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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
薔薇の名前

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37/51

シナガワ鬼譚6

 死ぬ、刹那に感じたのはそれ。

 死が絶望と手を取って心の中で躍り笑い、次に感じたのは灼熱=怒りだった。

(変体クソ野郎を喜ばせるためだけに死ぬーー)

 どくん、と心臓が跳ねた。

 この地獄を産み出したイカレ殺人狂を殺さなきゃ、僕らのような想いをしてしまう人たちが犠牲者の数だけ、いいや、それ以上生まれてしまうのに。

 悲劇でしかない結果を知っているくせに、足掻きもせずにこんな所で意味もなく果てるのか?

 あの葬列を、誰か(ぼくたち)の慟哭を許容するのか?

「・・・・・・ざけんな」

 左腕が動いた。

 斬撃のダメージなんて知らない。

 流麗に、そして力強く国俊を一閃した。

 真二つに分かたれた破甲弾が音を立てて床に転がる。

 攻撃失敗を悟った襲撃者はおよ百メーター向こう、廊下の突き当たりからスナイパーライフルを連射し、照明が落ちた暗闇に四つのマズルフラッシュが生まれた。

 即座に国俊を逆手に持ち替え、隣で棒立ちする首無しバトルドレスの胸元へ叩きつける。

 そのまま左腕を引き寄せれば、ドスン!バキッ!グシャ!ガキン!

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 首どころか右肩から下もなくなり背中に大きな穴が開いた即席の盾を全面に押し出し、アンチマテリアルライフルを構えて前に走りながら撃った。

 暗闇の先へ火線が三つ迸り、夕立の目がうっすらと四散した赤い飛沫を確認した。

 だが、息を吐く暇はなかった。

「熱源反応及び冥呪核反応有り。槍と太刀で武装した戦士型が二騎、こちらに向かって高速で接近中じゃ」

「了解」

 爪先で床に散らばるマガジンを蹴り上げ、流れ動作で装填を済ませる。

 スコープを直接覗き込み、こちらからも走りながら撃った。

 槍を装備した先頭の頭部が弾け飛ぶ。が、ここは生身が歩いて使う廊下に過ぎない。高速移動するバトルドレス同士で接近すればあっという間に距離は消失し、目の前まで近接していた残存の一騎が容赦なく太刀を振り下ろした。

 ミスリルと強化筋肉と生体で構成された盾を掲げる。

 耳をつんざく激突音が天井に木霊し、盾は一瞬に軽くなったが、一切構わずアンチマテリアルライフルの銃口を相手の顔面に押しつけると同時、フルオートでトリガーを絞った。

 ボン!!


「酷いなぁ、まるで本物の鬼じゃない」


 館内放送で流れた女性の笑い声が僕をなじった。

「幽理、どうやら誘い込まれたようじゃ」

 左手後ろ、右前方。それぞれに扉が開き、中から目の光をなくした警察官たちが一斉に押し出されてきた。

 目算で八十人前後。

 ほとんどが素手やペンを持っているだけで、ハンドがンを持っているのもせいぜいが十人程度だ。

 相手をせずに突っ切っても支障はない、そう判断したその時だった。


「た、助けて」

「あ、ぁぁ、たすけ、助けてくれぇ」


 前後を塞ぐ警察官の中で、獣耳を生やした妙に腹部を膨らませた女性警察官と、身体中を風船みたいに膨らませたエルフの男性警察官が、それぞれにリュックを背負って踞り、救いを求める手を伸ばしてきた。

「っ!大丈夫ですか!?」

 叫んだ。

 酷く間の抜けた問い掛けだ。

「手を出すな、あの膨らみはガスじゃ!きゃつら腹の中にガスを詰め込んでおるぞ!!」

 ハッとする。

 腹の中身は強可燃性のガス。彼と彼女が背負っているのはきっと爆薬だ。

(人間爆弾・・・・・・)

 そう、あの二人はバトルドレスすら吹き飛ばす高性能爆弾だ。

(どうすればいい、どうすれば助けられる!?)

