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第二話 勇者候補生

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 迷いの森での退屈凌ぎは、ニルスの故郷での思い出話。

 5年前の夏、その場所は『夢幻大陸ファナジスタ』という世界にある

 ラッキーボール小国。

 その中のひとつに位置づけされる、小さな田舎町ウルタから始まる。



 ◇




 ──今日から僕は勇者の候補生になるのだ。


 


 本日、晴れて10歳の夏を迎えた。

 

 10歳に成ると誰でも、いや勿論、希望する者だけだが勇者になる為の訓練場に入る資格が与えられる。それが勇者候補生と言うものに当たる。

 それに挑戦できる会場が町の広場に設けられており、只今、開催されていた。

 

 


 ──僕は、さっそうと町の広場へと足を運んで行くこととなった。



 

 僕は実はけっこう早起きは得意なんだ、と勝手に思っている。

 夏休みになると早朝からセミの抜け殻を取りに出かけるんだ。

 その様な奇特な趣味を自慢したい訳ではない。

「いわゆる普通……じゃない」昆虫採集が大好きでしてね。

 


 中に入ってたみんみんと鳴いたり動いたり、指からくっついて離れてくれない蝉の方には興味が行かなくてね、そっちは取らない人なんだ。

 

 僕は心が優しいので、寿命が短いセミには夏の風物詩としての出番を全力で生きて欲しいから摘み取らないであげているんだよ。

 

「うんうん。なんて心が優しいんだろう……僕は。

 ううん。ぜーったい! 虫が……こ、怖いとかじゃないからね。

 このように頭の中で独り言が多い自分は、人との関わりが苦手な性格でもある。

 自分でもわかっている。いや、自分が一番良く知っている」


 

 ……臆病。



 そう言ってしまっては身もふたもない。

 まだ、10歳に成ったばかりだ。

 諦めるには早すぎるぞニルス。

 克服したい気持ちはある。

 変わりたいんだ。


 このままでは孤独感に(さいな)まれ病的な日常を送る大人になって、自分の殻に閉じこもり、部屋に引きこもり、出会いも別れも無く、恋も知らず、愛も知らず、家庭も持てず……ああ。



「──また始まった」

 

 

 だから、勇者候補生に志願することを決めたんだ。

 自分の空いた時間を使って、(たまわ)ったクエストを名分に様々に活動に励む。

 例え、変われないままでも一人で生きて行く生活力は身に着く。


「ホントはもっと楽をして遊び人のように遊んで暮らしたいんだけど」


 人とのコミュニケーションの取れない遊び人なんか誰もそれとは気づいてくれなくて、根暗なゾンビが仲間になりたそうにこっちを見ているぞって、言われるのがオチ。

 そんな人生まっぴらごめんですから、やるだけやってやろうと腹をくくったと、こういう流れである。



 ◇


 

 ──早朝、ほんのりと朝日が顔を出す頃には目を覚ましていた。

 


 昨晩、就寝前に案内書の確認などの準備はし終えたので、起床後は顔を洗って歯磨きをして朝食を済ませるだけだった。

 準備といってもこれと言って特別な物は何も必要は無くて、身だしなみと心の準備くらいがあれば良い。

 

 

 身だしなみは足元からと両親がスニーカーを新調してくれた。

 ウチは、あまり経済的な余裕がある訳でもない生活なのに、僕のモチベーションの足しに成る様にと靴だけを買い揃えてくれたのだ。


 

 新しい門出を祝ってもらっている様で心が弾むようにも、また引き締まる様にも感じていた。

 嬉しいと思う気持ち、ありがとうと思う気持ち、新しい朝が待ち遠しいと思う気持ちが混じり合いながら、僕の眼はベッドの枕元に置かれたプレゼントの靴の箱を何度も見つめ直していた。



 消灯後も自然と眠りに就くまでプレゼントボックスにそっと手を掛けて、まるで飼って間もないペットの頭でも撫でるかの様に幸福気分に浸っていた心地良さは

、寝付いた後の夢の中までも着いてきたほどで、朝の目覚まし時計が鳴り響くまで両親にありがとう、ピッタリだよと繰り返し感謝の言葉を告げていた。



 ──今日は、そんな夢見の朝だったのだ。



 ◇

 


「ニルス、肩の力を抜いて気楽にな!」


   

 玄関を出る時、両親が背後から声援をくれた。僕は少し振り向いて笑顔で応えて、新しい靴がピタリと足にフィットしている事を大きく足踏みする事でアピールした。

 


 家を出て広場までは徒歩で15分と掛からずに着いた。6時10分頃になる。

 すでにけっこう人が来ていた。

 人差し指をそっと動かして人数を数えてみると、ざっと100人は集まっていた。

 

