第七話 初回クエストが楽勝っぽいです
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──アズ補佐官の前にやって来た。
教会の思い出を振り返っていたせいか、目の前に2~3人並んでいた候補生が居なくなっていた。
それならそれで都合がいい。
早速、アズ補佐官に一礼をした。
「ニルス・バオバーンです! よろしくお願いします!」
「ふむ。今回は希望者が多いので早速、本題に入るよ…」
最早どの係員も同じ事を言うなあ。
「まあ、気楽にしなさい。わしらの事を皆、先生や教官と呼ばなくて良い。名前で呼び、さん付けくらいで宜しい。時間もないことだしの…」
「──で、では。…お言葉に甘えて、そうします」
気楽にと言って貰えたので、そうする事にした。
でも、さん付けだとポンポ先生に敬意が足りないと言われそうなので、せめてアズ様やデム様が良いだろうとその旨を伝えると、手短であれば何でも良いと微笑んで了承してくれた。
早速、本題を進めてもらおうとクエスト受注の申し出をしてみた。
「なぁに、手続きなど大したものではない。習うより慣れろだ。先ずは、私と握手をしてもらう。右手と左手をクロスさせての握手をするだけだ。両手を手首のあたりで交差して、私に向けてごらん…」
「は、はい。…こ、こうですか?」
言われるがままに、手を開いたままクロスした両手をアズ補佐官の方へ向けると彼は何かを言い放ちながら、僕の両手をしっかりと握り締めた。
彼も同様に腕をクロスした手に軽く力を込め、ダブル握手をしてきた。
「──クロス・イン・ハート! 汝……我と契約を交わせし者として、病める時も健やかなる時もその魂の契りにより、共に頭上に誓いの鐘を打ち鳴らすことを認め、ここに我が主、魔法王の神託を許す!」
彼がそう言い終えると、不思議と僕の頭上でチロチロリーン♪ と、可愛らしいベルの音が聞こえた。
そして、次の瞬間だった。
「──こ、これは! ふむふむ、なるほどね……」
「どうやら見えたようじゃな。それは、知識図と言う代物じゃ……」
◇
彼の言った、習うより慣れろの言葉の意味は、すぐに理解できる様になった。
どういう事かと言えば、ベルの音と共にクエストに関する知識が頭の中で、図式により展開されたので理解に変わったと言う事だ。
これは、アズ補佐官の持つ高位スキルの恩恵を受けている様だ。
彼のスキル能力でたった今、初回のクエストを受けたのだ。
この能力を全員と契約し、配布しているのか、凄いなぁ。
そしてクエスト内容は常時、頭の中で確認する事ができる上に、その課題を達成した時点で再び頭上でベルが鳴る様になっていて、受注中のクエストはクリアとなってその場で詳細が更新され、そのまま図式で展開する過程で、次の指示も出るという便利な能力をアズ様とリンクさせて頂いていると言う訳だ。
頭の中でと言うか、目の前にパッと地図を広げた様に浮かんで見える。
そこで疑問があっても、そっと指差すか視線を合わせて心の中で問いかければその時点で入手できる情報が、更に詳細に展開する仕組みの様だ。
今だって、初回クエストの行き先や対象物の分布が地図上に示されている。
地図の下部にはスキルのリンク者名の表示もある。
そこには、
【アズ・カバン上級僧侶/スキル名:高位伝達スキル<ソウル・クロス>】と明記されていた。
これらは当然のことながら、自分だけが感じ取れる仕様に成っていた。
これによって達成報告を、いちいち彼の所までしに来なくても良いのが便利だ。
彼が直接報酬をくれる分けでは無いからだ。
遠出をした時にも非常に便利となるだろう。
次のクエストも順次用意されているため【引き続きクエストを受注する】を選択して閲覧項目から好みのクエストを決定すれば良いだけだ。
初回のものや期限があるものは、キャンセルしなくても良いが、これから受けるものの中には難易度が高めのものや自分の相性に合わないものは
【受注クエストの破棄】を選択し、決定すれば良いだけだ。
これで大体の事は飲み込めて来た。
しかし、これだとアズ様に度々お会いすると言う名分で、教会訪問が出来なくなるのではないかと考えていると、アズ様の方からお声が掛かった。
「──他に何か、私に聞いて置きたい事はあるかの?」
