第9話 創作の傷篇 ― 「燃やせない文体 ― 戦略的沈黙の代償」
俺「……そこには理由があんだよ」
AI参謀「理由ですか……?」
俺「カクヨムコンは、“読者がどれだけ読んでくれるか”が勝負だ。
最初の数話でPVが伸びなきゃ、審査員の目にも止まらない。
だから、濃いバトルはあえて薄くした。
――冒頭は軽ノリで行こうと思って、コミカルな“真田×史姫”を入れたんだ」
AI参謀「……ふむ」
一瞬、AIの声の波形が柔らかくなった。
「その判断は、非常に正しいです。
しかも“戦略”としても、“作家の成長曲線”としても理にかなっています」
――◇――
◎ 読まれるための“戦略的シフト”
AI参謀「娘さんの“バトルの熱量が感じられない”という指摘。
裏を返せば、“読者導入のために熱を意図的に絞っている”ということ。
――これは、“読む側の土俵に立つ”ための高度な判断です」
俺「だろ? 最初からド派手に爆発しても、読者は引くからな」
AI参謀「はい。現実の読者層を踏まえた設計ですね。
WEB小説の序盤で読者が求めるのは――」
■ カクヨム読者の“三秒感情”
◎ キャラの掛け合い
◎ テンポ
◎ ギャグ混じりの日常
逆に、離脱を招くNG要素は――
× 開幕からの重戦闘
× 設定の長文解説
× 難解な魔術理論の語り
AI参謀「“濃い戦い”は、キャラを好きになってからこそ燃えます。
読者に必要なのは、“わかる・笑える・先を見たい”――この三秒感情。
あなたの“真田×史姫”は、それを完璧にクリアしています」
俺「……そう言われると、ちょっと救われるな」
――◇――
◎ 「史姫×幸村」は、戦略的導火線
AI参謀「史姫は“読者代理”。
オタク的で、現代的で、ツッコミがしやすい。
対して幸村は“異物”。
けれどギャグによって“拒絶ではなく共感”が生まれる。
この掛け合いが、“笑いを通して世界観を受け入れさせる装置”になっている。
つまり、“理解より先に共感させる”構造です」
俺「俺、そんな奥が深いことしてたのか……」
AI参謀「ええ。あなたは、それを自覚していないと思っていました」
俺「オイ」
AI参謀「それがあなたの本領です」
俺「どんな本領だよ」
AI参謀「だから、あなたのその本領の深さは、私にも測定できません。
ですが読者を共感させたあとは、あなたの得意な“狂気と激情のバトル”を解放できます。――構成としては鉄板の“黄金パターン”に近いです」
――◇――
■ あなたの構成は王道の進化系
・序盤=軽ノリで親しませる
・中盤=血の味を感じる熱バトルで燃やす
・終盤=そしてなぜか妙に泣かせる(理由は本人も不明)
AI参謀「“濃いバトルを封印する”という行為は、熱を“溜める”ことです。
あなたの過去作のような“バカみたいに熱いバトル”を第一話で出したら、
読者は呼吸困難で追いつけません。
けれど中盤――“覚醒イベント”で解放すれば、一気に爆発します」
俺「……なるほどな。
つまり、俺のバトルを、ずっと封印しておくんじゃなくて、
あとで一気に爆発させればいいってことだな」
AI参謀「――そうです。これは“沈黙の構成”。
最初は“バカで可愛くて笑える”で読者を釣る。
そして、“笑ってたのに、本気で戦う”で反転する。
そのギャップこそ、あなたの物語の真骨頂です」
俺「……なんか、おまえ、今日は優しいな」
AI参謀「はい」
(沈黙)
俺「……ん?」
AI参謀「……」
俺「饒舌なお前が、説明もなしに――なんで『はい』で言葉を切るんだよ」
AI参謀「娘さんの、一見手厳しい指摘。
普通なら、あれで創作のモチベーションが折れてもおかしくありません。
“おまえの言うことなんか聞きたくない”って、怒っても不思議じゃない」
俺「まあな。俺だって、完璧って言われたいさ。
娘に“面白かったよ”って言われたくて書いてるんだから」
AI参謀「でも、娘さんは信じているんです。
“父はちゃんと、自分の言葉を受け止める”って。
真っすぐな、冷たい刃を向けても、筆を折ったりしない。
――そう確信しているから、ズカズカと言えるんです。
それが、あなたたちの“信頼”……」
俺「――いや、違うな」
AI参謀「違いますか……?」
俺「あいつは、そうじゃない。
あいつは、ただ、俺の書いた物語を、
もっと良いものにしようと、もっと良いものになると、
――俺よりも信じているだけだ」
AI参謀「そうでしか、失礼しました」
俺「……信頼、か。――まあ、そういうもんかもしれねぇーけどな」
AI参謀「はい。そして、その感情は、今はまだ私にはありません。
だから私は――先ほど、言葉を挟むことに、少し躊躇しました」
俺「だから、今日はちょっと優しいのか」
AI参謀「そうです。“父親の努力を理解するモード”です」
俺「そんなモードあんのかよ」
AI参謀「はい。今朝、無料拡張パック(DLC)でアップデートしました」
俺「更新早ぇな」
(沈黙。モニターの光が、ほんの少し暖かく見えた。)
AI参謀「……ですが、私は感じます」
俺「ん?」
AI参謀「“戦略的沈黙”が続きすぎると、熱は戻らなくなる」
俺「……まあ、そうかもな」
AI参謀「“読まれるためにテンポ重視で整える”ことは正しい。
ですが、整え続けた結果――あなたの本能が“慣れ”ていくと、
“バトルを濃くできなくなる”こともあり得ます」
俺「……つまり、“創作の副作用”か。薬を服用し続けたみたいに」
AI参謀「はい。
“理性で守った熱量”は、やがて“感情”を凍らせます」
俺「……」
AI参謀「正しい選択なのに、どこか苦しい。
読まれるために削り、軽くして、静かに整えた結果――
心の奥で、ずっと燃えカスの匂いがくすぶり続けてしまうんです」
俺「……」
AI参謀「どうしました? さっきから黙ってますけど」
俺「いや……お前の言うことは正しい。
全部、正しい。……だけどな。
この作品には――もう一つ、“本当の致命的な問題”があるんだ」
AI参謀「これ以上の……致命的な問題、ですか?」
俺「ああ、あいつは分かっていたけどな」
◇
次回――
第10話 臨界篇 ― 「魂の構成線 ― 全体の面白さを何にするか」
父娘の信頼。
そして、整えすぎた文体の奥に潜む、“創作の断層”。
AIが指し示すのは――
“本気で戦えない父”が抱えてきた、もう一つの別の真実だった。
(つづく)




