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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
薔薇の名前

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36/51

シナガワ鬼譚5

 誰かとダレカの遺影を胸に抱いた、白と黒の衣服を纏った子供たちの行列とすれ違った。

 そんな幻影を見た。


「外との通信は途絶したけど、中の機能は活きているみたいだな、ユウダチ、中央制御室にアクセスして生存者を確認してくれ」

 しばし待て、と呟いたユウダチが疑問を滲ませて言った。

「不思議なことに一人も確認できぬ。・・・・・・いや、まさかな。それよりも来るぞ、四十六体の動作反応を確認。カウターの奥に指令役じゃろうな、バトルドレスが一騎潜んでおるぞ」

 ユウダチの警告とほぼ同時。

 きっと平常どおりの照明の下で、四十六人の警察官や事務官たちが手にアサルトライフルやショットガンを構えている姿が目に飛び込んできた。

 それだけなら、この街の警察署ならありうる光景だが、しかし、彼らの衣服は血で汚れていた。全員が例外なく汚れていた。

 胸に、腹に、穴が開いていた。

 腕が欠損し、足がなくなっていた。

 顔が欠けていた。

 目に光が亡かった。

 何者かにコントロールされている、それだけは分かった。

(あれは領主クラスが使う『支配』の模倣だな)

 LAWSが用いる指揮能力の劣化コピーなら打ち破る方法だって有る筈だ。

「救出方法を探ってくれ、見つかるまで時間を稼ぐから」

「無駄はよせ。お主が神になる以外の方法など存在せぬよ」

「ユウダチ!」

「脳幹にへばりつく電磁蟲を吹き飛ばせ、それで楽にしてやれる」

「・・・・・・了解」

 マグプルのグリップを強く握ると、躊躇いは捨てた。

 動かない僕に狙いを済ませたのか、警官たちの亡骸が一斉に、そして緩慢に銃撃を開始する。

 ミスリル装甲の表面で無数の通常弾が跳ねた。

 が、警官たちが使っているのはあくまでも対人用だ。バトルドレス相手では、一発たりとも有効弾は生まれない。

 顔を上げて、トリガーに指を掛けた。

 スコープの中に見えたのは、四十歳を幾つかすぎた女性警察官だ。

 ひょっとしたら誰かのお母さんで、あるいは誰かの大切なパートナーかもしれない。その消失を嘆き悲しむダレカがいるかもしれない。

 それを承知で、彼女の額を撃った。

 血飛沫が舞い、動く遺体が物言わぬ死体に帰り、彼女だった何かが膝を折って垂直に崩れ落ちた。

 一歩前に出て、隣にいた若い男性警察官を撃った。

 その一生が幸せだったか不幸だったかは知らないが、間違いなく誰かの息子だった男を射撃した。

 脳と血が飛び散り、名前も知らない誰かが仰向けに倒れる。

 装甲が銃撃をくらってけたたましく鳴り続けた。

 更に進んで撃った。

 前に出て撃った。

 歯を食いしばって撃った。

 撃って撃って、撃った。

 トリガーを引いたのは正確に四十六回、全て一撃で脳を壊した。

 供養になるなんて絶対に思わない。

 彼らの名誉を守ったなんて冗談でも言えない。

 でも、僕に出きるのはもうそれだけだった。

「幽理!」

 叫ぶようなユウダチの警告を押し退けるように、カウンターの向こう側で二つ目が輝きを放った。

 それを視認した次の瞬間、金属製のカウンターを段ボール箱同然に蹴散らし、漆黒の甲冑に真紅の腕章を巻いたバトルドレスが西洋大剣を頭上に振り上げて突進してきた。

「大丈夫、ちゃんと見えてる」

 銃口を向けて撃った。

 迎撃に放った銃弾が漆黒の装甲板の上で跳ね飛ばされ、床に転がって途切れのない音色を甲高く奏でる。

 一気に近接した漆黒のバトルドレスは、素早い動作で大上段から大剣の一撃を振り下ろした。

 唐竹割りを狙った一閃をバックステップでかわし、騎士兜の頭部に銃撃を加える。それを煩わしいと感じたのか、床を抉った大剣が重く風を巻き、切り返しに一撃となって斜め下から喉に迫っていた。

