新しい日常
ユウダチが口コミを検索して発見したエ・カリーノというショップは、ビルの一階を改装したシックで大人びた雰囲気の人気店だった。
「いらっしゃませ」
「お邪魔します」
二十歳くらいの人当たりが柔らかな店員さんに会釈をし、店内を隈無く探る。
(爆発物、霊障術、魔術呪術反応もなし。オールクリアじゃ)
(店員におかしな素振りも見られないな)
ホッと息を吐いたその時だ。
「はなななっ!!」
なんということでしょう、僕の脳が今まで障害と見なしていなかったソレを認識してしまったのです。
店の奥に飾られていたのは、セットものから単品に至るまで、色鮮やかだったりシックだったりと多種多様な布地のオンパレード。
それは、大小様々な下着の数々でございました。
・・・・・・当然ですが、全部女性ものです。
(なんじゃ、うぶな反応をしおってからに。女物の下着なんぞで今更驚くものかの?)
ユウダチが軽く言う。しかし、大人びた幾分セクシーな黒いランジェリーに釘付けになっていた僕は、それを身に着けた誰かの姿を想像して過呼吸状態。
「へ〜、ユーってば年上系が好きなんだ」
「うぉえ、いや、いやいやいや、そ〜んなんじゃないですよぉ?」
咄嗟にランジェリーから視線を引き剥がすも、僕の返事は挙動不審でしどろもどろだ。
そんな僕の様子をどう取ったのか、フードを下ろした素顔のスカリーシェリの笑顔は愉しげだ。
「ボクにはちょっと大人すぎる気もするけど、ユーリが選んでくれるならーー」
「ちょっとまったぁ!」
「ふぇ!」
可笑しそうな店員さんの視線も、スカリーシェリの笑顔も置き去りにして顔を横に振った。ブンブン振った。壊れた勢いで振った。
だって、一緒に見て回ればランジェリーコーナーに辿り着いてしまうわけで、そうなったら僕はもう・・・・・・。
(いけない、絶対に。断固阻止すべし!)
絶体絶命の窮地を脱すべく光よりも速く思考する。
(見えた!)
突破口見参!
「スカリーシェリくん。外の警備は僕に任せておきたまえ。うん、君はゆっくりと店内を見てくるといい、じゃ!」
誰が聞いても納得の、ウンそれなら仕方ないよなって完璧な説明である。
「ユーリ・・・・・・?」
何かを言い掛けたスカリーシェリに背を向けて、僕は店の外へ逃げ出した。
「・・・・・・ぁ、ユーリ」
泣き出しそうな顔をしたスカリーシェリに、店員は気取った仕草で一礼すると軽やかに笑い掛けた。
「all is fair in lave and war。欲しいものがお有りでしたら、どうか当店をご利用ください。絶対なる勝利をお約束致します」
店の前に逃げ出してきたものの、はっきり言って居心地は最悪だった。
スカリーシェリは女性店員さんと話をしながら店の奥へ行ってしまったし、だからといって今更中に入る踏ん切りもつかない。
が、スカリーシェリが何を話しているのか、すっごく気になっていた。
(ユウダチーー)
(嫌じゃ。盗聴なんぞ絶対に願い下げじゃもん)
肩口にデコピンを放ちたくなる衝動をぐっと抑え、紳士的かつ冷静極まりない僕は理性的な態度で論理的な説得を試みる。
(誤解はやめろ。これは護衛として断固必要な偵察行為だ、協力しろ)
(ふん。自分すら騙せぬ言い訳なんぞするでないわ、みっともない。・・・・・・ほれ、案ぜずともお姫様がご帰還じゃぞ)
と、顔をあげると。
「これは戦争ですよ、勝って奪い取るのです。じゃぁ、グッラック」
物騒な店員に見送られて姿を見せたのは、
「・・・・・・・・・・・・(ぽか〜ん)」
左肩を出した青いニットとチャコールグレイのアンクルパンツ、そこにブーツを合わせ、長い銀髪を後ろに纏めて一条に垂らしたスカリーシェリだった。
「か、かわいい」
思わず本音がダダ漏れた。
スカリーシェリの表情から硬さが消えて、花が開くってこういうことなんだって分かるくらい、華やかな笑みが広がる。
「ほんとに。本気でそう思っている?」
「あ、えっと。うん。とてもよく似合っていると思いますよ?」
「どうして疑問系なの? あー、目を逸らした!」
「いや、ほんとに、可愛すぎると思います。・・・・・・っうか、こっち見ないでくれよ、うわぁ〜」
「あー、ユーリが照れてる。えへへ、可愛い〜」
何度目を逸らしても目の前に回り込んでくる鬱陶しさは、不思議の国のチシャ猫レベル。でも、そのウザさのお陰で、目の前にいる美少女ーーもともとスカリーシェリは可愛いし、じゃなくて、僕はスカリーシェリの心根に共感しているだけだから、容姿は全く気にしないけれども・・・・・・
(けど、これもスカリーシェリなんだよな)
スカリーシェリの新しい顔を知って、胸が高鳴ったのも本当だった。
「ふふん。さぁ、もっとも〜っと見惚れるのです!」
ただまぁ、有頂天聖女をそのまま褒めるのは癪に障る、これもまた本心で。
「あんま遊んでいると、ありがたみが薄れてメッキが剥げるぞ」
「あ、元に戻っちゃった」
(こ、こいつ)
シュバリエの戦いに負けはない。
つまらないです!と気炎を吐いたスカリーシェリの手を奇襲同然に取ると、
「きゃっ」
驚いた顔を見ないようにして走り出した。
「お昼を食べに行こう。何か食べたいものはあるかい?」
「ラーメン!一度でいいから外で食べてみたかったんだ!」
と、スカリーシェリが走り出す。
隣に追い付いた笑顔が眩しくて、僕は嬉しい反面、すごく照れ臭かった。
次は8月10日(本日)の23時ごろの掲載を予定しています。連休中日の夜分になりますが、お時間有りましたら宜しくお付き合いくださいませ。




