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夢の中で  作者: オリンポス
1章 樹の洞穴
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僕は誰だろう?

君は誰だい?とは,なんて馬鹿げた質問だろうって君は思うだろう.

僕もそう思ったんだ.僕は僕だからね.

なら答えは簡単だろう?

君がそうするであろうみたいに僕は僕の名前をどんぐりに伝えたんだ.

そうすると,どんぐりはこういった


「それは本当に君なのかな?」


意味が分からなかったね.今の君もあの時の僕と全く同じ感情じゃないかな.

しかも僕はそれを何の比喩もなく得体のしれない奴から言われているんだ.

君より一層意味が分からなかったね.


恐らくこれは謎解きなんだと,僕はそう思ったんだ.つまりは何かひねらないといけないんだ.

謎解きというのはそういうものさ.もちろんヒントなんてありやしないだろう.ふざけた問題文だろう?

まぁそこはどれだけよくできた謎解きでも同じようなものさ.

ただ非常に残念なことに,僕は頭がよくなければ応用もきかない.

つまりは結構な時間,僕は悩んでいたんだ.

それにしびれを切らしたのか分からないがどんぐりはこう言ったんだ.


「君が君である証明はどうするんだい?」


「僕が生きている,これじゃ証拠になるかい?」


「とんだ見当違いだ.例えばそこを見たらいい.あれは何だい?」


そう言って,どんぐりがさしたのは切り株だった.

どんぐりに出会うときには無かったはずだったんだ.


「そう,切り株さ.君にとってはね.でも僕はあそこで座ってお弁当を食べる.だからあれは椅子だ.」


「そんなことを言い出せば,キリがないだろう.何が言いたいんだ.」


「それを僕から言うわけにはいかないだろう.」


随分と無駄な時間を過ごしている気がしたんだ.


「さぁ君は誰なんだい,早く教えてほしい.もっと時間がかかるなら,あの椅子に座ればいいさ.最も君からすればただの切り株だが.」


こんなときの人?の促しはとても気に入らないぐらいに腹が立つものだ.

あのどんぐりにとってあれが椅子なのは十分に承知したが,わざわざ切り株であることを言う必要がないと僕は思った.

だってそうだろう?つまり奴は嫌味が言いたいんだ.

自分が試している立場をいいことに,人を弄んでやがる.

どこだろうと何であろうと知性と言葉を持った生き物は結局は同じなんだと思ったね.


さらに時間が経って,僕は切り株に腰かけてずっと考えていた.

その間,どんぐりは顔?色一つ変えず森の向こうを見ていた.

正直もう帰りたかった.夢の中で待っているものがこんなだとは思いもしなかったさ.


さて,ずっと固い切り株に座っているものだから,僕のお尻は同じくらい固くなっていた.


「はぁ,この切り株,もう少し柔らかくなってもいいんじゃないか.」


「いやそれは椅子さ.」


反射的にどんぐりが答えたんだ.僕は少しムカついて


「いやこれは『キリカブ』だ.僕が決めた.」


そう僕が言ったとき,どんぐりは目を見開いた.


「そうか,これは『キリカブ』か.わかったよ,これはキリカブだ.」


そうかと思い,僕は再びどんぐりに名前を告げたんだ.すると,


「そうか,君は君なんだな.ふむ,安心した.胸のつっかえが取れたみたいだよ.」


どんぐりはその体が縮むほどクシャっと笑った.さらにどんぐりは続けた.


「さぁ中に入るといいよ.君は君を大事にする素晴らしい人だ.名前というのは元来そういうものさ.この中にいる住人も皆そうだよ.そしてアドバイスだ.」


そう言ってじっと僕の目を見つめた.


「物事は総じて悲観するよりも単純で,楽観するよりも複雑だ.よく覚えておくといい.」


最後に残したこの言葉は今でもよく覚えている.実際君にも似たような経験はあるだろう?

これはこれらの僕を予言するものでもあるから,よく覚えておいてほしい.


僕はただ促されるままに気の洞穴へと入っていった.

ほんの数歩,歩いて振り返るとその先はクレヨンの輪郭みたいにかすれていたんだ.

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