問一、君と僕を表す関係はなんでしょう。
友人からのお題で久しぶりの投稿です。
優しい人が、きっとこのようで一番怖い。
そんな優しい人への告白があればいい。
「あなたと一緒にいるなんて、まっぴらごめんよ。最悪だわ。」
―――彼女は、僕の言葉をそう言って投げ捨てた。
「私、誰かと一緒にいるなんて無理。人間なんて利己的で、嫌い。」
彼女は眉間に深く皺を寄せながら、目の前に佇む僕に鋭く言い放つ。
僕はいつものように苦笑しながら、彼女の優しい言葉に首を振った。
「そんなことを言わなくてもいいと思うなあ。」
「正直言って誰かと合わせるのって性に合わない。あっちを立てればこっちを立たずって言葉があるけど、本当にそう。人間って、どうして自分自身が特別で優先されるべきだなんて思うの? 唾棄すべき自己愛よね。」
「まあまあ、この世で自分は自分だけだからね。自分を愛してなんぼって感じだよ。」
「じゃあ、自分が大事な人が二人いたとして、どちらも大事な人がいるのには変わらないのに、争うの? どうかしているわ。」
「どちらも宝物に変わらないからね。」
「そうよ、感情に優劣も時間も深さも関係ない。ましてや自分しか知覚できないのだから、他者のそれと比較するなんて愚の骨頂よ。」
「でもその理論で行くと、僕が君を好きだという感情を、君が否定するのは愚の骨頂だよ?」
「あなたが私をどう思おうとあなたの自由よ。好きにすればいいわ。でも、私はそれを知ったうえであなたと一緒にはなれないって言っているの。」
彼女はまるで定型文かのようにいつもと同じように僕の言葉を切り捨てて、叩きつけて、踏み躙った。
僕はそれが見ていられなくて、頭を振った。
彼女に嫌われる、気持ち悪がられる、怖がられる、蔑まれると分かっていても。
彼女を怒らせる、苦しませる、苛む、絶望させる、悲しませると分かっていても。
「ほら、涙を拭きなよ。君は泣き虫だな。」
彼女は言葉を吐き捨てながら、自分自身を切り刻みながら、必死に僕を突き放そうとする。
不器用な彼女は上手な離れ方が分からないのだろう。
もしくは、自分が離れることで傷つく僕を想像して、離れることもできないのだろうか。
そのどちらも正しくて、きっと間違っている。
彼女自身にもきっとわからないのだろう。
彼女は瞳に溜めた涙に絶望しながら、顔を覆って俯いた。
それでも彼女自身の足でしっかり立ちながら、まるで自分が極悪人かのように懺悔するのだ。懺悔するように、僕を断罪するのだ。
「あなたが優しいのが・・・怖い」
振り絞った声に、彼女の肩が震えた。
僕はそれを、ただ見ていることしかできなかった。
「あなたが私に優しくしてくれるのが・・・怖くてたまらない」
彼女は悔しさを押し込めるように唇を嚙み締めた。
僕はそれを、ただ見ていることしかできなかった。
「分かり合えないのが・・・くやしい・・・」
彼女はそれがこの世で最も罪深いことだと言うかのように、顔を覆う手に力を籠め、爪を立てた。
僕はそれを、ただ見ていることしかできなかった。
「あなたが私でないことが・・・せつない・・・」
彼女はそれが恥ずべき思想であるかのように、前髪を握りしめた。
僕はそれを、ただ見ていることしかできなかった。
彼女の持てる総べての言葉を使って僕を拒絶する。
そうしてしばらくした後、彼女は顔を上げた。
夜の帳が上がるようだ。
厚く閉ざされた舞台のカーテンが闖入者によって翻るように、僕の視界の中で彼女が顔を上げた。
泣き腫らした真っ赤な瞳は、しかし悲しみと絶望の中で、彼女は強すぎる光に身を焦がしながらも、僕をまっすぐに見つめた。
背筋が凍り、血が沸騰するようだった。
「・・・出会いたくなかった。」
それは彼女にとっては告解だろうか。
「・・・かなしい・・・」
でも僕にとっては
「二人は・・・かなしい・・・」
彼女のそれは
「あなたに出会ったことが・・・なによりさみしい」
彼女の、誰にも渡せない、
深い深い情愛に思えて、
しかたがないのだ。
私は、人よりずっと、傷付きやすい。涙を零すたび、思い知らされることだった。
本を読むたび、音楽を聴くたび、テレビを見るたび、誰かの話を聞くたび、誰かの傷を目の当たりにするたび、それが我がことのように悲しくて、そんな拷問な私が嫌いだった。
弱い私が、とても嫌いだった。
いい子になることも、八方美人であることも、努力することも、貶されることも、大嫌い。
傷付いたのは自分じゃないのに傷付いたふりして、反吐が出る。相手を可哀想とか思ってるんだ、気色悪い。
―――嗚呼、ああ、あああああああああああああ
―――私はなんて、醜い人間なんだろう。
「これは独り言なんだけどさ。」
私の隣に立って、彼は言うのだ。
「僕はね、君が何より優しいのが、かなしい。」
「・・・え」
その言葉は、この世に存在しない言葉。
「君のすべてを理解できないけれど、君がどれだけ誰かのために心を砕いているかなんて、君の周りを見ていればわかる。」
その言葉は、誰かの為に紡がれた言葉。
「君が思うほど、君はひどい奴じゃない。皆が思うより、君が清廉じゃないように。」
天上の言葉は、けれど私に向けられていた。
「君が優しさのすべてを誰かに向けるなら、僕は君を大切にしたい。だから」
私の魂が、歓喜に震えた。
私の心が、安堵に滲んだ。
私の体が・・・恐怖で竦んだ。
―――あなたに、あいたくなかった
出会うことはないと思っていたから、私は自分を削るように生きてきた。
他者に優しくするたびに、優しくしようと、慈しもうと、大切にしようとするたびに、私の心が削れていくようだった。
自分の優しさは、献身的な情愛は、自分という存在は、確かに誰かを救いながら、きっと無意味なものなのだ。
それでいいの。
私の愛した人たち。私より素敵な人たち。私の周りには、とても素敵な人がたくさんいるの。だから、他の人と幸せになって。
私は、他者には理解されない。
二人以上になるのがかなしい。別れは必ず来るから。
出会うのがさみしい。あなたの心の痛みが響いて、あなたを失う悲しさを知らずに済んだのに。
あなたが私ではないことがくるしい。私があなたを想いすぎて、まるで私の一部のように感じて、私と違う考えを持つことに苛立ちを抱える愚かさなんて知らなかったのに。
あなたが、好きなのに。
あなたのその優しさこそを、私が大切にしたいのに。
私自身が、あなたを傷付けてしまいそうで。
あなたの優しさが、私を二度と立ち上がれないほど打ちのめしてきそうで。
―――あなたに、愛たくなかった
「あいしています・・・きっと、こういう時に、いうんでしょう」
ああ・・・愛しい
【解答、ただの人間同士。でも、あいしています】