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第六話 ああ……なんという!!!

006



 ──目指す、アズ補佐官の姿は、デム補佐官の10メートル向かい側の仮設テントにあった。



 集会所の正面玄関から、中へ入れば試験官の居る部屋が並んでいたのだけど、外では正面玄関を挟んで向かい合った位置に2人の補佐官は、立っていた。

 


 双方の仮設テントには、3~4人の役員がいて常随給仕をしていた。

 夏だし、誰しも喉も乾けば、お腹も空く。

 お茶や冷水はすでに置いてあり、そこに、昼食の為に用意された白いご飯を炊くための設備があり、握ったおむすび等が並べられる準備も見て取れた。



 候補生の案内書には、確か……午前の部、午後の部の受付があった。

 午後からも、希望者がやって来る分けだ。


 「──ゴクリ」


 はっ、イケない。思わず、生唾を飲み込んでしまった。

 お腹が空いている訳でもないのに、涎が口から出そうになったものだから。

 午後の部を目指して昼前に来ていたら食事を振舞って貰えたのだろうかと、プチブレドラが起きたもので。



 それはさておき、ポンポ先生の部屋を訪ねて行く際、もう一人の補佐官の所在は、目視で確認はしていた。


 「──む?」

 

 補佐官の制服なのだろうか。デム補佐官も同一の服装だったから。

 それは神官の服装なのだと役員のおじさんが教えてくれていたけど、あれは僧侶の系列の服装だ。2人は、僧侶なのか。

 

 

 僕は以前、町のどこかにあった教会へ家族と行った。

 確か、両親の友人の結婚式だった。

 その時にその服装を見た覚えがあったので、そう思って間違いなさそうだけど、用件が済んだら教会の場所も含めて聞いてみたいと思っていた。



 ──と言うのも教会と言うと、僕はある事を思い出してしまうからだった。



 確認してそうだと知っておけば今後、クエストの件で何度もお世話になる筈のアズ補佐官を訪ねて……と言うよりも、訪ねて行くという体で町の教会にも足を運ぶ機会が増える事を嬉しく思うからだ。ウシシ。

 

 何故その事を嬉しく思うのか、僕の心は知っていた。

 集会所の入り口の脇で立ち止まり、あの日の事を少し思い返して見る。


 

 幼い頃、家族と行った教会には謎めいた部屋もあった。

 例えば、懺悔の部屋とか……。

 それよりも、教会という場所は僕にとってあまりにも退屈だった。

 

 ──なのでコッソリ床へ這い出る。

 そして、どなたかの足元で頭をぶつけ見上げて見ると、それはそれは女神さまの様なシスターが、僕に気付いて口元でそっと人差し指を立てて、静かにする様にと目を合わせて来た。


 僕はコクリと頷くと、彼女に甘える様にスカートの下へ潜り込む様に隠れようとした。

 シスターは、その破廉恥行為を敢えて拒もうとせずに、幼き子のする行動として寛容に受け入れてくれた。



 「(ああ……、なんという……慈悲深さ)」


 そんな、心をくすぐるおもてなしを受けていた時の事。

 


 手探りで床の上を指先で撫でていると、何故だかシスターが少しずつだが後ずさるのだ。


 「(ああ……、なんという……嵐のよるにお会いしたかった)」



 そのままじっとしていれば、僕の身体だけが外に出てしまい他の人に見つかってしまう。


 「(ああ……、なんという……みっともなさ、穴があったら入りたい)」



 そうはさせまいと、僕もシスターの移動に合わせてスカートの中でよちよちと歩く。


 「(ああ……、なんという……おみ足のささやき)」

 

 

 その奇妙な後ずさり行動が大人の歩幅で10歩分ほど繰り返されたのだ。

 その間も、僕の指先は床の上を撫でて遊んでいたがシスターがある地点で立ち止まった事で、僕の居場所が安定した。

 その場所で3分くらいが経過した。


 「(ああ……な、なんという……)」


 居場所が変わらなくなったと言う安心感から、指先で床をなぞる行為から床を軽くトントンとノックする様になっていた。

 その場所の床の音と、その他の床の音が明らかに違う事を知るのはもう間もなくの事だった。

 

