第三話 スキル神官
003
緊張感を通り越して勝利者気分でスキル神官を訪ねに行きます。
◇
──コンコン!
抜かりなく扉をノックをすると「入りたまえ!」と声が聞こえたので、中へ入った。
「失礼しまーす!」
デム補佐官の礼を尽くせと言う言葉も忘れずに、しっかりと入室の際に声をかけて入ると……。
「なんだ? もう帰るのか、ゆっくりして行けば良いものを……じゃ次の人!」
え!? ちょっと……。
「あの……そう言う意味では無くてですね、こちらにお邪魔しますと言ったのです」
入室すると六畳一間ほどの部屋に、歳は70ぐらいの背の低い小柄なおじさんが目の前の机にひょいと腰を掛けていた。
顔中に大きな白い髭を蓄えているその姿は、子供が大好きなサンタさんをそのまま連想させる。
司祭の衣装に身を包み、愛くるしいほどのその円らな瞳は室内の観葉植物に向けられていた。
植物に気を取られていたせいで挨拶の言葉を勘違いされているのかと思い、慌てて言い直したのだけど……。
更にその後も、邪魔をするのなら帰って結構だとか、おはようございますと言い加えれば……
「ほう! オハヨウゴザとは変わった名前だのう、居るのは見ればわかるわい……」
……人が一生懸命に話しかけていると言うのに、なんでそんないい加減な返事しかしてくれないのかと、僕は少し腹立て気味に用件を告げる。
「ぼくは、スキルを受け取るためにこちらへやって来たのです! なぜ? いちいち話をはぐらかすのですか? ぼくが子供だからと適当な篩にかけて不合格にする、そう言う試験ですか? 説明して下さい!」
「ふむ。割とシャキシャキと物を言う子だの。では説明をしてやろう。お前さんはこの年寄りをただの年寄りと思って接しておるのか、それとも……スキルを子供のおやつ代わりに子供に配るだけの役員だとでも思っておるのか……」
「わあっ……」
シャキシャキと返してきた言葉は、まるで年寄りの冷や水。
年寄りを、ただのしわくちゃの汚いものみたいに言いやがって的な被害妄想?
僕はそんなこと一言も言ってないのに。
うわあ……。イタい試験官だなあ。
何だか気むずかしそうな人が試験官だな。
ブルーになっちゃいそう……こう言う人苦手なんだよな。
でもスキルを受け取るまでの辛抱だ。
僕にだって人権はあるんです。
ここは強気でいくぞ!
「あの……スキルを下さるスキル神官のポンポ先生だと伺って来たのです! スキルをくだ……」
「ほう、いかにもわしはスキル神官である! 説明を求めたのはお前さんだぞい
、とくとわしの話を良く聞くがいい……」
わっ! 思った通りすごいテンションでなんらかの説教臭そうな説明を語り出してきた!
お年寄りがきつめの口調でこう言うセリフを出す時は、大抵がお説教の類。
……でも何故、僕は朝っぱらから突然お爺ちゃんに絡まれているのか良く分からなかった。
「スキル神官とは、この世のありとあらゆるスキルを発動する、しないの全権を持っておるのだ…ぞい。──隣の部屋に控えておる試験官はの、マグニートと言うゴールドスキルで火山を休止するも噴火させるも自在の男でな、その能力と対峙すれば噴火させたマグマを火山から根こそぎ此方へ向けて全力投球すると言う豪快さだ!」
な、なんかいきなり自慢話? が始まってますが……。
せ、先生なんだからスゴくても当たり前だと思うんですけど、何でお隣の先生の話まで持ち出すのかな……って。
もう正直、暑苦しいです。
「──その威力たるや大規模の町をひとつ、あっという間にマグマの高熱が丸飲みにする。その様はまるで、よそ見をしていた隙に鍋の煮汁を台無しにしたせいで丸焦げになるまでグツグツと煮込み続けられるだけのスープグラタンへと姿を変えてしまうと言う恐ろしさだ!」
「ででで、ですからー、そういう驚異的なお話を出会いがしらの10歳の児童に熱く語られてもですね……こここ、困るんですけどぉ」。
ああ一体、僕はどうすればいいんだろう。
思わず頭を抱えて耳も塞いじゃったんですけどぉ。
このまま目も閉じちゃおうかな……流石にそれは男が廃るか。
「──だがの、わしがマグニートのスキル発動を許可をせぬ! とな、念じてやるだけでそのスキルは効果を発揮できず、男はたちまち尻尾を巻いて逃げ出すしかない負け犬と成り下がるのだ!」
ダダダダダッ……
「だからぁあ」
ドドドドドッ……
「どういう試験なんですかぁあ?」
セセセセセッ……
「説明になってないコトに気付いて欲しい……」
僕の心は震えるあまりに、この試験の名をダダドドセの試練と名付けていた。
同時にぶつくさと声をもらしていた。
いや、そんな事、どうでも良いんだけど。
部屋に入って来た時の第一印象は子供好きのサンタさんだったポンポ先生の円らな瞳は、もはや獲物を捉えた鷹の目のごとくに鋭い眼光を放って此方を睨みつけていた!
