第五話 GO TO ブレドラ
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とうとう……スキルをゲットしたぞ!
念願の、そして家族の期待にも応えて勇者候補生にも成れた!
「よし、このままテンションあげあげ状態で、一気にダッシュで自宅に直帰する事」を想像した瞬間、僕のいつもの脳内列車が自動運転<ブレインドライブ>に切り替わって発車してしまった。
ブレインドライブ。
ブレドラは、僕の生まれつきのスキル……いや病的……いやいや、悪い癖?
そう考えたくないからこう呼ぶものとしているんだ。
そしてブレドラは、何やら決めゼリフを思いついてしまったぁ!
「ニルスキル、只今もどりましたー!」
帰って来るなり玄関先で出迎えてくれているだろう両親の前で、グッと拳を握った両腕を自分の胸の前で十字に組んだポーズを見せる。
十字は左寄りでな。
赤いマントは無いけれど、両足だって草野球で盗塁をバッチリ決める時のようにザッと砂埃を上げて大きく開いてカッコ良くヒーロー気取りで武勇伝っぽく語るのさ。
試験会場での苦難? の修羅場を乗り越え、数いる屈強なる勇者たちに最大限の礼を尽くした、かくも勇敢な僕だけに授けられたのが絶対系の五大高位スキルなんだってコトを!
僕の栄光に満ち足りた勇姿により伝達された高揚感に包まれて、愛情を込めてこの小さな身体をギュッと抱擁しながらも褒め称えてくれるだろう両親に、僕の口から一言聞かせてあげるのさ。
どんなに辛い試練に出会って、どんなに俯いたとしても、その度に僕に勇気を奮い起こさせてくれたのは、
「靴紐を結ぶ度に手触りで視えた"愛しきニルス"の刺繍の贈り物のお陰だよ…」
かあぁあー!
そんな言葉を照れながら囁いたら両親は、一体どんな表情を見せるのだろう。
朝まで待ち切れずに準備の確認の為と思い、プレゼントの箱を夜の間にそっと開けて覗いたんだ。
左右の靴の踵の所にそれぞれ刺繍が入っていたのを見つけたんだ。
右の靴に父さんより『キャッチボール』と一言。
左の靴に母さんより『野の花』という言葉が縫い付けてあった。
父さんは、いつも肩の力を抜いて気楽にやればいい。
キャッチボールが上達するコツはそれだけだと、僕の目を見てボールを投げ返してくれた。
母さんは、いつも野に咲く花は力強く伸びるけど、無理に背伸びをする訳ではなく、日々蓄えた養分を発揮する開花の時をじっと待っているのだと言って、僕にご飯をしっかり食べてしっかり眠るように子守唄を歌ってくれた。
僕はただ、より一層二人に喜んで貰いたくて、自分もより一層幸せを味わいたくて、ブレドラ自体も楽しんでしまう事がある。
分かっている……。
素直になれば楽に成れるのかも知れないってコトは。
ポンポ先生の前でも、半分ブレドラ発車していた。
さっきのはマイナス思考で、今のはプラス思考で少し内容を盛ってはいたが。
この事が人様に害になるのか、自分の為に良くないのか今は良く分からない。
僕は、一人っ子で優しくしてくれる大人は大丈夫だけど、同年代の子らとは、あまり上手くいかないんだ……。
◇
「──あ、あの、すみません…」
はっ! イケないっ!
ポンポ先生の部屋の前でボーっとしていたら、次の希望者が呼ばれてやって来たのに気付けず、目の前の彼も首を傾げていた。
「も、もう済んだ人ですよね? その瞑想みたいなのも何かの試験ですか?」
不意にそう聞かれたものだから、ついつい
「そ、そうですよ。広場を出るまでが試験なのだ注意を怠るでない…ぞいと、せ、先生が仰っていました。どうぞお気を付けて行って下さい」
僕は、目の前の彼にそう言って通路を譲った。
思わず口から適当な言葉が出てしまったのだが。
彼は、ご親切にと言わんばかりに一礼して、扉を叩いて入室して行った。
あり得ないほど注意を怠ったのは僕の方なのに……。
『はっ! イケないっ!』と言うワードで、いつも途中下車をしていますが部屋に一人でいる時など、下手すれば朝から夕方まで。
いつかは、サヨナラをしなければならない病的スキルです。
ポンポ先生なら外してくれるかも。
そんな事を思いながら、集会所を後にした。
◇
──外に出たら、何やら人だかりが出来ていて、ざわついていた。
そっと近づいて見ると、ちょースゲェだの、ハンパねェだのと候補生に成ったと思われる人たちの興奮冷めやらぬ声が公園内を飛び交っていた。
これは……貰ったスキルの話題で盛り上がって居るんだろうか、と気になって来たものだから、更に傍で聞き耳を立てていると、僕の後方からも同様に複数人の声がした。
それも前方の人だかりに向けて発せられた言葉だったので、僕の耳にも会話の内容がスッポリ入って来た。
僕は一瞬、唖然とした。
「マグニート、超憧れるぜっ! 誰かその試験官の面接だったヤツいねェのかよ!」
ぶっはあ! 溺れかけて九死に一生を得たかの様に息をふき出してしまった。
と同時に思わずのけ反ってしまった。
自分たちのスキルの話題どころかポンポ先生の話題でも無くて、隣の試験官の人気に猛烈に火がついていたとは……やれやれ、ポンポ先生の名乗り口上も希望者全員に漏れなく付いて来るみたいだな。
あの時の変な予感は見事に的中。
それはさておき、皆も福引のガラポンで引き当てた様々なスキルを本日、身に付けた筈だ。
五大高位は今の所ぼくだけだとポンポ先生が言っていたけど、まさか最後の激励も全員付与の口上なんてオチはないだろうね!?
