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幕間
第二章始まりでございます。
よろしくお付き合いくださいませ。
「シャラララ、シャラララ、シャラララァ〜ラ・・・・・・、ん、あれ?」
フェンスに寄り掛かっていた若い女性が夢から覚めた。
黄色い瞳が不思議そうに周囲を見回すと、どうやらそこは緊急患者が救急搬送される屋上のヘリポートのようだ。
「私はいったい?」
自分はいったいいつの間にここに上がってきたのだろう、傾げた首が自身の疑問を表している。
ギィィィと扉が軋んだ。
灰色の大きなパーカーを着込んだ女性が振り返ると、曇り空の下、風の強いヘリポートに現れたのは、がっしりとした猪の首の男性だ。
「こんなところにいたのか、先生や看護士さんたちに退院の挨拶はすませたのかよ?」
険しい見た目に反して、男性の口調は穏やかで優しげだ。
「あ、ごめんなさい、おじさま。今行ってきますね」
「そうかい、なら挨拶が済んだら正面口まで降りてきてくれや。俺は荷物を車に運んでおくからよ」
「ありがとうございます、おじさま」
「おう」
踵を返した男の靴跡は、インクでも踏んだのか、幽かに濡れた赤色だった。