 考えている時間はなかった。

 嫌らしいことに、リュックにくくりつけられた時計ーーリミットを意味する赤いデジタル文字は、もう十秒を切っていたから。


「あー、あー、てすてす。聞こえてます? タイムサービスで教えちゃいますけど、なんとぉ、その階層にいるヒトたちはみんな生きていま〜す、ヤッたね」


「!?」


「さあ、どうするのかな?」


 テロリストが愉快そうに決断を問う。

 ユウダチが鼻で嗤った。

「何を躊躇う必要がある。ここにおるのは全て死人だ。尊厳を奪われた亡者の群れにすぎん」

「・・・・・・了解」

 国俊を鞘に収め、後ろ腰に携帯してきたサブのマグプルを引き抜く。

 左手にマグプルを構え、狙いは夕立に任せてトリガーを引いた。

 聞き慣れた銃声と舞い散る血飛沫。

 人とヒトが倒れ伏せる中、床に転がるミスリル太刀を拾い上げ、一瞬で距離を詰めると。

「たすけて」

「・・・・・・っ!」

 唇を噛んで、救いを求めた獣人の女性警察官の身体を太刀で突き通した。

 背中を突き抜いた切っ先が爆薬を貫き、残り五秒の表示と、信じられないって目をした彼女の瞳から光が消える。

「く、うがああああああああああああああああ!!」

 こんなもの、意味のない叫びだ。

 それでも咆哮した僕は女性警察官から太刀を引き抜き、背後に迫る亡者の群れに向かって太刀を真横に振り抜き、降り注ぐ返り血を浴びながら返しの刃を振るう。

 むせ返るような血の臭いが装甲を汚しても、僕は惨劇の中を駆け抜け、残り表示一秒になった彼を。

「ーーーー」

 知らないダレかの名前を呟いたエルフの警官を、大上段から爆薬ごと真っ二つに切り裂いた。


「鬼ーー」


 館内放送で侮蔑が響くと同時、廊下の奥でカチッカチッ、ピーッ!!

 階段付近へ空気が吸い込まれ、そこに設置されていた爆弾が激しい火炎を巻き起こして爆発した。

 竜を思わせる火炎が廊下に満ちてしまった可燃性ガスに引火して燃え盛り、天井を、壁を、床を溶かしながら僕へと迫る。

 逃げ道はない。

 後退しても火炎に巻き込まれてしまうし、テロ屋に背中を向けるなんて絶対にごめんだった。

 視線を左右に散らす。

 見えたのは、制御を奪われて閉じられてしまったエレベーターだ。

「あれだ!」

 駆け寄って太刀を一閃し、残骸と化した扉を内側に蹴り飛ばす。

 迫る火炎は凶悪そのもの。

 ユウダチは余裕のていで、

「ふん、あの程度の火炎なんぞ・・・・・・あーいや、早く逃げよ。やっぱりアレはまずいのじゃ!」

 泣き言を言った。

「急かすな、分かってるから!」

 足を溜めて跳躍しエレベーターの稼働用ワイヤーにしがみついた。

 次の瞬間、轟音と共に迫り来たのは、火炎ではなくエレベーターの天井板。それも尋常なスピードではない。炎よりも早く、これきりでエレベーターが壊れても構わない、そういう速度だった。

 狙いは明白だ。

 僕を轢いて天井に叩きつけて押し潰すつもりなのだ。

 ニヤリ笑いが零れる。

(狙いどおり)

 天井板に着地し、床をミスリル太刀で切り開く。

 中へ滑り込むと、階数の表示は五階だ。

 すぐさま太刀で扉を斬った。

 表示はすぐに六階に変わり、僕はドアに体当たりをかますと向こう側へ、ミヒャエル・キーを名乗るテロリストが待ち受ける六階に飛び込んだ。

次は26日の23時頃の掲載を予定しています。遅い時間の掲載が続いてしまっておりますが、よろしくお付き合いくださいませ。

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