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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
薔薇の名前

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38/51

シナガワ鬼譚7

「あの日、私が奪還を命じられたのは、ガブリエルのホルンに制圧された孤児院でした」


 背後に響いた激突音。

 背中を炙る業火。

 スプリンクラーが泡状の消火剤を撒き散らし、自己弁護でも始めるつもりなのか、声音を代えた館内放送が頭上に流れると同時。待ち構えていた斥候型のバトルドレスが、片膝をついた射撃姿勢でサブマシンガンを乱射した。

 右に左にステップを踏みながら距離を詰め、サブマシンガンの火線をおちょくるように銃撃をかわすと一気に跳躍。バトルドレスの肩を踏み台に着地し、その頭頂部に左手ーー逆手に引き抜いた国俊を差し込み制圧完了。

 刹那、空気が震えた。

 案の定、もはやお馴染みになったタイミングで、右手側から青い輝きを帯びたミスリルブレードが首筋を狙って横振りされた。

「ワンパターンがすぎる、これじゃまるで何か狙いがあるみたいだ」

 首を傾げながら肩の上から跳躍し、横薙ぎの斬撃をかわす。

 着地を反動に床を蹴り返し、一角騎士兜のバトルドレスに肉薄すると、右手を首前で交差させ、勢い任せに刀を振るった。

 横一文字に振るわれた刀身が、唸りをあげて騎士兜の首へ吸い込まれる瞬間。

 青と赤に火花が散った。

 鈍い打撃音が鳴り響き、掬い上げられた長剣の一撃で刀が折れた。

 攻撃失敗。だが、別の見方をすれば、騎士兜のバトルドレスがこちらに放つ予定だった斬撃を防御に使わせることには成功したとも言える。

 そして、そちらが僕にとっての大本命。

 身を屈めて左手を振り上げた。

 ほんのわずかな手応えを残し、相手の左腕が肘下から切断される。

 肉体の欠損は身体バランスを大きく損なう。バトルドレスは影響を最小限に修正してくれるけど、この至近距離なら極小の隙でも十分な攻撃時間となり得る。

 国俊を一角兜へ叩きつけ、その額をぶすりと差し貫いた。


「施設内に転がる無為に殺された同胞たちの亡骸。泣き叫ぶともがらの身体にくくりつけられた爆弾。助けを求める指先。それら全てを踏み潰し、立ち塞がる悪鬼のことごとくを排除して子供たちの元へ急いだ私が見たものは、本物の地獄でした」


(まさか、過去を再現して見せたのか?)

 しかし、それは何のために?

 解けない疑問を抱えたまま、人気のない廊下を歩いた。

 監視カメラがこちらを見ている。

 廊下に面したオフィスは左右共に壁に大穴が開き、中は目を背けたくなるほどに赤色が天井までぶちまけられていた。

「せーー」

「おらん」

 ユウダチが不機嫌に答えたその時、不意にーー

「ーーーー」

 女性の泣き声と懇願する声が聞こえた。

 一人じゃない。聞き取れるだけで五人。きっと一人はまだ・・・・・・子供だ。

 そして、耳の奥に響いた下卑た笑い声。

 何をしているのか、ナニをしたのか。それが分かってしまう声だった。

 けれど、と思う。

 ここには生存者なんて一人もいないのに、どうして僕の耳にはそれが聞こえているのだろうか。

(精神干渉? だとしたらーー)

 唇を強く噛んで、痛みと血の味を知覚する。

 幻聴が消えた。

「・・・・・・何が狙いだ」


「知って欲しかった。貴方が聞いたとおり、彼らはソレをした。そこに正義はありませんでした」


 廊下の突き当たりに、明かりが零れているひしゃげた扉が見えた。

 そこを目刺しながら、怒りが口を吐いた。

「正義だと!?」

「私は戦士だ。貴方は違うのですか?」

「違う。僕はあんたみたいに、正義を味方に自己正当化するテロ屋じゃない!」

「私はテロリストではありません。そしてテロリストであったこともない。友を守り、同胞のために戦った我が闘争に恥じ入る曇りは一片もなかった。貴方と同じです」

 声が冷静に、そして忌々しく諭す口調で言いやがった。

 冷静さが飛んだ。

 こいつが護った友とやらの中に爆弾を運んだクズはいなかったのか。

 こいつが言う同胞とやらの中に繁華街で、公園で、多くの無関係な人々を巻き添えにした爆弾テロを行ったクソ野郎がいなかったと断言できるのか。

 出きるわけがない。

 共生派って連中は、自分の主張のためなら他者に犠牲を強いても平気な生粋のテロリストだ。

 そもそもーー

「ふざけるな!この地獄を生み出したあんたがテロリストじゃないって言うのか!!」

「きゃは。あったりまえじゃん。コレをやったのはあたしでぇ。先生は全然関係ないもの」

 軽薄な笑い声が、ささくれた感情を刺激した。

 殺意を込めて、廊下の突き当たり、ひしゃげた扉の内側ーー第二機動部隊詰め所の内側を睨んだ。


「は〜い、そこの鬼ぃさ〜ん。これが見えてるよね。少しでも動いたら、この人の頭、ぐちゃって握りつぶしちゃうぞ?」


 甲冑型とは明確に異なるデザインーー首がなく胴体と一体化した頭部にモノアイを輝かせた異形、シャーマンスタイルのバトルドレスが、引きずるように長い腕の先、三本の長く鋭い爪で顔に傷を持つ中年男性の頭部を鷲掴み、中刷りにした。

「助けて、何でもするからこいつから助けて!」

 両足を膝下から切断された強面の男が、歯が一本もない血塗れの口で泣き叫んだ。

次話は30日の23時台更新を予定しています。

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