ヒーロー1
市長の次席秘書官を勤める不座さんから音声通話をもらったのは、シナガワ署の事件から数日後、いつものように僧服に着替えたスカリーシェリを、門限ギリギリで大聖堂へ連れ帰る道すがらの事だった。
「ーー以上が呼称『シナガワ事変』に関する決定事項となります。何か質問はありますか?」
「いや、えーと、その・・・・・・」
正直な話し、不座さんが伝えてくれた内容は現場に降りてくる内容ではなかった。どう返事をすればいいのかも分からずにいると、困惑を察したのか、不座さんが電話向こうで小さな笑みをこぼした。
「鞍馬さん、市長から貴方に言伝を預かっております」
「え?」
「よくやった、とーー」
あ、と息を呑んだタイミングで不座さんは「失礼します」と通話を終えた。
瞬間的にぼうっとする。
多分、嬉しかったのだ。
が、それを認めてしまうのも癪である。
ヤクザのようなこわもてを思いだし、
「・・・・・・人たらしめ」
簡単にろうらくされてやるものかと呟くと、横顔にスカリーシェリの視線を感じた。
大聖堂前の人混みの中、一歩さがって周囲を警戒中のリュキウスと違い、全身を耳にして聞き耳を立てていたスカリーシェリに結果を伝えた。
「何も発表はしないらしい」
公式の発表はもちろん、SNSもAIが完全監視中で関連した書き込みは全て削除しているという話である。
共生派による治安機関へのテロ攻撃が少なからず被害を生んだ、なんて事実が世間に漏れてしまえば社会不安を醸成してしまうし、ひいては多くのテロ事件を招きかねない、というのが理由らしい。
理屈は分からなくもないが、それって都合が悪いから隠蔽しているんじゃないの、とも思ってしまう。
「じゃ、全ては闇の中ってこと?」
僕と似たような感想を抱いたのだろう。スカリーシェリの声音が尖っていた。
首を横に振った。
「いや。市長直轄の特捜班が組織され事件ーー六年前の出来事も含めて再調査が行われるって話だった。それと・・・・・・」
「まだあるの?」
ああと頷き、一息で言った。
「シナガワ署の機動部隊は解散がきまったってさ」
「そっか。うん。それでユーリが納得したなら、ボクが言うことは何もないかな」
別に僕が納得する話しではない。そう指摘しようとしたが、軽やかな足取りのスカリーシェリは「じゃあね」と僕とリュキウスに手を振ると、迎えに出てきた僧服姿のシスターたちのもとへ駆け寄ってしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・ふむ、ま、いいか」
僕は痒くもない頭を軽く掻いた。
今回は少し短いですが、続きは8日に書きますのでもう少し待っていてくださいませ。