も、も、もしかして、キャンペーンなどとは真っ赤なウソで集めた子供たちを鍋に入れてグツグツ煮込んで食べるつもりじゃ……。
「ひっ……………」
ス、スキル神官、超怖えェーー!!!
うああ……僕は、何かとんでもない人の前に居たんだ、これ!
その上、なんだか絶対的なご立腹でいらっしゃる様だし、もう駄目かも……別の日に出直しても隣の試験官に当たったらと思うと……。
試験官は5人居るらしいけど、この分じゃすんなりと合格させてくれる人は居なさそうだ。
ラッキーデイの本日限りのスキル付与特典……うまい話には棘があると言うやつですか。
候補生の特典だけでもオイシすぎるもんな。
勇者の候補生だなんて、はっきり言って怖がりの僕には不向きな事だったのかも知れない。
そりゃ勇者の育成試験だもんな。
はっきり言ってナメていた。
どうしよう……もう膝が震えてる。
ガクガクブルブル。
このまま外に出されたら候補生に成れなかった事なんてあっという間に広がって、ガクブル少年ニルスとして、後世に名を残すことに……カッコわるいな、僕。
でもこれ以上、やせ我慢をしても辛くなるだけだし……。
これはもしかすると、自分とは釣り合わない場違いさに気付けもしないのかって言うあの有名なシーンだよ。
ほらほら、社会人の面接のドキュメンタリーとかでよく見かけるあの緊迫のガチシーンなんだよ、きっと……。
もう謝ろう……。
そして裏口からそっと出て行こう。
正直に打ち明けよう。特典目当てにノリだけでやって来ましたと。
さすがに命までは取らないだろう。
さすがに家には帰してもらえるだろう……。
そう決めると気持ちが急に軽くなった。
よし、この際だから先生の話は、後学の為に最後まで聞かせてもらう事にしよう!
「──ふう」
「む? 急に面構えが変わりおったの。良いじゃろうもう少しの辛抱じゃ。さっきお前さんがノックをして入って来た後ろの分厚い扉は声が外に漏れぬように防音効果があり、廊下の壁も覗き見防止の為、窓が無い。
だがの、わしが念じてその効果をオフにすれば扉も壁も、わしの目からはスケスケの透明になり、外の事や人の会話の内容も筒抜けになるのじゃ!
お前さんが恥をかかなくて済むようにと一生懸命に姿が見えなくなるまでアドバイスの声を絶やさなかったデム補佐官の真心に後ろ手で手を振って走り去るとは、不敬である…ぞい!」
なんだろう、もう少しの辛抱って?
急に、デム様の話題に入って、表情がさらに険しくなった。
「お前さん、彼を補佐官だと思って適当に手を抜いたじゃろう……」
「ひっ……」
ポンポ先生が向けていた僕への態度の意味が、河口から噴き出すマグマのようにその熱弁が迸る事で、鈍い僕にでも十二分に伝わってきた。
表情は、鷹が獲物を狩るが如くに鋭い眼光を放っていた。
だけど語り口調は、子供にお伽噺を聞かせるようでもあった。
厳しさの中に優しさがあるのか、優しさの中に厳しさを蓄えているのか解らない。
ただ、僕が子供であるからこそ、厳しい指摘の末にも、それが理解に変わった時、温もりがあるようにも感じられたのだ。
はう! スキル神官ハンパねェーー!!!