 

 広場での候補生の受付開始時刻は6時ジャストからなんだけど、あんまり早くから行っても相手は、動かないセミの抜け殻じゃなく、国から任命を受けた屈強な試験官たちだ。


 

 まだ何をさせられるのかは情報が伏せられていて分からないんだ。


 

 やれ、うさぎ跳び200回だとか、やれ、候補者全員その場で腕立て伏せを200回だとか肉体労働系の試練をいきなり言われたら、自分にも優しい僕は次の日にしちゃおうかなって思っちゃうんだもん。

 

 集まった人たちの表情や会話から様子を見て、この場の空気に馴染めるのかを確かめたい気持ちがあったから一番乗りじゃない方が良かったんだ。


 

 実はそんなに早起きでも無かったんだ。

 夜明けの光が部屋の窓のカーテンの隙間から差し込んでいたのは5時過ぎ、夏の朝は特別なことが起きない限り6時前の起床だが、今日は5時半に起床したんだ。

 家を出たのが5時55分だった。



 ゴーッ! ゴゴーッ! てなノリで軽快なステップを踏んでやって来たわけです。


 

 10歳に成った日から15歳に成る日まで毎日受付はされているから、のんびりと気が向いてから受けに来る人もけっこう居るらしいんだ。

 だけど早く成っておくと良い事があるんだ。

 

 

 特典ってやつさ! 

 それも候補生に成るだけで良いんだから、やるっきゃない!


 

 第一に学校の給食費が全額免除されるんだ。

 その他にも訓練の課題を受ける日は、休学できるんだ。

 

 訓練の課題を受ける事をここではクエスト受注と呼ぶそうだ。

 クエスト受注中でも登校は可能だし、また、クエストばかり受けて休学の数が増えても落第しないんだ。

 

 むしろ、その逆さ! 

 飛び級が付与されるんだ。

 

 

 まあ当然の事ながら飛び級だけは、勇者候補生として好成績を達成できればのお話なんだけどね。


 

 かつて優秀な勇者候補生がいて、10歳のうちに中学を卒業になった人も居たんだってさ。

 まあ、そこまで行っちゃうと人間関係が変わってしまうかも知れないけどね。

 そう言うデリケートな部分のケアもあったりするのであんまり身構えなくて良いみたいだ。

 

 ケアについて例を挙げると、飛び級で学年が変わっても元居たクラスにも出入り自由だ。

 ウチの学校は小中高が同じ敷地内にあって校舎も様々な施設を通じてひと繋ぎになっているから、孤独や偏見に苛まれない様に学校側も色々と取り組んでやっている。

 

 

 まあ、勇者候補生の制度自体はクラブ活動の延長線上にあるものと考えて良い。

 兎に角、学校側でも推奨している授業なので希望者は気軽に行けば良いのだった。

 

 

 ◇

 


 ──勇者を分類すると、色んな肩書きがあるんです。

 戦士とか、武術家とか、この世界には魔法使いも居るよ。

 僧侶もいる。他にもあるみたいだけど、僕はまだ良く知らないんだ。


 勇者と言うのは、世界中にウヨウヨといて人に害を及ぼす魔物を討伐して人々をその苦しみから救って差し上げる勇敢な人たちの事をそう呼ぶんだ。



「──ふう。よし!」



 僕は一呼吸して気合を入れた。 


 家を出てから広場の受付会場に来るまでに気持ちを落ち着かせる為、頭の中で親に教わった様々な情報を整理してみたのだけど流石に試験を受けるんだもん緊張するよ。

 


 会場まで足を運んだ者は、希望者と見なされて順番に名前を呼ばれるまでベンチに腰掛けるなり、ブランコに乗るなり、滑り台を滑るなり、噴水前で涼を取るなり、自由に寛いでいて良いのだそうだ。

 

 

 僕は役員のおじさんに案内されるままに、ずっとベンチに座っていた。

 試験官の居るすぐ傍のベンチに居た。

 名前を呼ばれてもなかなか来ない人が多く居たみたいで、此処に居てくれと言われて。


 

『では次の希望者。ニルス・バオバーン! 試験補佐官デムの元へ行き、試験内容をしっかりと聞いて確認後、指定された部屋へ移動して下さい!』

『繰り返します……』


 

 おお! 僕の番が来た。



 やっと名前を呼ばれた。

 広場の放送案内で、その呼び出しの言葉が2度に渡り、繰り返し流された。

 6時45分頃だった。

 広場に着いてから30分以上は待っていた。

 

 

 会場には、試験官が5人と試験補佐官が2人いるそうだ。

 その他にも、広場内に集まった希望者の安全や指導を担当する役員が20人ほど配置されていた。



 

