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第67話 三人の偽勇者 ― 眩しい戦い ―

 帝国の宮廷地下。

 黒い石の壁に囲まれた会議室には、怒号とため息が混ざっていた。

 蝋燭の炎がゆらめき、高官たちの顔に陰影を作る。


「二人目の偽勇者が捕まっただと!?」


「王国の民に笑われて終わりとは、恥さらしもいいところだ!」


「“全裸の偽勇者”という作戦名からして間違っている!」


 机を叩く音の中、ただ一人、グラナードは沈黙していた。

 そして、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「……ならば三人だ」


「は?」


「なんだと?」


 ざわめく声を無視して、彼は書類を机に並べた。

 三枚の肖像画が並ぶ。

 そこには、チビ、ノッポ、ハゲの三兄弟。

 帝国でも底辺の諜報員たちだ。


「奴らは幼少期から息が合っている。三人揃えば、一つの強力な馬鹿になる」


「……誉めているのか、それは」


「愚かさは混乱を生む。最も恐ろしい武器だ」


 グラナードの瞳が怪しく光った。

「訓練を始めろ。光頭三連星の完成まで、三日だ」



 帝国訓練場。

 朝の光が差し込む中、全裸の三兄弟が並んで立つ。

 顔と股間には真っ黒な墨。

 空気は真剣そのもの……のはずなのに。


「ノッポ兄ぃ、風が冷たいっす」


「チビ、黙れ!修行だ!」


「ハゲ兄貴、光って前が見えません!」


「それが俺の武器だッ!」


 教官は頭を抱えた。

「……帝国は、いつからこんな国になった……」


 それでも三兄弟は息を合わせて立ち上がる。

 チビが下、ノッポが中段、ハゲが頂上。

 組体操のように積み上がり――叫ぶ。


「光頭三連星ェェェ!!」


 ピカァァァァァァァンッ!!


 ハゲの頭頂から閃光が炸裂。

 訓練場が昼のように輝き、教官も高官も叫んだ。


「目がァァァァァァ!!!」


「ハゲが太陽だッ!!」


 グラナードは満足げに腕を組み、呟いた。

「いい……この馬鹿さ加減が王国を混乱させる」



 数日後、王都中心街の広場。

 昼下がりの陽気な市場に、突如として人の波が集まり始めた。


「勇者だ!」


「今度は三人出たぞ!」


 商人たちが口々に叫ぶ。

 果物屋のおばさんは手を止め、子どもたちはパンを抱えて走り出した。


「また全裸か?」


「うちの店の前でやるなよ、客が逃げる!」


「いや、見物客が増えるかも」


「商魂たくましいな!」


 市民たちがわいわいと集まり、広場はちょっとした祭り騒ぎに。

 舞台の上には三人の影――チビ、ノッポ、ハゲ。


「我らこそ真の勇者! 三勇者シゲルズ!!」


 その名乗りに、一瞬の静寂。

 ……次の瞬間、大爆笑。


「シゲルズって!」


「増えてるやん!」


「あのハゲ、輝きすぎ!」


 子どもたちは指を差して笑い、露店の主人まで手を叩いて笑っている。


「行けぇー!チビ!」


「ハゲー!まぶしいー!」


 リオナは腕を組み、深くため息をついた。

「……ほんと、どこまで脱ぐのこの国」


 俺は顔を覆いながら呟いた。

「関係ないけど、俺のせいにされる未来が見える……」


 ステージの上で三兄弟が組体操を始める。

 チビが支え、ノッポが伸び、ハゲが頂上で仁王立ち。


「三位一体! 光頭三連星ェェェ!!!」


 ピカァァァァァァン!!

 光が炸裂。

 パン屋の看板が焦げ、猫が跳ね上がり、ハトが真っ逆さまに落ちてきた。


「ぎゃあああ!」


「パンが黒焦げに!」


「水、誰か水ーっ!」


 リオナの眉がピクリと動く。

「こいつら……本気で燃やす気?」


 そして剣を抜いた。


 剣の腹をひらりと返し、リオナは跳び上がる。

 そのまま、振りかぶって――


 パァァァァァンッ!!!


 ハゲの頭に剣の腹が炸裂。

 乾いた音が王都中に響き、光がパッと消えた。

 ハゲは空中を一回転し、広場の噴水に着水。


「兄貴ィィィィ!!」


「うわ、今の音スカッとしたな!」


「見ろ、ハゲから虹が出てるぞ!」


 人々は大笑い。

 エルナは呆然としながら呟く。

「ま、また……裸の人たちが……」


 俺は頭を掻いて苦笑した。

「エルナ、気にするな。もはや恒例行事だ」



 夕暮れのなか、捕らえられた三兄弟は広場の隅で反省文を書いていた。


『二度と人前で全裸にはなりません』


 市民たちは笑顔で帰っていく。

 子どもが地面に描いた落書きには、こう書かれていた。

 “ひかるはげのゆうしゃさいこう!”


 リオナは腕を組んで小さく笑った。

「まあ……平和ってことね」


 エルナは頬に手を当てながら微笑む。

「笑いの力って、すごいですね」


 俺は空を見上げ、ため息をつく。

「もう、どこまで行っても恥しか残らない気がする……」


 その瞬間、頭の中に神の声が響いた。

『ふむ、三人は良いな。今度は五人にしてみようか』


「やめろ(ジジイ)ィィィッ!!!」


 風が吹き、広場に笑い声が響いた。

 それは、戦いよりも確かな“平和”の証だった。

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