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第二十話 勝利の余韻

 

 何だかんだとビビリ倒してきたが、結局、欲しいものは全部手に入れたニルス。


 勇者候補生の切符。

 ときめく出会い。

 先輩だけど優しく楽しい仲間。


 おじさんだけど、お兄さんと呼んであげられる親近感のある先輩。

 世界最強クラスの高等魔法使いから授与された、絶対系勇者スキル。

 大人でも四苦八苦するスライム討伐への自信。


 そしてなんと言っても両親に合わせる顔が一番かな。


 ☆



 みんなと待ち合わせていた訓練所のカフェに到着した。

 すでに戦い自体を済ませていた3人は、席に着いていた。

 3人は、ニルスが見せる明るい目の輝きから、試験を突破してきた事を察して、


「おう! おめでとうニルス。楽勝だっただろ?」


 声を揃えてニルスを迎えた。


「う、うん。楽勝じゃなかったけど、全クリできました」


 そうだ、決して楽な戦いではなかった。

 ニルスのスライムクエストは焦りと恐怖心を乗り越えた先にあった。

 幸いスキルが自動で発動するタイプだったから、負傷した痛みで苦しまずに済んだ。


 本当なら、そんなことは隠しておいて、カッコよく

『楽勝だったかって? ったりめーだろ!』 ニカッと作った笑顔とポージングでキメて。

 タメ口なんか言ったりしてみたい年頃なのだが、ニルスは真実の戦闘の姿を経験した。


 だから、ありのままを語った方が皆の未来のためになると、打ち明けていった。

 目の前の人たちは後輩でもなければ、意地悪な同級生でもないのだ。

 まして試験がおわるまで待っていてくれた。

 笑顔で、声を揃えて迎えてくれた。


 打ち合わせをしての事だよね。


 ここで過ごしている間、自分へ贈る応援の言葉や出すタイミングも、ああしよう、こうしようと考えて相談していた。

 敗北だった時もやっぱり声を合わせて励ましてくれようとしていたのでは無いかとニルスは瞬間、感じ取ったから、ありのままの出来事を感動で胸がいっぱいの今、伝えて楽しいひとときを仲良く過ごしたいと思ったのだ。



「お、おう。まじか! スライムってこんがり焼けばいいのかよ」

「なんも焼き上げる必要はない、食うわけじゃないんだから」


 モグリンが話を広げて、少し真面目なバブチがやんわりフォローで和める状況を創る。


「わははは~、案外キャンディーみたいに甘いかもよー」

「ナーチてば、大喰いなの? アイツ、見た目30キロはあったよー」


 ニルスもツッコミ口調で会話に参加する。


「うわっはっは。ウソだろ、俺達の体重より重いかも? スライムバーカー新発売!」

「スマイルひとつとスライムひとつくださ~い!」

「メタボだよね。それって速攻メタボだよね?」


 この3人って、いつもこんな感じの会話を繰り返しているのだろうかと。

 ニルスは、ここはどう絡んでいけばよいのか少し悩み、思いっ切って


「ぼ、僕はメタル系ボディの方のメタボがいいです!」


「……へっ?」


 3人は、沈黙してニルスの方を見た。


「うっ、やっちまったぁ。スライムバカにスマイルひとつ、速攻レベル上げだよね?」


 そう言葉を発するやいなや、頭を抱えた。


 ここはカフェでみんな食う話で盛り上がっていくんだとニルスは思った。

 だが、ニルスの家は裕福ではなく、ましてや子供、外食の話題が苦手だった。

 しかし、ナーチがバーガーをバーカーと言い違えた事を聞き逃さず、機転で


「……って聞こえたんですけどぉ?」


 抱えていた頭の手を左右に開いてみせて、お手上げのポーズをした。


「ぶうっはっはっは──! 最高、ニルスまじウケるそれ~」とバブチ。

「ぎゃはははは──! 最高、まじサイコパス! オクトパス! 耳よすぎ~」

 と照れながらナーチ。


 ニルスはもはや、話題について行こうだの絡もうだのの概念を脱したのだ。

 メタボをフリにして、オリジナルのボケで流れを変えてしまったのだ。


 乗れない会話の流れがあっても、自己流で切り返し、めげないメンタルをスライムクエストで入手していたようだ。


 受けようと受けまいとみんなで一緒に何かを楽しむ事に前向きで居たかった。

 そのガッツに3人は応えてくれると信じて喰らい付いていく。



「だぁっはっはっは~! まじナーチ噛んでやがんの! ウケる~」

 モグリンが、確かにナーチ噛んでたよね~的にフォローしてくれて爆笑の渦。


「サイコパスって肩こりに効く、アレですか?」


「……へっ?」


「ぎゃあハハハハハ──!! まじニルス、ウケる~!!」


 3人はこぞって笑い転げた。

 ニルスも心の底から笑い声をあげた。

 ああ楽しかった。


 ウルタと言う、ちいさな町の片隅でたくさんの勇者候補生の笑い声が誕生した。


 夕暮れが近づいて、午後4時になろうとしていた。

 普段の下校時間より少し過ぎても、今日だけは大目に見てくれる大人たち。

 でも、そろそろ家に帰って家族へ報告もしなければ。


 楽しい時間は、絆を築きつつもあっと言う間に終わろうとしていた。




 ニルス自身も、3人も、他の候補生も、試験官も、街の住民も、そして国内外のあらゆる人間も、魔法使いも、この日の夕刻に訪れる恐怖を知る由もない。



 だが、もうすぐそれがやって来るのだ。


 


 もう間もなく、ニルスが家路に着く。


 裏口に回って、洗い場に行き、いつものように泥をきれいに落として部屋に上がる為の誰もが取る何の変哲もない、その行動とともに。


 世界の平和を魔物が閉ざしているのだと自分勝手に良いように解釈する人間たちへの誰かしらからの警鐘であるかのような断末魔の叫び声が、街中に響き渡る。








◇◇◇◇◇◇




この物語は、今回で打ち切り終了とさせて頂きます。

目を通して頂いた方々、本当にありがとうございました。

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