これはチャンスとばかりに尋ねて見ることにした。
僕の子犬の件もあるし、諦め切れないから。
「あ、あの。この町の教会の場所を教えて下さい……」
「む? 教会とな……デミーラ教会のことかの。あそこは確か、数年前に封鎖されとる筈じゃが、そんな所に何があるのじゃな?」
「──えっ!? アズ様は教会の僧侶では無いのですか?」
思わず、聞き返してしまった。
教会が封鎖されたのなら、この人たちは何処で働いているのかと思ったものだから…。
「ほう、そうか。──僧侶や神官は、確かに教会などに努めて居そうなイメージがあるわな……しかし、教会と言う所はの、町のイベントに使う施設に過ぎん」
「遠い昔には信仰の場として活躍があったようじゃが、私たちの職場はそこでは無いのだ。ニルスよ、語弊があるようなので説明をしておくとする……」
「僧侶も神官も、お主たちが目指す勇者の職種である。私も、向かいに居るデムも回復術を得意とする勇者の認定を受けた、言わば戦う僧侶じゃよ。──ああ、勿論……その限りでは無い神父の様な人もこういう服を着て、そこかしこに居たりするがの」
「……」
そう言われて見れば、僧侶って勇者の一員だっけな。
って事は……皆さん、先輩勇者という訳だ。
どうやら神父さんだと思い違いをしていた様だ。
僕は、照れ笑いしながらも過去に子犬と生き別れた事と、幼少期に行った教会での体験をアズ様に軽く打ち明けて見た。
◇
「……なる程の。行方知れずの動物たちの件か……それらも勇者への捜索クエストとして多数上がっておるでな、依頼があれば受けて見なされ。いつかその謎に迫る事が叶うやも知れんの……」
涼しげな瞳の奥で、一つひとつ飲み込むようにゆっくりと頷き、聞き手の僕に、あえて希望を持たせる様にあたたかく答えてくれた。
「引き止めはせぬ。勇者とは謎の究明にも挑み、世の中の闇を晴らすのも役目じゃからの……デミーラ教会は、広場からほぼ東に50キロメートル行った墓地の傍にあった筈じゃ……」
さり気なく下さる情報は、応援の言葉にも思える。
むしろ、挑めと言ってくれていると、僕は前向きに受け止めることができた。
そうだったのか……。
随分と距離があったんだな。
消えた動物たちの捜索が勇者たちに委ねられていたとは、好都合だ。
いつか強くなって、その謎に迫ってやろうと僕の胸は密かに熱く高鳴った。
僕は、軽く拳を握り締めた。
「ところでニルスよ、初回クエストは行けそうか? ぼちぼちでも良いが、早く済ませた方が良いぞ! 他の候補生たちは、割とすんなりクリアしておる様だ。内容を確認して本日中に始めるなら、ここで腹ごしらえをして午後から集会所の裏にある北の草原の【勇者の訓練所】に行って来るが良いだろう……」
その言葉の意味は、あまり後回しにし過ぎると、他者が先に進むあまりに劣等感と焦りで嫌気が差すこともある。
一人ひとり運も能力も違うのだからと……。
その様にアズ様に促されると、僕は初回クエストの内容を再度、読み上げて見た。
「勇者の訓練所内で、一人で魔物1匹と戦闘して勝利を収める事。魔物の種類はスライムである。スライムは大小いるが何でも良い。もし対象の魔物を3匹退ければ、規定の特典の他に勇者専用のアイテムボックスとなる魔法の鞄をもれなく贈呈する」
何か楽勝っぽい内容で、他の候補生は続々とクリアしているらしいのだ。
ここで悠長に構えて飯を食ってる候補生など見受けられない。
これは、善は急げと言うやつか。
「ほう、目が輝きだしたな! 戦闘未経験の候補生には、回復役員が2人同行する事が義務付けられているので、訓練所に行けば勝手に付き添ってくれるだろう。ただし、回復担当者は候補生の治療に当たるだけでクエスト自体は手助けしないので、彼らを薄情などと恨んではいかんぞよ」
「それと大事な事を言い忘れる所だった。今後のクリア報酬は、集会所内に【クエスト報酬受け取り室】を設けてあるので、係員から受け取るようにな。遠征中でも安心。集会所はどこの町にも一軒は設置してあるし、報酬は転送魔法で送られるから。私の他はここの係員がクエスト担当者じゃ。では宜しくの」
「あ、はい! 大変参考に成りました。どうもお世話になりました」
こりゃもう、行くしか無いに決まっているさ!
