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カワリモノ  作者: 老木 勝秋
シュバリエ
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トウキョウ風景

 AI制御された無人タクシーに乗り、スカリーシェリが僕を連れて向かったのは、不忍池に程近い総合病院だった。

「ふふん、まぁ見ていたまえ、難事件を解決して一躍時のヒトになっちゃうんだから」

「難事件を解決って、レギオンは探偵事務所じゃないぞ」

「いいからいいからーー」

 タクシーから降りたスカリーシェリがご機嫌に笑う。

 一抹の不安を覚えつつ、周囲を圧する白亜の巨大建造物群を見上げた。

(大学付属病院かーー)


 一歩院内に足を踏み入れた途端、耳鳴りを感じた。

(ユウダチ、これは?)

(・・・・・・何かの結界じゃな。だが案ずるな、大まかに調べた範囲では人に外を及ぼす物ではない)

 そしてユウダチは(しかしのう)と言い添えた。

(何とも鼻につく連中よの、あれでは素人ではないか)

 屋内だというのにサングラスを掛け、スーツの胸元を不自然に膨らませた護衛官と、外来患者の中に混じった護衛たちが寄越す露骨で粘着質の視線にユウダチが毒づく。

 すると、ユウダチの声が聞こえているわけではないだろうに、スカリーシェリがうんざりした様子で言った。

「ボクが彼らに護られたくないって気持ち、少しは分かってもらえたかな」

「ああ、なるほどなって思ったよ」

 受付で身分証を示したスカリーシェリに案内役が付いた。

 見るからに警察の機動部隊出身だと分かる、スーツの似合わない厳つい護衛官がそれだ。無口な彼に先導されていくつかのチェックポイントを通りすぎ、僕らの他には誰もないエレベータホールに辿り着いた。

「自分の案内はここまです」

「ご苦労」

 スカリーシェリの慣れた態度と、紙の顔色で目礼した僕らよりも十は年上の護衛官。

 なにかが妙だ。

(どうしたのじゃ、幽理?)

(いや、別に何でもないよ)

 モヤモヤを押し隠し、エレベーターの中に滑り込む。

 黙視で内部を確認し、ユウダチのセンサー類で異変を探った。

(霊的な結界はあるが内部シールドの類いじゃな、安心してくれ)

「入っても平気?」

 スカリーシェリが尋ねてきた。

「ああ、入ってくれ」

「うん」

 緊張した大男を残し、エレベーターの扉は音も音なくしまった。


 内部コントロールは完璧で上昇振動もゼロ。木目の落ちついた内装と、一見してそれと分かるタッチパネルの操作コンソールは高級品、ドアー上部に表示される階層は十三だけ。明確に他とは作りが違うエレベーターは特権階級御用達のニオイがした。

 上昇を続けるエレベータの中で、スカリーシェイが前を向いたまま言った。

「二週間前、中央区を視察中だった市長が倒れたって話は聞いた?」

「初耳だ」

 こうは答えたが、スカリーシェリの一言で僕は状況を完全に理解していた。

 市長今川元道は独裁者だ。

 独裁の善悪は別にして、機能しない名ばかりの議会を切り回し、街を率いて人物であり、この街にとって代えの利かない意志決定者なのだ。

 諸々をすっ飛ばして分かりやすく状況を把握すると、市長不在のトウキョウは脳死状態に等しい。非常事態が起きれば市の根幹が揺らいでしまう危うい状態だといえよう。

「医師による診断結果は霊障による衰弱。緊急演算を要求された『高天ヶ原』が解決策としてアンドロマリウス打倒の神託を下されたってわけ」

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