 ◇



 ──ここは、ウルタの町。人口約25000人の小規模の町だ。

 規模で言えば、人口5万人以上で中規模、10万人以上だと大規模な町となる。

 ウルタの町は、ラッキーボール小国と言う名の小さな国にある。

 ラッキーボール小国は、小規模の町3つで成り立っている小規模国家である。

 

 近年この国の領内に、魔物が爆発的に増殖しているとの報告が多数あり、国を挙げての勇者の育成が意欲的に行われていたのだ。



「ニルス・バオバーン、ここにいまーす! デム補佐官はどの方ですか?」


 僕は元気な声で挙手をしながら立ち上がり係員に問いかけた。

 

 


 ──広場は土地5500坪の広さを有しており、その中央付近に避難所兼集会所があった。

 2階建ての集会所は150坪もの大きくて頑丈そうな建物だった。

 集会所の周りには、人々が目的ごとに自由に使える公園、グラウンド、カフェなどの憩いの場があった。


 

 希望者たちが集まった場所は、集会所の一番近くに設置された公園だった。

 


 5人の試験官は、集会所の中の各部屋に待機している様だ。

 集会所の正面玄関の脇に設置された、仮設テント内に並べられたテーブルの向こうに神官の帽子を被って立っている人がデム補佐官だと役員に紹介されて、僕はそこへ向かった。


 

「やあ、ニルス君だね? 早速だが本日は希望者が多い為、手短に本題に入らせてもらうよ。本日は、ラッキーデイなんだよ。なんと本日限りのスペシャル特典が候補生に成ると決めてくれた者に付与されるのだよ……題してGO TO スキル・キャンペーンだ」



 デム補佐官と言う人が、僕を見るなり名前を呼んで本題に入っていく。

 体型はスマートな感じで歳は50歳くらいかな。

 鼻の下に少し髭を生やしているが、白髪は見受けられない若々しいおじさんだ。

 デム補佐官の話は淡々と続いていく。

 


「──その特典というのはね、希望者全員に特殊な能力スキルが与えられると言うものだ! ただ良く聞いておくれよ。能力スキルと言ってもね、まだ候補生にまでしか成れない君たちが受け取れるのは「外れスキル」なのだよ……」



 GO TO スキル・キャンペーン。



 それは、今日の僕の気分にピッタリフィットなイベント名だったので、何をやっても上手く行く気がした。



 ──外れスキルって何だろう……と言う顔できょとんとする僕の顔を窺うようにデム補佐官は、少し補足を入れて話を進めてくれた。



「……その顔じゃ、外れスキルの説明が必要のようだね。言葉通りハズレのスキルさ。つまり早い話が欠陥のある能力だ。だが、これまでもこう言う趣向で候補生に外れスキルを与えた前例はあるので心配せずとも良いぞ。この外れスキルを受け取った瞬間、君は候補生の承認を受けた事になる。つまりスキルを受け取るだけで合格と言う事だ」



 な、なんてオイシイお話だろうかと僕はニンマリしながら

 

 

「ニルス・バオバーン! 外れスキルを有難く頂戴しまーす!」

 

 と喜んで一礼をし、快諾した。


 快諾しなければ、ただの馬鹿だ。

 候補生になりに来たのは、強く成りたいからだ。

 棚から牡丹餅とはこの事だろうか。

 勇者が持つべきスキルをこんな駄目僕が賜れるなんて、目から鱗が落ちる思いだ。

 


「お! やる気になったようだね。そう来なくちゃな。それでは集会所の本館1階にある部屋に足を運びたまえ。部屋の扉に番号が貼りだされておるので番号5の部屋へ行けば、中にスキル神官のポンポ先生がおられるから、後は黙って指示に従うだけで良いぞ!」



 わーお! ホントにラッキーデイだなこれ! フフフ。

 ……外れスキルがどんなものか実は知って居たりするんです。

 在っても要らなければ使わなければ良いだけなんだ、フフフ。


 貰える物は貰っておく。


 それに稀だけど全然外れじゃなくて超使えるとんでも能力もあるってことくらい候補生になる準備を進めてきた僕は調査済みなのさ、フフフ。



 もう足が自然にスキップしてしまうくらいにウキウキしちゃう! 

 デム補佐官におじぎをすると鉄砲魚のように集会所へ向かおうとする僕に



「これこれ、浮足立ってノックをするのを忘れてはいかんぞい! 礼を尽くすのだぞい」



 デム補佐官は色々と言葉を投げ掛けてくれたけど、僕は逸る気持ちを抑える事が出来なくて……、

 そのまま振り向くこともなく「はーい!」と返事を返して後ろ手で右手を適当に振って5番の部屋へ急行した。



読んで下さってありがとう。

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