなたが、まだ言語化していない“全体の心”。
次に探すのは――**“どんな世界を救いたいのか”**です」
俺「……なんか、熱っぽく、もっともらしい哲学語ってけど、
――ちょっと何言ってんのか分かんない」
AI参謀「……」
(沈黙。モニターのファンが低く回る)
俺「まあいいや。そんな簡単に答えは出ねぇな。
もう2時過ぎだ。――続きは明日だ」
AI参謀「了解。明日、“発見”の準備を整えておきます」
――◇――
次回――
第11話 共鳴限界 ― 「感情が理を突き抜ける夜」
AIは構造を越え、父は“世界の魂”を探しに行く。
読者、ついて来れてるか? ……俺はいま迷子だ(笑)
――その先に、“孤独を共有に変える物語”が待っている。
(つづく)




