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クラス鑑定の儀



「アメリア・フローレンス公爵令嬢、前に!」


「はい。ですわ」


 今日は(わたくし)ことアメリアの加護の儀の日ですの。

 加護とはクラスとも呼ばれています。私たち人間に、神々が与えてくれる特別な力の事ですわ。


 加護には剣士や魔法使いなどいろいろあるのですけど……私にふさわしい加護はもう決まってましてよ。


「いよいよだなアメリア。きっとお前なら【聖女】のクラスを授かるはず。心して行ってくるのだ」


 隣で言うのはヴァルフリート・フォン・フローレンス。

 髭がダンディーな私のお父様ですわ。


 まったくお父様は心配性なのだから……私以外に聖女にふさわしい女性などいないのだから心配する理由がありませんのに。困ったものですわね。


「おほほ……まあ凡百のご婦人方はともかく、私に限っては失敗などございません事よ。おーほっほっほっほっほ!!」


 私は貴婦人らしく、大声をあげて笑うのでした。

 周りの下級貴族の皆様も……私を注目してみておりますの。


「あれがフローレンス家のご令嬢……なんて美しいのかしら」

「あの方こそ聖女そのものだ! ああ……なんとかお近づきになれないものか」


 ああ……才能が有りすぎるのも困ったものですわよね。

 下々の羨望の目がまぶしいですわ。


 現在この王国は隣接する魔王領と緊張状態にありますの。

 【聖女】は対魔王の絶対的な切り札。私こそが聖女のクラスを賜り、あの下等な羽虫どもを蹴散らす唯一の存在となるのです。


「いよいよだね。アメリア。この日をどんなに待ち望んだか」


 はにかんだ笑顔の金髪のイケメンが現れました。

 彼はライアス王太子。この国の王子で、私の婚約者でもありますの。


「きゃあっライアス王子よっ」

「素敵ぃ。痺れるわあ!」


 あらあら……下々の方のはしたないこと。

 まあこの国一番の美男子であるライアス王子をみれば、それも仕方ないのかもしれませんわね。


「さて、決まりきった事ですがさっさと聖女になってしまおうかしら。おほほ……」


 私は神官の待つ祭壇の前に歩み出ました。

 祭壇には大きな水晶玉がひとつ。私はそれに手を伸ばします。


「おお、大いなる神よ! 汝の子らに祝福を与えたまえ!!」


 神官が朗々と祝詞を読み上げます。

 さあ、神々の皆さん。わかってますこと?


 聖女ですよ聖女。たしか水晶がぴかっと光ってそれで……


 …………。


 あら? おかしいですわねぇ。故障かしら?


 どういうことなのかしら。

 水晶はピクリとも光を放ちません。どうなっているの?


 たしかすごい光が出て、それで聖女のクラスが与えられるハズなのに。


「ちょっと神官! 壊れてますのよ、これ」


「い、いえ。アメリア嬢。水晶は正常です。し、しかしこれは……」


 神官はどうしたのでしょう。

 彼はあぶら汗をかきながら、顔を青くしてました。


「どうした神官。さっさと結果を言わないか!」


 ライアス王子の声が響きます。


「は、はい。恐れながら申し上げます! アメリア嬢のクラスは……【シングルマザー】です!!」


 神官はしどろもどろに言いました。

 なんですの? シングルマザー? 聞いたことありませんわ。


 というか、なんで聖女じゃありませんの!

 むかぁ……どうなってますのよ!


「な、なんですのシングルマザーって。聖女と言い間違えたのですわよね?」


「いえ。間違いありません! アメリア嬢はシングルマザーです!!」


 ざわざわざわ…………。

 王宮が騒然となりました。いったいなにが起こっているの?


「なんなのかしらシングルマザーって」

「もしかしてアメリア様って……」


 もう。なんなんですの、これは……。


「ふむ。話は聞かせてもらいましたぞ」


「あ、あなたは大臣!?」


 あらわれたのはひげ面の身長の低い男。

 ああ、ええっと彼はたしかこの国の大臣だったかしら。


 外野の発言で私は思い出しました。

 そうそう。そんな人間も、たしかいましたわね。


「大臣、説明してくれ! シングルマザーとはなんなのだ!? なぜ聖女ではないのだ」


 ライアス王子が大声を上げます。

 やれやれ、取り乱してどうしたのかしら。いずれ私の伴侶になるのだから少しは落ち着きをもって欲しいのだけれど……


「ふむ。ライアス王子、落ち着いて聞いて下され。古代の文献によればシングルマザーとは、男性と結婚して子供をもうけた後に離婚し、独り身となった女性を指す言葉らしいのですじゃ」


 それを聞いたライアス王子は……どうしたんでしょう。

 急に顔を真っ赤にして私に詰め寄ってきたのです。


「アメリア……貴様ぁ!! 僕という婚約者がありながら、まさか他の男と不貞を働いたのか!?」


「は、はあ。なんのことだか? 私にはさっぱりでしてよ」


 その時でした……

 祭壇の水晶がひときわ大きな光を放ちます。


「おお……これは!!」

「きゃあ! す、すごい……!!」


 祭壇の上で加護の儀を受ける女性の姿。

 彼女は……たしか……


「おおおおお!! す、すごい!! エミリィ・クロフォード侯爵令嬢。そなたのクラスは【聖女】。あなたこそこの国の救世主となるお方です!!」


「あらあらぁ? わたくしがぁ? はあ。やっぱりそうだったんですわねえ。ゴメンなさいね、アメリアお義姉(ねえ)さま? おーほっほっほっほっほ!!」


「ぐぬぬ……エミリィ。あなた……!」


 エミリィは壇上から降りるとニタニタした笑みを浮かべながら近寄って来ました。

 なんですのこの子。急に調子に乗って、むかつきますわぁ!


「キヒヒ……お義姉さまぁ。いまどんな気持ちですの? 王子を差し置いて他の男と寝たのはそんなによかったかしら? さすがお義姉さまはあばずれでいらっしゃいますのね? エミリィはびっくりしましたわ」


「エミリィ……! でっちあげですの。私は不貞などしてなくってよ。いったいなんの証拠があってこんな無礼を……」


「お、おい。アメリア……その赤子はなんだ!?」


「へ?」


 青ざめた王子の顔に、私が自分の胸元を見るとそこにはいつの間にか赤子がおりましたの。

 自分でも気づかぬうちに、その子を抱えていたようですわ。


「ばぁぶ。ま、ママ……」


「な、なんですのぉ! この子は!?」


 私は理解不能の現状に思わず声を上げました。


 ど、どうなってますのよこれは? この赤子はいったい……




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