 再びシスターの移動が始まったのだ。

 今度は僕が元居た場所へ戻って行くようだ。

 今度は僕が後ずさる形に。


 「(ああ……。ゴートゥ……リターン………)」



 元の場所でシスターに抱き上げられて、親元に返されてしまった。


 「(ああ……。な、なんという……不運)」



 僕が家族と居た席は、最後列の席で教会の入り口付近だった。

 家族と来た時には、席は満席に近かったが左側後方に親子3人が座れる席が奇跡的に空いていて、そこに座れたのだ。


 「(ああ……。なんという……グッドタイミング)」


 小さな教会で30人も入れば、満席となった。



 大人の歩幅で10歩下がった所は、祭壇の左脇に当たる。

 シスターが後ずさりをして行き両手を胸元で丸く重ねて、瞳を閉じていた。

 さっきのシスターは見回りか何かで行き来して、祭壇の左脇のあの場所で此方に向かったまま祈りを捧げているといった感じだった。


 「(ああ……。なんという……再会を祈るとは、健気な)」


 そしてまた、シスターが静かに此方へとやって来た。


 「(ああ……。なんという……夢想の計らい)」



 ──と同時に、僕も再び偶然に親の手を振り解き床の上に這い出していた、その時だった。

 

 

 僕の前列の席に居た小柄だが若い大人の男が一人、僕と同じように床の上に這い出して来た。

 男は、落とし物でも探す様に床の上を手で軽く撫でていた。


 次の瞬間! 


 若い男は、シスターの膝元に頭をぶつけた。


 「(ああ……。な、なんという……)」

 

 僕はその頃、確かに幼かったが、たった今自分が体験した事を頭の中でなぞる事は出来た。

 そう、その若い男もシスターの下半身に潜り込み、そのままあの場所まで少しずつ移動して行ったのだった。


 「(ああ……。な、なんという……ジェラシー!)」

 

 僕は、頭の中でなぞる……。

 

 生まれて初めて母親以外の女性の素足の滑らかさと、母とは異なる譬えようもない香りに包まれて、揺り籠に抱かれる思いでいた。

 しかも、シスターがそれを拒まなかった……。

 ここからが重要なんだ。

 

 だけど……成人男性でも拒まないんだと知ると、僕は自分にどういう感情が湧き起って次の行動に出たのかあまり記憶になかったが……。


 

 ──それなら、次の番は僕が貰った! と言う想いが募った様な気がするのだ。

 シスターの帰りが待ち遠しくなり、手が無意識に床をトントンと小突いていた。

 そこに何かしらの違和感を覚えて。

 それが床の音の差異だった事に気付くのは、その日を終えたずっと先の事だったが。



 そして、シスターは僕の目の前まで再びやって来た。

 僕の指先がシスターのスカートの裾を捲りあげた所で、僕は背後から迫る父親の手によって、あえなく元の席へと落とし物を拾うがごとくに回収されたのだった。


 「ああ……。な、な、なんという……スカイウォーク)」



 で、でも、僕は見てしまったんだ! 

 シスターのスカートの中に居る筈のその若い男の姿が無かった事を……。

 その男性が忽然と、教会の中から姿を消してしまっていた事を……。

 後々どう考えてもあの時、音の異なる祭壇脇の床は地下へ続く隠し通路だったのではないかと疑っていたのだった。


 

 僕はきっと、床の下に通じる入り口を発見したのだとずっと思って生きて来たのだ。


 

 残念ながら僕は見つかり元の席に戻されてそこへは入れなかったが、そこへ目線をやる怪しい二人組が同じ列の席に座って居た。

 二人は、ひそひそ話をしていた。

 聞き耳を立てていると、教会の地下には<モフモフBAR>と言うものがあるのだとか……。

 その時は、その言葉の意味は分からなかった。

 最も今でも明確になった訳では無いけど──



 その後、家に帰って来てから近隣で少しずつ奇妙な事件が続発していたのだ。


 

 どの様な事かと言えば、ご近所さんが飼っていたペットが迷子になった。

 届け出があって、捜索隊が町中に200人体制で出張ったのだが、一向に見つけられず行方不明のまま同様の不可解な事件がその後も続いていたのだ。



 不可解な事件、それは。



 この町で聞いた話では、ペットが犬や猫だとして、それが飼い主の家から居なくなると飼い主はすぐに町の警備隊に通報しなければいけないルールになっていた。

 何故なら、これを放置すれば野良が増える。

 野良が増えれば田畑を荒らす害獣となる。

 害獣は、町の人にとっても危険な存在になる為、駆除の対象となる。


 ──それは昔のある日のことだった。


 駆除の対象が出た時があったのだが、その時も物々しく警備隊が駆り出された。

 害獣と成った方も必死で逃げ惑ったことだろう。

 必死に逃げた獣は町の片隅に逃げ込み、とうとう町の分厚い防御壁に激突した。

 そいつは運悪く死亡した。

 頭から大量出血してその場に倒れてしまっていた。

 

