生垣のモグラ
「お,またここから帰りたいっ言う奴が来たのか.」
モグラはそう言って生垣の中へ潜ったんだ.
ガサっと小さく音がしたらすぐに止んだ.心臓の音と風の音がよく聞こえたんだ.
「で,お前はここが嫌いなのか?」
右手の生垣からモグラは顔を出してこう言ったんだ.
「嫌い?いやそんなことは無いさ.」
僕は普通に答えたんだ.もうこんな光景に適応するのも慣れたもんさ.
「ふーん,そうか.お前はここにいるようなやつな気がするがな.」
「心外だな.僕はそんなにイカレテ見えるかい?」
「おいおい,俺はここの奴らがイカレテいるなんて一言も言ってないぜ.まぁ,ここはそう言う奴らの集まりだがな.」
まぁ相手してやるよりも僕は先に進もうとしたんだ.
今いるところはT字路,僕は右に行こうとしたんだが,
「おい,別にどっち行こうと構いやしねぇが,ここを間違えちまうとこの庭園抜けるのはちょっと辛いぞ.」
「そりゃ,どちらかが行き止まりだろうけど,戻ればいいだろう.」
「そんなわけにはいかねぇ.ここからはな.お嬢が許さねぇのさ.」
「お嬢?」
「ここを抜けるとわかるさ.ただここの分かれ道だけは間違いが許されねぇ.」
脈絡もない話だったが,同にも信じないわけにはいかなかったんだ.
当然さ,僕は帰らないといけなかったんだ.
「ここに居りゃいいのによ.気づいてるか?ここじゃ食事は別に必要じゃねえ.睡眠すらもいらねぇ.」
今までの道のりを考えると相当な時間は経っていたんだ.だけど確かにモグラの言う通り,お腹はすかなかったな.まぁそれはろくな場面がなかっただけかもしれないけどね.
「お前はさっきここの奴らを毛嫌いしていたが,そんな悪い奴らじゃねぇさ.ただ話したがりなだけだ.」
「本当に話したがりばかりだ.やることだけやって適当にほっといてもらいたかったね.」
「まぁ人間同士,やらせるだけってのは無理なもんさ.あいつらは迷ってくる奴らが大好きだからな.」
本当はこの時にもうどちらに行けばいいのか分かっていたんだ.だけどこの時の僕は彼?の話を聞かないといけないそう思ったんだ.
「ここはいったい何なんだ?あんたならなんか知ってそうだが・・・.」
「ここは別に何の変哲もないここさ.そうだなあんたにとっちゃ地球だろ.それでいいじゃねぇか.」
「何か要領を得ないな.残念ながら知っている地球にはこんな場所がないね.」
「まぁ,いろんな奴らのたまり場さ.それはそれはいろんなところからのな.共通しているのはここに執着したってところだな.」
「執着?」
「嫌気がさしてんのさ.元の場所によ.ただ,生きる何かはある.だから奴らは話したがるんだ.ここの奴らは皆知り合いさ.」
「あんたも嫌気がさしたのか?」
「まぁそういうもんだよ.俺は特殊だからな.」
彼はハァとため息をついた.そのあと,生垣に潜って,僕よりも上から見下ろす位置まで登ったんだ.
「時間をとらせちまったな.帰るんだろう?さっさと選びな.」
「右に行くよ.」
僕はT字の生垣道を右に曲がった.
振り向いたら彼は僕を見送っていてくれたんだ.
「仲間に会えるさ.」
ふと僕の口をついたんだ.なぜだろうね.今でもよくわからない.
「そうか.」
「『ない』ことなんて誰も証明できないんだ.1人でも『いる』ならきっと他もいるんだよ.それに・・・.」
この時の僕は何故だかよく頭が冴えていたな.
「そのためにここにいるんだろう?」
ハハっと男らしく笑う彼を背に僕は生垣の迷路を抜けたんだ.




