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第十九話 急がば回れ

023

 

 晴れて念願の勇者候補生に成ることが認められたニルス。


 これからの暮しに於いて、勇者の仕事を受けながら冒険者としても気ままに探検をする。将来はウルタの町を出て、新たな出会いかお宝を求めてスローライフをする。


 世界を気ままに遊学する夢を持つニルス。


 情報収集が大事だと今回の件で実感したらしく、一度は別れた足取りを戻し、バキとルクに確認したい事を思いだし、訓練所へとんぼ返り。



 ☆


「ルク先輩! さっき言っていたスライムの眠りの確認法って何ですか?」


「お、ニルス。それを聞くためにUターンしてきたのか?」


「はい。もしスライムの弱点なら聞いておかなきゃと」


「聞いて置いて損はない事だ。注意深くなったのは感心だな。では、ひとつ聞かせてやろう──」


 訓練所の入り口をルク達が出てくる所だった。

 すでにニルスの姿は先程、友達との待ち合わせの為に猛ダッシュで駆け出すのをその目で見送ったばかりだったのに。


 そう思っていたバキとルクの前に、再び血相を変えて現れたニルスが居た。再会と言うには及ばない程、短時間でニルスの質問の声が飛んできた。

 ルクは、バトルの経験で慎重さを覚えたニルスにさらに関心を示した様で、質問の答えを聞かせてやるとその場で言い返した。


 ルクは何だか上機嫌だった。訓練所の入り口付近にある仮設テントの席に着き、ニルスにも椅子に掛ける様に促し、日陰に入った。

 大人が腰掛けて丁度の椅子に行儀よく姿勢を正してちょこんと座るも、両足が地面にしっかり届かずぶらりとする格好が何とも可愛らしい年頃だ。



「……そうだな。様々な町と交流を持つ商人などは、スライムに出会った時の対処法を心得ているものだ。少し遠回りな意見を交えるなら、候補生クエストを初日に慌てて達成する必要も無かったのだ──」


 絶対系のスキルを使える様になった。それでも気になる事には確認を入れたい。

 前向きになったニルスに、もう少し嚙み砕いた言葉で話をし始める、ルク。



「任務受注後、一旦町へ戻って慎重に情報収集をしてからでも遅くは無かったのに、今年はスキル付与のせいか速攻でやって来る者が多かった印象を受けた」



 ルクが感想を述べると、ニルスには、それが予想外の事だったのか疑問符を付けて訪ね返す。



「それじゃ、町に勝機の情報があったと言うんですね? だとしたら何だかみんなとの競争に焦らされていたようです」


「そうだ、戦闘前は情報収集が大事な事だ。腕に自信があるのなら別だが。スキル能力に溺れること無く落ち着いて入手した情報を活用して、自力で装備品を決めることが従来の候補生試験だったのだ」



 ルクは涼やかな目をして、腕組をしながら語る。

 従来の候補生たちは、スキルも無しに挑んでいたのだ。それが一番大事な選択肢であり、勇者の初動捜査と言う訳だ。

 

 勇者のスキル付与は大盛況だった半面、人間の煩悩的な側面が浮き彫りになる。


 初回クエストは簡潔で期間もたっぷり用意されている。

 だが、そういった人間の判断力や準備行動の見極めを試すのが狙いでもあった。


「いざ、戦闘になって敗退しても七日あるし、休息も戦術である事を覚えてもらおうと。そんな部分も評価になり、分析能力が認められて推薦で受かる生徒もいた。その例は決して少なくはない──」



 メモを取る様な思いで話に耳を傾けるニルスの表情は、まるで受験を控えた学習塾の生徒さながらだった。



「──問いの回答だが、スライムには大きな炎に臆する性分が報告されていて、訓練に用いるスライムなんかは前以(まえもっ)て充分に上級魔法使いの手で、炎への恐怖心を植え込んであったりする。要するに松明を準備して来れば退けられた可能性はある」



「……」



 ルクは自分の放った回答に、ニルスが言葉を失うかも知れないと分かっていた様にその顔を覗き込んで、素早く次の言葉に移った。


「ぼくちゃんの苦労は何だったのかと言う顔だな。支給されていない装備品でも持ち込んでOKだったのだ。そもそもスキルの爆発的な破壊力からすれば、そんな道具の力は微々たるものだしな」


 ちっぽけな道具でも退ければ勝ち。派手にやらかす必要はない。


 スキル無しでこれを受けていた人達は本来、十六歳以上だった事は周知の事実。

 今回の(ケース)の様に皆が勇者気分の雰囲気に押されて、速攻で行ってしまう事も想定済みだからこそ、SP(サポート)が付いていたのかと。


 ルク達の掛けてくれる言葉には、つくづく考えさせられる事が多い。出会った時から優しくもあり、厳しくもありで、今に至っては頼もしくもありに変わっていた自分の気持ちの変化に気付き始めた。


 沈黙しながらニルスは思った。あれこれ思慮を巡らせる自身の癖をそう捨てた物では無いと、それも含めて前向きに捉え出す良いきっかけに成って行けば、と。


 


「人の言葉に惑わされずに自分の判断で着実に成功を収めて行ければ、一人になった時にそれが何より自信になるはずだ。俺達もまた試験官でもあるのだ、許せ」


 ルクは変わらず涼しい目でニルスに微笑みかけた。

 そのルクの言葉にハッとする。ニルスは思わず席を立って


「は、はい。ありがとうございました!」


 深々と頭を下げて礼を言った。





 学校で受ける試験だって色々試されるものだ。

 勇者の試練は魔物との戦いだ、自分の判断ミスで命を落とす事もある。

 仲間が危険にさらされる事もあるだろう。

 すべて自分自身で決まるのだと改めて諭された。


 今は訓練生だから少しの甘い採点も許される。


 言葉づかいなど関係なかった。

 この人たちも補佐官同様、生徒の事を大切に考えてくれていた。

 それを改めて知ったニルスは、自然と頭を下げていた。



 それと同時に思っていた。ここにも居たんだ……。



「急がば回れだ、焦らず冒険者人生を楽しめ」


 ルクもそう言って、ニルスの肩にポンと手を当てながら立ちあがった。

 ニルスがこくんと頷くと、ルクはニルスをそっと自分の腕の中に抱き寄せた。

 頑張ったな、と言わんばかりに。


 指先でそっとニルスの髪をかき分けて頭を撫でた。

 照れながらも心地よさそうにルクの顔を見上げ、屈託のない笑顔をこぼす。



 ここにも居たんだ……友だちみたいな匂いのする優しい先輩が。

 候補生になる道を選んで良かったと小さな胸がいっぱいになっていた。

 

 ☆



「ところで、その装備が気に入ったのか? 候補生に成れたんだ。無料支給されているから、持って行っても構わないよ」


 二人のやり取りを傍で見ていたバキが口を開いた。


「も、貰えるんですか? やったー!」



 ニルスは飛び跳ねる気分で喜んだ。


 バキとルクは報告があるようで、集会所の詰所へと足を運んで行く。


 ニルスも仲間の待つ練習場のカフェへと駆けて行った。


 ☆




いつも目を通して頂いてありがとうございます。

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