もし自分のスキル名を聞かれたら何としても誤魔化し通して、あの恥ずかしいネーミングを語るつもりなんて決して無いのだけど、人様のモノが気になるのはぼくだけでは無い気がする。
好奇心は旺盛な方でして。
怖がりだけど、怖いもの見たさはあったりするんだ。
周りのスキルへの関心とテンションが上がっている今なら、さりげなく自然の成り行き装って聞いて見たら、自慢げに答えてくれる子も居るのかなって思ったものだから。
そんな事を考えながら、ちょっぴり浮かれている時だった。
ピンポンパンポーン♪……。
『候補生に採用された者は順次、試験補佐官アズの元へ行き、初回クエストの手引きを受けて下さい。補佐官の指示に従ってクエスト受注の完了を済ませた者から帰宅して良し!』
『繰り返します……』
え!?
広場の放送案内によると、今すぐにでも、もう一人の補佐官の所へ行かなければいけない様だぞ。
ポンポ先生の部屋から集会所の外に出て来たのが、7時30分頃だった。
他の候補生の騒めきに気を取られて5分程過ぎてから、クエスト受注に関する手引きを受ける様にと、放送でその呼び出しの言葉が2度に渡り繰り返されたのを耳にしたのだった。
ここらに居る候補生たちは、今の放送案内に耳を傾ける様子はないから、もう済ませたってコトかな。
これは、ウカウカしてられないぞ。
ニルス・バオバーン、行きまーす! 白い仮設テントに向かい、在りもしない操縦桿を握りしめ、前に倒す仕草をしながら、ブオーンっと駆けて行った。
補佐官と言えば……デム補佐官にもお礼を述べて来なければならないんだった。
忘れない内に行っておこう。
僕は、デム補佐官の所へ足早に駆けて行き、ポンポ先生が宜しく伝えるようにと言われた事を伝えると彼は笑顔でそうかそうかと応えてくれた。
スキルを無事に受けた事と候補生になれた事を合わせて、おめでとう! と僕の方をポンポンと叩き、まるで自分の事の様に喜んでくれた。
「ニルス君。いよいよこの後は、アズ補佐官の所でクエストを受注する訳だが、ポンポ先生に宜しくと言われたので教えといてあげよう……」
うわぁ、またアドバイスを下さるのですか。何というか
デム補佐官という人は、本当に親切で思いやりがあるんだなと思った。
本当にポンポ先生への忠誠心や部下としての責任からだけでは、この様に好感度の良い人柄には中々成れない様にも思う。
何とも前向きな人だろう。僕なんかとは、月とスッポンだ。
ポンポ先生が若い頃から怖すぎてそうなるしか無かったとかかも……あはは。
いやいや、ご自身の役目を懸命に果たし切る事で、上官のポンポ先生に敬意を示されている様にも感じた。
僕も自分の足元を固める事に執着せずに、こんな風に周りのお手本となる人がいる事に注意を払って感謝をしながら暮らして行けば、人並みに成長できるのかな。
これまで考えもしなかった事を今、ふと考えてしまった。
◇
──デム補佐官の柔らかい声が、心地良さを増した。
「候補生になった者には特典がある事は、案内書で既に存知の事だと思うが、アズの所で受ける初回クエストを受けて、その内容を1週間以内にクリア、つまり達成できれば特典が正式に実施されると言う運びになっているのだよ。
──これを事前に案内状で知らせてしまうと、クエストを難しく捉えて敬遠する者も出てくるので、現場で実際、候補生になったら伝えるという趣向だったのだ。このクエストは失敗しても再挑戦もあるのだ。焦らなくても良いが、初心者向けの優しい条件だから…」
「──は、はい!」
クエストは、リトライが出来る。条件は初心者向け。そんな甘い囁きについ、気合を込めた返答をしてしまっていた。
「今から受けて来なさい。それと、クエスト受注と達成の報告は、アズ補佐官の担当だから一度は話を聞くのが良いだろう」
「あ、はい! ありがとうございます。デム補佐官に敬礼!」
「うむ。ニルス君、健闘を祈るよ!」
そう言ってデム補佐官は、僕の敬礼の仕草に対し同じ仕草で返答を返されたのだった。
挨拶しに来た甲斐があった。
デム補佐官がぼくの頭の中の疑問符を解消してくれたのだ。
つまり、試験は前半と後半に分かれていて前半をスキル付与でクリアとし、候補生に成らせる。
後半でクエスト受注の体験をさせ、早速、候補生のやる気を試す。
試すに当たっては、特典の実施と言うボーナスを皆の目の前にちゃっかりとぶら下げると言う趣向だったのだ。
スキルを貰ったお陰で表に出て来た皆が、すこぶるテンションを上げ合うことも想定されていたんだろうな。
子供は、実は大人よりも競争心が強い、落ちこぼれる事や仲間から遅れを取る事に強い劣等感を持つというデータがあると言われている。
大人は子供たちと同様のストレスを甘んじて受ける環境に立場として身を置くケースが非常に多いこの世界では、この状況を逆手に取った教育方針もそう珍しい事ではなかった。
──そうと判れば善は急げ!
僕は、アズ補佐官の元へと足を運んで順番を待つ事にした。
読んで下さってありがとう。遅筆ゆえの不定期更新です。温かい目で見守って頂ければ幸いです。




