金のウンコをするウサギ
畑に規則正しく並ぶ作物と作物の間、そこに1匹の茶色いウサギがいた。
ムシャムシャムシャ ムシャムシャムシャ
(おいしい)
畑に生えている作物の葉っぱは農家が育てているだけあってそれなりに美味しい。なんといっても食べるのが、口を動かすのが止められない。
ムシャムシャムシャ ムシャ・・・
(あ、出そう)
ポロ、ポロポロポロ
(ふ~、すっきりした)
食べて、寝て、ウンコする。
それが1羽で放浪を続けるウサギの日常。
いつまでもこんな時が続けばいいのに・・・。
とはいっても、世の中そう上手くはいかない。
ピーン(耳立ち)
周囲の異変に自慢のウサ耳が立ち上がる。
こちらに向ってくる足音の方を見てみれば1人の農夫が鎌を手に近づいてくる。
「こら!畑を食い荒らしおって!」
(虫には好き放題食べさせてるくせにー)
ピュー(ダッシュ!)
反論したところで言葉の通じない相手なのでその場からすぐに逃げるしか方法がない。
しかし畑の端までやってきて振り返ると・・・。
「おお、これは、なんてことだ」
農夫は先ほどまで自分がいたところで足を止め、豆のような大きさの黄金色に輝く物体を拾い集めている。
そう、それは先ほど作物を美味しくいただきながら出したウンコ。
(ここにもいた。他兎のウンコを拾い集めて喜ぶ変態が)
一体何をもって他兎のウンコを嬉々として拾い集めているのかは知らないが、とにかく逃げるなら今である。こうしてまたいつも通りの放浪の続きが始まる。
・・・・・
川の対岸に渡れないかと川岸を下っていくと、ついに木でできた橋を見つけた。
どうやら板を渡しただけの人によって作られた橋であるが、これでようやく対岸に渡ることができる。
そして安心したついでに橋の上で休憩をしていると少し催してきた。
さすがに場所が場所なので橋のど真ん中でするのも気が引け、橋の端っこから少しだけお尻を出して川へと落とす。
ちゃぽん ちゃぽん
一粒ずつ川の中へと落ちていくウンコは音を立てて川底へと沈んでいく。
(ふ~、出きった)
こうしてすっきりするとまた一息つこうとするが、そこへ何人もの足音がこちらへと近づいてきた。
とにかくその場から逃げ出し川下の橋が見える川岸へと移動するが、どうせならそのまま音のする方向、行きたかった方に駆け抜けてしまえば良かった。
そうすればこんなところで足止めされずに済んだし今頃は対岸でのんびり放浪を続けていたはずだったと思うが、すでに後の祭りである。
どうやらこちらへと向かってきていたのはすぐそこにある村だか町だかの子供たちのようであり、彼らにとって橋は遊び場らしく彼らがいなくなるまで時間がかかりそうだ。
そしてそのうち一人の男児が服を脱ぎだし、橋の端に立つ。
(あ、そこは)
ドボーン
(あーあ、ウンコした場所に飛び込んじゃって、ご愁傷様)
としか思えなかったが、飛び込んだ男児が橋のすぐ下で輝く黄金色の物体に気が付くのに時間はかからなかった。
こうなると、あとは住民総出の川ざらいである。
他兎のウンコを探し求めて男も女も子供も大人も川の中を探し回る。
だがこうなってしまえば橋を渡るウサギを気にする者ものなど誰一人としていない。川にかかる橋の中央を全速力で駆け抜け、川を渡った先での放浪の旅がまた続く。
・・・・・
貴族の館にある庭ほど静かで安全な場所もない。緑にあふれて食べ物がいっぱいで広くて人からの隠れ場所も多い。難点といえば好奇心旺盛な貴族の子供に見つかると追い回されるぐらいである。
(ふ~、すっきりした~)
規則正しく花が並んだ場所の下、そこに作った巣穴の中で用事を済ませて地上に出るといつも見つけ次第追い回してくる貴族の子供が館の玄関で普段とは違って落ち着いた様子で両親を見送っていた。
どうせパーティーだか言うのに出かけるのであろうが、その恰好はあまりにも奇怪だ。
金のネックレスに金の指輪と金のブレスレット。首に巻き付けたり腕や指にくっつけたりと中々に変わった趣味である。
(一体誰のから作ったのであろう?)
そんな疑問が浮かんでくる。
(もしかしたらこの世でまともなのは自分1羽だけなのかもしれない)
そんなことを考えていると、いつも追い回してくる貴族の子供が玄関の前からもう自分の目の前にいる。
「見つけた!」
ピュー(ダッシュ!)
こうして珍妙な両親を見送った貴族の子供から逃げ回り、最終的にいつものごとく逃げ切ってやるのである。
・・・そして巣穴の上の花々が枯れるころ、なんかこの貴族の家も枯れ始めた。
シャッキンだのなんだのと聞こえるが、以前に比べて庭も荒れてきている。
かつてはあれだけ追い回してきた貴族の子供もそれどころではないようであり、今となっては前よりも快適に庭を行き来できる。
だが常日頃の縁がそうさせるのか、全てをやってくれたのはこの子供であった。
ズボッ!
花の植わっている場所、そこを花壇というらしいが何をしたかったのか分からないがそこに足を踏み入れた貴族の子供は綺麗にこちらの家である巣穴を踏み抜いてくれた。
踏み抜かれた場所はちょうど巣穴のトイレである。
「これは・・・父上ぇー、母上ぇー」
他兎が今まで隠していたウンコを見つけて親を呼んでまでそれを見せびらかすとはなかなか失礼なものだ。
そしてやってきた親たちも喜びの声を上げ素手で穴を掘っていく。今の気持ちを言うならば・・・。
(巣穴壊されて、ウンコ取られた~)
といったところである。
とにかくこうなってしまうと、また旅に出なくてはならない。こうしていつも通りに放浪の旅がまたまた続く。