 瞬間に、マグプルを天井へ放った。

 身を屈めて回転した僕は、漆黒のバトルドレスの脇の下へと潜り込むと、国俊を後ろ鞘から解き放ち、掬い上げの一撃で装甲ごと顎下から脳幹を貫いた。

 短い痙攣と、顎下から滴り落ちた鮮血。

「ボンクラが。ドレス着ている奴があっさりヤられてんじゃねぇよ。我ら悪鬼と成ろうとも人類最後の盾たらん、そう誓ったことも忘れちまったか」

 返事は無かった。

 その代わりに、停止したバトルドレスはゆっくりと軋みをあげて倒れ伏した。

「一階の制圧は完了じゃな」

「ああ」

 完全停止を横目に確認し、回転しながら落ちてくるマグプルを手中の納めて歩き出す。

 通りすぎた時にきこえた、本日のお勧めをつげる自販機のポップな音声ガイダンスが悲しかった。


「時間が惜しい。第二機動部隊の詰め所を探ってくれ、直行したい」

「オフィスは六階じゃな。見取り図を調べたが、その上がヘリポートになっておる」

 幸いなことに電源は健在だ。エレベーターを使おうとおもったが、そのボタンを押しても反応はない。

「制御を奪われておるな」

「そっか、こうなると聖教会のヘリで上から降下したした方が早かったかもしれないな」

「いや、屋上に火災が見えた。確認したわけではないがヘリが燃やされたと見るのが自然じゃろうて」

「下手に近づいて撃墜されても面白くないか」

「じゃな」

 万が一上手く下りられても、可燃性の燃料を満載したヘリコプターが燃え盛って通路を塞ぎ、少しでも行動が送れるとボン!は遠慮したい。

 となると、選べる進路は徒歩での階段踏破だがーー

「ふん、しっかりおるぞ。数は不明じゃがこの微弱な反応は隠蔽中のスナイパーじゃ」

「伏兵か。まぁそうなるだろうな」

 一階受け付けの戦闘で互いに挨拶は済ませた。

 ここら先はミヒャエル・キーを名乗る殺人鬼が、形振り構わず本気で殺しにくるのは明白だった。


 覚悟を決めて狭く暗い階段口に飛び込んだ瞬間、明確に空気が震えた。

 激しい破砕音をあげて床石ははじけ跳び、瓦礫になって降り注ぐ。

 パラパラと音をたてるコンクリート片を一切斟酌せずに斜めに跳び跳ねると、ゼロコンマ数秒遅れで再び床が抉れた。

「狙撃位置を捉えたぞ、二階の入り口に間抜けが一騎!」

 光学迷彩と遮温フィルムで隠蔽されたスナイパーの居所を、ユウダチがマズルフラッシュで特定する。目に前の壁を蹴りあげて飛び上がり、蹴り飛ばされたゴムボールの要領で斜め上の壁を更に蹴って跳躍する。

 蹴りあげた壁が三度目の狙撃で抉れるも、僕の姿は既に二階入り口に迫っている。

 このまま一気に行ければ楽だったが、案の定、近接戦に弱いスナイパーの護衛が、日本刀を抜き放って僕の前立ち塞がった。

 そいつを頓着せずに着地を敢行。

 即座に国俊を抜き打って、仁王立ちする戦士タイプのバトルドレスの真横に、何も見えない空間に、ユウダチがそこだと指定したその場所へ突き立てた。

 鮮血が吹き上がり、ヘルメットをぶち抜かれたスナイパーが機能を停止する。

 護衛対象を潰されて普通なら慌て狼狽えるはずの戦士タイプは、一切の動揺を切り捨てた様子で、攻撃を終えたばかりの僕目掛けて刀を真横に振り抜いた。

 分厚い装甲と防御力が売りの戦士タイプと違い、斥候型は当たれば即死確定、斬首確実の斬撃を避ける余裕はない。

(止める)

 左手に携えた国俊を首の横に構えた。

 激突音がして火花が散った。

 腕に伝わる重い衝撃。

 吹き飛ばされる感覚。

 壁に叩きつけられて目眩を覚えたが、歯を食いしばってそれを無視すると、右手に掴んだロングライフルのトリガーを引いた。

 空気が振動し、トドメを見舞おうと刀を振りかぶったバトルドレスの兜首が消し飛んだ。

 ぶすぶすと焦げた傷跡と、訪れた静寂ーー


「しもうた、幽理!」

「!?」


 視界の右端に輝いたのは、完全に姿を隠したスナイパーが放ったマズルフラッシュだった。


次は23日土曜日の23時ごろを予定しています。時間が遅れぎみになっていますが

よろしくお付き合いくださいませ。

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