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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
薔薇の名前

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34/51

シナガワ鬼譚3

 インカム通信の向こうでドタバタと騒がしさが遠ざかる。

 スカリーシェリは警察に事情を説明するリュキウスに同行したのだろう。

 それを契機にし、僕は苛立つ気分のまま薄暗い工房の中を見回してみた。

 事務所兼工房は来客用のカウンターをしきりに置いただけのシンプルな間取りをしていて、炉や大型の鍛冶道具の類いが見当たらない事を考察すれば、ここでは採寸や細かな手直しをする程度なのだろうと推測できる。

 つまり、ここに事務用品の全てが在るわけだ。

「PCも壊されているし、帳面は当然焼かれている。・・・・・・全部駄目じゃないか、あぁクソ!本当に忌々しいな」

 地団駄を踏むとはまさしく今のような状態を言うのかもしれない。

「やれやれ、らしくもなく熱くなりおって」

 右肩に顕現したユウダチが嗤った。

 向かっ腹が立って睨み付けると、ユウダチはおどけた様子で両手を左右に広げ、そして僕の目を睨むと鋭く言った。

「落ち着けと言うたのじゃ。ここがドワーフの巣穴じゃという事実を忘れたのか」

「あ」

 関係諸団体から抗議やお叱りを受けそうだが、黄金や光り物(特に金属)を偏愛するドワーフは守銭奴が多い。

 偏見であることを承知で断言するが、守銭奴なる輩は他人を信用しない。保険の為にいつだってどこかに用心の為の裏ワザが隠されているのが常だ。

 金属製のカウンターを跳び越え、腰を屈め気味にして工房内を見回してみると・・・・・・

「ああ、ここか」

 金属カウンターの裏側に、薄い黄色に発光する小さな突起が存在していた。

 それを押した。

 反応がない。

「・・・・・・本人以外は反応しない?」

 となればーー

 遺体の周囲を赤く濡らす液体に指先を浸した。

「ユウダチ、加工を頼む」

「おやすいご用じゃ」

 仄かな緑色に輝く指先で突起を押すと、ちょうど僕が腰を屈める高さに光線が差し込み、タッチ式の簡易パネルが形成された。

「「ビンゴ」」


 幸いにもというべきか、本人認定済みなのでパスワードの入力は要求されなかった。

 光学式の帳簿をめくると、それは隠し納品書だった。

 最初のページ、つまり最新の依頼は五月九日で受取日は本日十九日になっている。

「依頼内容は、可動式柔魔術繊維体と重化オリハルコンを組み合わせた爪を有する近接戦用シャーマンの作製。用いられる呪核は結城で回収された錬成冥呪核。出力は良好で人造された数打ち品を圧倒する性能を確認。発注者はドクトルSで、受け取り予定者はミヒャエル・キー、十九歳女性ーー」

「ミヒャエル・キーだと? その殺人鬼なら六年前にシナガワ署の機動部隊に襲撃されて駆除されたはずだが」

「・・・・・・聞いていたんですか、部長」

「インカムを入れっぱなしのお前が悪い」

「・・・・・・・・・・・・」

 否定はできないが、隠匿された回線を盗聴されてしまえば僕に打つ手は存在しないのも事実であり、僕は気にするのを辞めた。

「で、そのミヒャエル・キーって何者ですか?」

「移民系亜人種の第二世代で、共生派最大と目される教授会の戦闘員だった女性だ。六年前に今川市長が強権を発動して断行した共生派の一掃作戦ーートウキョウ殲滅戦の折、徹底的に抗戦した戦闘部隊『ブラック・レイン』所属のシュバリエで、ブレイドクロウの異名を持つエースだったが、赤備えの支援を受けたシナガワ署の機動部隊に強襲されて駆除されている。・・・・・・公式の記録上はな」

「不死だったとか、とかはなしですかね?」

 特性を活かして、殺された後でこっそり起き上がるとか・・・・・・

「鞍馬、駆除の意味をもう一度思い出してみろ」

「そうでしたね」

 駆除対象は遺体が残らない。

 厳密に検死された後、速やかに灰も残さず焼却処分されるからだ。

 つまり、ミヒャエルを名乗る人物は別人だ。

 が、疑問はある。

(何の為にミヒャエルを名乗った?)

 もう一度隠し帳簿を眺めてみた。

(依頼人はドクトルSーー)

 確証はないけど、何度も共生派から仕事を請け負った鍛冶職人の仕事だ。やはり共生派の幹部からなされた依頼と考えた方が自然だ。しかし、共生派の幹部が嘗てのエースを騙るマガイモノと契約なんてするものだろうか。まして今回は貴重なシャーマンを受領させている。

(なんか変だ)

 こうなってしまうと、ここから先へ思考が進んでいかない。

 悪い癖だとは思うけど見通しがつかなくなってしまうのだ。

 考え方を、或いは視点を変える必要に迫られた。

(そういえば、六年前の事件から赤備えが世の中に知られるようになったんだっけ)

 何が切っ掛けになるかは分からないし、僕はまだ訓練校にも通っていない頃の話なので、藤堂部長に確認してみる。

「六年前の殲滅戦で名を高めたのが赤備えでしたよね」

「ああ。やりすぎとの批判もかなりあったがな。実際にかなりの人数ーー無関係な人々すら殺して回った結果、赤備えは警察の一部から信頼と同時に強力なコネを得た」

「コネ?」

「拷問に無差別殺戮、世の明るみにでては不味い不祥事で追い出された札付き連中が、シナガワ署の機動部隊にいつのまにか再就職している。確か・・・・・・少し待てーー。ああ、やはりな。現任の第二部隊長は元赤備えで黒い噂が絶えなかったフレッド・マーカス警部補だ」

「・・・そういうことですか」

 線が繋がった。

 あくまで気がするだけの誤解かもしれないがーー

「そういうことだ」

 藤堂部長も同じ結論に達したのだ思う。

 無論、ミヒャエルを名乗った動機はいまだ不明だが、肝心なのはそこではない。

 壁に血文字を残すような人物は、間違いなく自己顕示欲が強いナルシストだ。

 言い換えれば、派手好きだ。

 では、派手なテロを行うにもっとも相応しい場所はどこだろうか。

 いったい誰に天誅を加えようというのか?

 答えは一つしか思い付かない。

「シナガワ署に向かいます」

「そうか・・・・・・、では私は撤退するとしよう。どうやら聖女様がお戻りのようなのでな」

「ユーリ、聞こえてる!?」

 慌てた様子のスカリーシェリが大きな声を出した。

「うわっ、どうしたのさ?」

「えっと、それがね、あー、リュキウスさん!」

(ぶん投げたな)

 思わず苦笑が零れたが、少しだけホッとしたのも本当だ。

「代わりました、リュキウスです。先ほど最寄り署になるシナガワ署の通報致しましたが、連絡がつきませんでしたので別の署に通報したのですが、どうやらシナガワ署との連絡が数分前から途絶してる模様です」

 それが意味する所はなんだ?

 きっと今のシナガワ署は、地獄の釜の中に有る。

「手間を掛けさせてすまないが、夕立をシナガワ署の近くに降下するように教会側に手配してくれないか」

「うん、今言ってくるね」

「承知致しました」

 仲間たちの返事を耳にしながら、僕は血の臭いが色濃くのこる工房を後にした。

次話は8月18日の23時掲載を予定していますので、よろしくお付き合いくださいませ。

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