ジョーカー
目の前に広がるのは夢よりも夢みたいな光景だった.
僕は確かに大きな木の中へと入っていったが,ここまでの広さなど内部に無かった.
それに気づくのは妖精二人と進んでいるときでも良かったが,あんな話をしている時に僕が気付けるわけもないことは君たちはよくわかっているだろう.
「ここからはジョーカーが案内してくれるよ.」
「あいつはここで働いているの,頼まれてもないのにね.」
ジョーカーとは,これは特に何一つとして他意はないことを先に言っておくが,僕の経験として碌な奴じゃないだろう.もちろんいいやつも知っているさ.君も考えてみるといい.それでも僕はこの名前の奴には碌な奴がいないと思うのさ.
妖精が入り口横にあるベルを鳴らすと,どこからともなく奴が現れたんだ.奴っていうのはジョーカーさ.
現れるときに風が吹いたね.その時にはコロンの匂いがしたんだ.
「これはどうも,珍しくお客さんですね.まさかこちらからくるとは,本当に珍しい.」
執事のような格好で,三日月みたいな目と口で笑ったままジョーカーは来たんだ.
君も思うだろうな.きっと碌な奴じゃないって.特にコロンの匂いはきつくて尚更そう思ったよ.
「ふふふ,あなたの想うことはなんとなくわかります.私を警戒している.けれど,どうでしょう.見なさい私の格好を.実に紳士的だ.きっとそこのお二人よりもお話は通じると自負しておりますよ.」
ある種儀式的な正しさに憑かれている奴ほど面倒な奴はいない,君もそう思うだろう?
「まぁ,なんにせよジョーカー!彼は帰りたいみたいだから,お嬢のところに早く案内してあげるといいよ.」
「おやまぁ,せっかくのお客さんは随分と足早のようで.では向かいましょうか.」
どうやら想像以上に話が拗れるわけではなさそうだ.これは割と早く帰れるかなと僕この時思ったんだ.
「ではこちらへ.」
ジョーカーが歩きだしと僕がそれについていく時,妖精の二人が僕に言ったことがある.
それを忘れずに言っておかないといけないな.実はこれはそういう話だ.
”もう一度言うよ?大切なものは大切にしないといけないの.
私たちは双子.そして互いに互いが大切.でもそれだけじゃいけない.
それだけじゃそれで完結してしまう.だからどちらかは他の何かをもっと大切にしないといけない.
そうすれば,また誰かが次の人へ,そうやって巡っていつか自分へつながる.
これはとてもとても難しいこと.でもこれが誰かが謳う無償の愛.
無償は何も無いわけじゃない,きっと風が吹くようにあなたに巡ってくるわ.
大切にするのはすごく大変.あなたはできる?私たちはできていた?
それは最後に分かるわ.何よりも最後に.
だから,大切なものは大切にしてね...”