 街の周りをぐるりと囲む分厚い防御壁は、町の外をうろついている魔物の侵入を防ぐための物だ。


 しかし、追い詰められた害獣が壁に激突死して、大量の血の匂いを撒き散らした。

 その匂いは防御壁の上空から町の外に漏れだした為、外をうろつく魔物を刺激した様で防御壁の外側で魔物が町に向かって突進してきた様なのだ。

 防御壁と頑丈に造られた扉はそこそこ持ちこたえたが、獣の血の匂いが上がった場所の防御壁に多少だがひび割れが起こり、一時はパニックになったのだ……。


 外の魔物は勇者たちの働きで追い払ったが、小さな町と国はたったそれだけの事で緊急事態が宣言されてしまうのだった。

 つまり野良の動物はこの国に、いや近隣の国でも世界中でも同様に徹底的に排除されていた。

 ペットは厳重に飼われなければいけない。

 居なくなったら届け出る義務があるのだ。

 この義務を放置した家庭はこの町から追放処分を受け、どこか知らない場所へと護送されて行く。


 その上、15歳未満の子供が居た場合には、その子供達を全てこの町に置いて行かねばならないのだ。

 親子は子供達と引き裂かれて、みなしごと成った子らは勇者として育成されてその道で生きて行く他は無くなるのだ。

 それでも、動物を愛する事を禁止している訳では無かった。

 飼う事を禁止している訳では無かった。

 皆を守るため、動物を守るため、家族を守るための責任を特別な事情も無く、放棄すると罰せられるのだ。

 15歳未満は処罰の対象外になるが、厳しい指導を受ける事になっていたのだ。


 

 どうだろうか……。実に不可解であるだろう。


 

 この様な事が町中で起こるにも関わらず僕らが生まれて来た頃には、ペットが行方不明のまま事件が迷宮入りと成っている事がしばしば起きていると言う事実だ。

 以上の様な理由で捜索の手が容易に打ち切られるはずも無いのに。


 消えた動物達はもしかしたら……何処かの地下に誰かしらの意思によって匿われているのでは無いかと思う次第であるのだ。

 僕は、あの教会も怪しいと常々考えていたのだが、そこへは決して行ってはいけないと親達は教会の場所を教えてはくれない。


 

 僕は、いつか勇者に成って自分の手で探索をしようと決めていたのだ。



 その訳は、僕の飼っていた子犬のチャオズも半年前、僕の不注意で居なくなって戻って来なくなっていたから。

 捜索隊も出たし住民も協力してくれて隈なく探したがチャオズは、僕の元に帰っては来なかった。

 町の中では、何処にも死骸が見つからなかった。

 町の外へも勇者隊が捜索の手を広げたが、その甲斐も空しく良い知らせは無かった。

 子犬だから……そんなに遠くへは行けない筈なのだが、どうしても見つからなかった。

 

 大人たちは、僕よりも悲しげな表情で、僕に非情な言葉を告げた。


 「──すまないな……連れ去られたものとして、捜索を打ち切らせてもらうよ」



 ◇


 

 そりゃ、泣いたよ。

 そりゃ、落ち込んだよ。


 町の為に、家族の為に、自分の為にいつまでもしょげて居られない。

 でも繰り返すのは怖いから、動物は飼い直さない事に決めたんだ。

 

 子犬だったからもう生きて居ないかも知れないけど、もっとモフモフしてやりたかったから。

 

 「──待って居ろよ、チャオズ!」 

 いつか、きっとお前を探し出して迎えに行ってやるからな。



 その為にも初回クエストをこなして親達に信頼されなくてはならないのだ。

 さあ、アズ補佐官の所へ行こう。

 


 ──デム補佐官が、アズ補佐官の話題をする時に指差して説明をして下さっていたので、アズ補佐官の所へは迷う事なく辿り着く事ができた。



 

読んで下さってありがとう。不定期更新ですが、温かい目で見ていただければ幸いです。

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