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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
薔薇の名前

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焰2

 ギャーギャー言い争い(おだやかにはなしあい)、僕は下に飛び降りた。

 出入り口を封印していた呪術結界はとうに消え去り、担架に乗せられた無数の遺体袋がシナガワ署の中から運び出されていく。

「・・・・・・・・・・・・」

 分かっていたけど再び実感してしまった。

 僕はヒーローにはなれやしないのだって。

 起こってしまった出来事を無かった事にすることもできないし、奇跡を起こして悲劇を打ち消す真似もできやしない。

 いつだって終わってしまった惨劇の後始末に奔走する道化じみた掃除屋、それが僕の現実だ。

(救いたかった、でも誰一人も助けられなかった)

 そう思うことすら勘違いな贅沢品。

 息苦しい無力感が胸を締め付ける。

 言葉なく彼らを見送っていると、不意に背後から肩を掴まれた。

 振り返ると僕と年格好の変わらない獣人の警察官が、周囲の制止を振り切って泣き腫らした赤い目で叫んだ。

「これはいったい何なんだ? あんた、皆を助けに入ってくれたんじゃなかったのかよ!」

「やめろ、よさないか!」

 ブレストプレートで武装しただけの軽装備の警察官たちが慌てて止めに入るも、同僚と同じく軽装備の若い警察官は止まれなかった。

「教えてくれ、どうしてあんたの銃が一階にいた連中を撃ってるんだよ?」

「いい加減にしろ!鑑識の連中が言ってただろ、アークナイトが突入した時点で署内はとっくに全滅していたって。このヒトは皆の尊厳を守ってくれただけだ」

「・・・・・・あんたが母さんを撃ったのか。俺の母さんを、見捨てたのかよ、うぅぅぅぅッ」

(・・・・・・そっか、あの時の誰かか)

 だとしたら、僕には成さなければ事がある。

「ぁ、ユーリ」

 僕を迎えに来てくれたのだろう。すぐ側まで来ていたスカリーシェリが口元を押さえて、警察官の泣き声に凍りつく。

 フードを目深に被っているから本当の表情は分からないけど、きっと悲しげな顔をしているスカリーシェリを無視した僕は、完全武装でスカリーシェリを守る位置に立つリュキウスに兜を放り、白い髪と冷笑を浮かべた赤い目を晒すと、

「ああそうだ。中にいた連中は僕が駆除した。それがどうかしたのか?」

 事もなく言いきった。

 驚きで目を丸くした警察官の表情に理解が広がり、

「てめぇ!!」

 憤怒のままに振るわれた拳を嘲り笑いで軽く躱すと、カウンターで獣人警察官の腹を穿つ。

「がはっ」

 装甲を貫いた衝撃が両足を浮かせ、苦悶の表情を浮かべた警察官が身体をくの字に曲げて膝を折る。

 僕は涙と涎に汚れた彼が倒れるの許さなかった。

 即座に腕を伸ばすと薄茶色の頭髪を乱暴に掴み上げ、絶望に瞳を濁らせた警察官の鼻先まで顔を近づけ見下した目で嗤った。

「雑魚ーー」

(絶対に君の大切な人を殺した悪鬼の顔を忘れるな)

「・・・・・・・・・・・・っ!」

「お前の親がドレかなんて興味もねーし。だいたい、そいつが弱いから死んだだけの話だろ?」

「!?」

 警察官の目尻がキッと吊り上がり、心の底から沸き起こった灼熱の殺意が瞳の中で荒れ狂う。

 その熱に冒されて泣くことを放棄した警察官が憎悪を吐き出そうとしたその時。

「もうやめて。そんなこと言うなんてユーリらしくない!リュキウスさんもユーリを止めて!」

 止めに入ったスカリーシェリとリュキウス、そして多くの警察官たちに引き剥がされて、僕と獣人の警察官の決裂はどうにか回避されたかに見えたが。

「・・・・・・あんたのツラ、覚えたからな」

 仲間たちに腕を抱えられた警察官が怒りに声を震わせた。

「好きにしろ」

 僕は冷笑を浮かべて一別すると、興味を失った表情で彼に背を向けた。


「ユーリ、どうしてーー」

「スカリーシェリ殿」

 白銀の兜を外し特徴的な躑躅色の髪を夜風になびかせたリュキウスが、物静かな口調でスカリーシェリに言った。

「心の焰は優しさだけでは絶対にともりません」

「え?」

「悲しみから、絶望から。再び立ち上がるための熱量は怒りでしか産み出せないのです」

 断言したリュキウスに僕は唖然とする。

(読まれた・・・・・・?)

 心の内を、だ

 リュキウスが微笑んだ。

「ユウリさまのお優しさは、きっとあの場にいた警官たちにも伝わっております」

「お優しさ?・・・・・・うーん、あ、そういうこか。じゃあ、ユーリはあのおまわりさんを元気にするためにーー怒らせるためにわざと嫌われモノになったってこと?」

「はい」

「そっか、うん。やっぱりユーリって凄いね」

「ええ、完全に同意します」

 などとスカリーシェリとリュキウスが頷き合っている。が、こういう種明かしは当人の前でやるべきではないと僕は学んだ。

 何故ってーー

「や、やめろ。別に僕はーー」

 心の底から恥ずかしいのだ。

「あー、ユーリってば真っ赤だ」

「可愛らしい。テレておられるのですね、ユウリさま」

 移動する大聖堂特別分室がゴコクジの大聖堂に帰還するまでの間、僕は車の中で彼女たちに弄られ続けたのだった。



次回は28日の23時頃を予定しています。よろしくお付き合いくださいませ。

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