そう言う事だったのか……。
まさか? 表での一挙手一投足を見られていて、その事への指導である事を露ほども知らずに自分勝手に腹を立てていたなんて、恥ずかしさで顔から火が出そうな思いだった。
お陰で、分けもなく一方的に意地悪をされているのでは無いと知る事が出来たんだ。
これで返ってスッキリした気持ちでここを去る事ができる。
「……」
このまま何も得られないまま、諦めて家に重い足取りで帰って行くしか無いのかと思っていた所に、人の思いやりに気付けないばかりか役員なんだからそれくらい出来て当たり前で、剰え子供に対してその振る舞いが出来る人だけを立派な大人だと認識するようになって行き兼ねない状況だったのだ。
そして、いつの日か自分は何も悪くないなどと思い違いをして生きて行かなくて済んだのだから。
最初が肝心とばかりに張り切り過ぎた結果だけに……終わり良ければ全て良し?と言う気持ちで最後だけでもデム補佐官の真心に応えて帰ろうと思い、意を決してポンポ先生に言葉をかけた。
「ポンポ先生! デム補佐官には帰りにお礼を申し上げます。この度は……」
「──ああ! うっかりしとったわい。今日は希望者が多くての、早速、本題に入るぞい! では机の上にある、ガラポン抽選機を思いっ切り回して見てくれるかの。出て来た玉の色でスキルを決める、そう言う趣向じゃ」
「はっ!?」
ポンポ先生の顔つきは一変して涼しい表情になって、軽快なテンポで話を進めるようだった。
何事も無かったようにだ。
まったく、ポンポ先生の感情の起伏が読めなくて驚かされるばかりだ。
あれ? 僕を見なくなったぞ。
「──えっ?」
ポンポ先生は、玉の色がどうとか言って腰掛けていた机からひょいと降りて、机の上に置いてあった福引の時に使うガラガラを回す様に促した。
「──こ、これって……」
スキルを下さると受け止めて良いようだ!
「て言うかこれまでのやり取りは何だったのですか?」
ぼくの純でブルーな心の葛藤はどこに埋めればいいのでしょうか。
全く、こっぱずかしいったらありゃしませんわ。
「ほれほれ! 遠慮はいらん。気持ちを楽にしての」
「あ、は、はいっ! クウー! ネルー! アソブー!」
一体何の三段活用だか分かんないけど……リラックスするにはこれが一番の御呪いだと、近所のホームレスのオジサンたちが話しているのを聞いて覚えていたんだ。
もう、四の五の言う必要はなくなった!
僕は、ガラポンのハンドルを千切れんばかりに思いっ切り回して見た!
ガラガラガラガラガラガラーーーーーーーーーぽん!
コンコロリーン……。
白いトレイの上に勢い良く出て来た玉の色は、金色に見えた!
おっ! ゴールドだ。
「ほお! ゴールドが出たな。かなりハイクラスのスキルに恵まれる子は、本日初めての事じゃ。目出度いの。では、お前さんにはこの金のスキル箱を授けるとしよう、受け取りなさい」
ポンポ先生は満面の笑みを浮かべて自分の事の様に喜んで、金無垢の箱を手渡してくれた。
何この高級感……かつ重量感。
外見は金塊そのもの、金ピカだ。
10センチ四方のキューブだけど内側も全部ゴールドなら、質に入れて換金したら家が買えるんじゃないかと思うぐらいの代物だぞ。
僕は家より操縦士付きの飛空艇が欲しいな……。
「もしかしてこれ、丸ごと貰えるのかな?」
涎を垂らす思いでゴージャスな気分に浸っていると、ポンポ先生はスキル取得の仕方についての説明に入っていた。
はっ、イケない! ボーっとしていて説明を聞き直そうものならまた大目玉だったぞ!
……ふむふむ、なるほどね。
スキル取得の仕方はこうだった。
箱を開けると、中から煙がモクモクと出てくるのでそれを頑張って室内がクリーンになるまで体内に吸い込みなさいと言うことだった。
鼻からでも口からでも良いので、全部吸い尽くせ!
ポンポ先生は、奥の小部屋にしばらく姿を隠すそうだ。
この部屋はポンポ先生の特殊スキルで完全密封しておくそうだ。
後は、自分の身体が熱くなるのを感じたら成功なので、ポンポ先生を呼んで確認事項を済ませたら、僕は晴れて勇者候補生と成るのだ、と。
読んで下さってありがとう。




