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第6話 ギルドの二人と書類地獄

 ギルドの扉を開けた瞬間、ざわめきと紙の音が押し寄せた。

 冒険者たちが依頼書を奪い合い、受付の前には長蛇の列。

 パン配達を終えたばかりの俺は、汗とほこりまみれのまま列の最後尾に並んだ。


 ……今日中に報告書出さないと、依頼失敗扱いか。めんどくさい世界だな。


 カウンターの奥では、見覚えのある顔がにこにこと手を振っていた。


「シゲルさん、おかえりなさ〜い!」


 セリナだ。パンを片手に。

 受付嬢が勤務中に菓子パン食ってるってどうなんだよ。


「おつかれさまです〜。無事、配達できましたか?」


「ええ、まあ。いろいろあって」


「“いろいろ”……って、何かあったんですか?」

 セリナが興味津々に身を乗り出す。


 いや、そんな話、ここで言えるか。全裸で魔法使いましたなんて。


「パンが少し……飛びました」


「え? パンが飛ぶ!? 魔法ですか!?」


 まずい。余計なことを言った。


「セリナさん」


 隣から、きっぱりした声が割り込んだ。

 黒髪をきっちりまとめた女性が、冷静に書類をめくりながらこちらを見ている。


「勤務中の私語は禁止です」


 新顔だ。声に威厳がある。

 セリナが頬をふくらませる。


「もう〜マリアさんってば、固いんですよ〜」


「私は規則に従っているだけです」


「ねぇシゲルさん、この人ね、朝からずっと“規則です”ってしか言わないんですよ」


「は、はあ……(なんで俺がこの会話に巻き込まれるんだ)」


 マリアはセリナのパンを横目で見て、溜息をひとつ。


「勤務中の飲食も禁止です」


「パンは飲み物です〜」


「……人間の形をした問題児ですね」


 この二人、同じ職場で本当にやっていけてるのか?


 報告書を手渡すと、マリアがすぐに書類を確認しはじめた。

 字が綺麗だ。セリナと対照的に、一切の無駄がない。


「依頼経過の詳細が抜けています」


「えっ?」


「“敵対存在との遭遇”欄も未記入ですね」


「いや、パンの配達に敵対存在とか……」


「稀には、パンを狙う魔獣に遭遇する可能性もあります」


「そんなピンポイントな可能性あるか!?」


「あります」


 断言された。

 しかもすごく冷静に。


 セリナが手を上げて口を挟む。


「でもね〜、スウィートテール出たんですよね? 甘い香りで襲ってくるやつ」


「それは……偶然だ」


「偶然でも報告しておきましょう〜♪」


「……ああもう、わかったよ」

 俺はペンを取って“敵:スウィートテール”と書き込んだ。

 これが“社会に馴染む”ってやつか。


 書き込みを続けていると、横から冷たい指先がペンを止めた。

 マリアが差し出したのは、ミントの葉が浮かんだ水だった。


「集中が切れると記入ミスが増えます。どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


「職務上の配慮です」


 言葉は冷たいが、その手はやわらかかった。

 セリナがにこにこしながら囁く。


「ね、マリアさん優しいでしょ〜?」


「優しいとは違います」


「違わないですよ〜。ね、シゲルさん?」


「え? あ、うん。そう……かも」


「やっぱり!」


「違います」


 この掛け合い、延々続きそうだな。


 なんとか全ての欄を埋め終わり、提出すると、マリアが満足げに頷いた。


「確認しました。問題ありません」


「おつかれさまでした〜! おまけで笑顔つけときますね!」


「何の項目だよそれ」


「無効です」


 俺が頭を抱えた瞬間、どこからかあの声が響いた。


『ふむ……報告書より笑いの方が多いのう』


(ジジイ)、黙れ!」


「えっ!?」


「今なんか聞こえました?」


「幻聴でしょうか」


「幻聴じゃねぇ!」


 カウンターの二人は顔を見合わせて笑った。

 その笑いに、なぜだか少しだけ救われた気がした。


 ……まあ、悪くない職場かもな。

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