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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
薔薇の名前

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32/51

シナガワ鬼譚1

 ご機嫌のスカリーシェリを聖教会の本部、ゴコクジにあるトウキョウ大聖堂へ送り届けたのは、ミュスカルナ大司教が平時の門限に指定した午後五時を数分回った夕刻の入り口付近。

 このくらいのオーバーは許して欲しいなぁと、出迎えに来た怖い顔のシスターさんたちに愛想笑いをしていると、スカリーシェリが不意に表情を曇らせてこんなことを言った。

「ねぇ、ユーリはアンドロマリウスを覚えてる?」

「結城で討滅したLAWSだろ、そいつがどうかしたのかい?」

 尋ねると、スカリーシェリは難しい顔で首を傾げた。

「たった今、ヤツを感じた・・・・・・って言ったら?」

 怪談だろうかとも思ったが、スカリーシェリに冗談を言っている雰囲気はない。とすれば、ありえないで片をつけるのは危険に思えた。

「方角は?」

「海の方だから、・・・・・・あっち、シナガワかな。今もずーっと感じているんだけど、これって何?」

「ごめん、全然分からん」

「ユウリさま・・・・・・」

 駄目な方向で即答した僕を、リュキウスが苦笑気味に咎める。

 スカリーシェリも頼りになるのは彼女の方だと悟ったのか、

「リュキウスさんは分かる?」

 生真面目な表情で尋ねた。

 質問されたリュキウスは少し考え込む仕草を見せると、

「わたくしはお二人のようにLAWSとの戦闘経験はございませんので、あくまでも推論になりますが」

 と前置きして、頤に折り曲げた指先を添え、そして答えた。

「そのアンドロマリウスなるLAWSの残骸を利用した呪術師ーーシャーマンが作成された可能性を考慮するべきかと」

「シャーマン?」

「それがあったか」

「はい、おそらくですが、この可能性が一番高いと思われます」

「??」

 疑問顔のスカリーシェリに説明する。

「えーと、共生派が使うバトルドレスの、・・・・・・亜流って言えばいいのかな。通常、バトルドレスに用いられる駆動源いわゆる冥呪核っていうのは、『パンドラの涙』直後に暴れ回った災害クラスと認知された幻獣種の魂核を厳重に管理し、徹底した封印と魔術処理でニギミタマ化ーー呪いの要素を全部取っ払った状態にしないと、危なくて使用が許可されない事になっているんだけど・・・・・・」

「共生派はそのような事情を考慮しませんから」

 と、僕の後を受け継ぐようにリュキウスが付け加えると、スカリーシェリは眉根をうむむっとしかめた。

「ちょっと待ってよ、それって、共生派にバトルドレスの核・・・・・・えっと、冥呪核っていうのが横流しされているってことなの?」

「少し前まではね。けど、今は管理がきついからそれはないよ」

「でもさ、シャーマンっていうバトルドレスは存在するんでしょ」

 ええ、とリュキウスが頷いた。

「失った幻獣種の核の代わりに共生派が目を付けたのが、・・・・・・侵略者、街の外に蔓延る魔物たちです。もっとも下級魔を何体集めてもバトルドレスは動きません。最低でも上級魔クラス、望むべくは領主として知られるLAWSの魂核に連なっていた外殻を用いると聞いています」

 もちろん、それを使っても巨大な幻獣種の魂核には到底及ばないが、そこを補うために共生派は一切の加工をせずに侵略者の魂核を使用する。

 アラミタマと呼ばれる状態がそれで、普通に使えば暴走するし精神も汚染される。最悪、奴らに身体を乗っ取られてしまう可能性も低くはない。

 が、その状態ーー身体を乗っ取られる所まで領主クラスと一体化出来れば、はっきり言ってその能力は人間種を圧倒する。

 そして、スカリーシェリがアンドロマリウスを感じた事実を考察すれば、一体化が進んでいると見た方が無難に思えた。

「そんな加工をやれる甲冑工房があるとしたら、ツクダジマの工房街か、オオイの地下工房あたりか」

 どちらもドワーフやエルフが経営する強化甲冑工房で有名なエリアだ。

「その二択であればオオイかと。護衛騎士隊公安部の調査では、オオイに共生派シンパと見られる工房が幾つかあると報告されておりますので」

 そっか、と頷き、そして決断した。

「リュキウス、アークナイト特権で君の市中武装を許可する。このままスカリーシェリの護衛に就いてくれ」

「承知致しました」

 ユウリさまは? とリュキウスが視線だけで尋ねてきた。

「僕は斥候だぜ、調査活動はお手の物だよ」

 綺麗に纏まったな、と自画自賛。けれど世の中はそんなに甘くはなかった。

 スカリーシェリが不思議そうに小首を傾げたのである。

「あれ、戦闘になったらどうするの?」

「うっ」

 情けなく絶句した僕を救ったのはーー

「スカリーシェリどの、その心配は不要です。こと戦闘相手が共生派である限りにおいて、ユウリさまが遅れを取る可能性は万に一つもございません」

 物静かな口調に確信を滲ませたリュキウスだった。

 パチパチと驚いた様子で瞼をしばたかせたスカリーシェリは、僕とリュキウスを交互に見比べると、やがて平坦な声で「そうなんだ」と呟いて踵を返してしまった。

「じゃ、ボクはリュキウスさんのお泊まりの手続きをしてくるから」

 その背中が、何故か寂しそうに感じてしまった僕は、

「スカリーシェリ!」

 彼女を呼び止めていた。

「え、どうしたの。ユーリ?」

「えっと・・・・・・そうだ。こいつを渡しておくから、サポートを頼む」

 インカムを放ると、スカリーシェリの顔に笑顔が広がった。

「ふっふ〜ん、任せなさい!」

シナガワ編のスタートにございます。

次は8月14日の14時掲載を予定していますが、次話辺りから幽理の抱える暗闇がちらほら顔を覗かせ始めますのでお楽しみに。

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