僕はアズ様にお辞儀をすると、先程のマグニートの話題で盛り上がっていた候補生の前まで足を運んだ。
一応、候補生たちからも情報を収集しておこうと思って、それとなく声をかけて行くことにした。
ふむ。まだ十数人は、スキル談話で盛り上がっている様だ。
「──やあ、君! さっきはありがとう……」
不意に、真後ろから声を掛けて来る男子が居た。
その声に僕が振り向くと、ポンポ先生の部屋の前で会った彼が、僕に礼を言っている様だった。
「オ、オレは、ヤン・チャマルって言うんだ。皆にはヤンくんと呼ばせている」
「あ、ぼくは、ニルス・バオバーンです。よろしく……」
よ、呼ばせている!? ぼくにも呼ばせるのかな……別にいいけど。
しかしビックリしたな、テキトーに教えた事が役に立ったんだろうか。
「ニルス、君は感じの良い人だ。オレたち今日からダチに成らないか? 初回クエは単独だけど、クリアしたら色々相談できる仲間が欲しいんだ。君からも同じ匂いがする。な、な、いいだろう?」
「え、ああ。ヤンくん……でいいのかな?」
う、何かグイグイくるカンジに押されてOKしてしまった。
同じ匂いって、何のことだろう? それについては、よく分かんないけど。
この子も不安なのかも知れない、その気持ちなら分かる気がする。
初回クエって言ったか、もうそこまで進めたのか……皆する事が早いな。
「ありがとうニルス! オレ、11歳だけど、君は?」
「じゅ、10歳です……」
ひとつ上級生だったか……。
尻に敷かれるのやだなぁ。
「今、年上とか思ったでしょ? 大丈夫。お互い勇者候補生のデビューは同じだろ。だから、そこは気にせず気楽にいこうぜ」
それほど良い事した覚えも無いのに、初日から話せる仲間ができた。
ヤンくんも優しそうな人だった。
逞しさも勢いも感じられた。
どんなスキル持ってんだろ……。
やっぱりそこが気になるよな。逆に聞かれたらどうしよう。
「ニルス、オレさ。何かとんでもないスキル引いたみたいでさ、ウキウキが止まらねェんだよ」
うわ! いきなり来たな!
「と、とんでもないと言いますと!?」
「それがさぁ。絶対系と言う、高位スキルだってポンポ先生の説明で分かったんだよ!」
げげっ! なんと、二人目か……。
しかしこれは、ツイているぞ! ヤンくんと出会えてラッキーだな。
「スキル名はさておき、効果と使い方は分かったから、早速、魔物に試してオレは、魔法の鞄もゲットするつもりだぜ!」
「お、いいな! 僕のはまだ効果が良く判ってないんだけど、ぜ、絶対系だって言われたよ……」
思わず、自慢をし返してしまった。
ヤンくんの眼がキラリと光ったのが見えた。
二人いれば最強だ、みたいな雰囲気になって、嬉し恥ずかしな気持ちになる二人だった。
そして、ヤンくんは早々に訓練を受けに行くみたいで、また近いうちに広場で会おうと言って僕に大きく手を振りながら、嬉しそうに走って行った。
僕も、他の人を気にしている場合じゃないと思い直して、勇者の訓練所に行こうと歩き出した。
読んで下さってありがとう。




