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最終話 花

 俺達はフード深く被り、目的の場所まで来ていた。

 散々暴れてしまったから、顔を覚えられているかもしれない。

 そのため、顔を出来るだけ見せないようにしているのだ。


 「久しぶりに来たな」


 フードの隙間から見えた景色は、懐かしいものだった。

 石を固めて造った道は、大勢の人で覆い尽くされ賑わっている。


 買い物をしたのか、木の素材で作られた籠に果物を入れるものもいれば、仕事を終わらせたのか、喉の渇きを潤すように水を勢いよく飲むものがいた。


 ここに戻って来たのは、約6カ月ぶりだろうか。

 色々なところを見て回りたいな。


 「ここがリウスの住んでいた場所か。なかなか良いところではないか」


 ベルゼルフは顔に笑みを浮かべながら、周りを見渡している。

 洞窟に住んでいた分、この場所が良く見えるんだろうな。

 俺もこの国に住んでいたときは、特になんとも思わなかったが、ファイアーウルフの村もこの国に以上に発展しているが、店などの数を考えると断然こっちの方が多い。

 そのためか、なぜか気持ちがワクワクしてしまう。


 だが、俺達にはやらなくてはいけないことがある。

 

 「スーザックの所に行くか」





 しばらく歩くと、嫌な記憶が蘇る建物が目に入った。

 俺が所属していたギルドハウスだ。

 ここまでくれば人通りも減り、店の数も減ってきた。

 俺がいたギルドの入り口は、大通りに設置しているわけではないため、人が邪魔で出られないということはなかった。

 何か買いに行く時には少し距離が出るもの、周囲の音などを考えればこの場所は結構いい所のはずだ。 


 男の1人がノックした後、扉を開ける。

 開けられた扉から見えた光景は、数ヶ月前とは何も変わらなかった。


 「あぁ? 何でお前達帰ってきてんだ? リウスを見つけたのかぁ?」


 机に足を乗せ、前までと全く変わらない傲慢の態度でいるスーザックがいた。

 だが、スウサの姿が見えない。

 出かけているのだろうか。


 男達は順番に入って行き、その次に俺、ベルゼルフ、ゼーラ、ミルマの順番で入っていった。

 ヴァミアは今すぐに買いたい物があるらしく、国に戻ってきた途端どこかへ行ってしまった。


 中に入って仕舞えばフードを被る必要はないため、すぐに取った。

 

 俺の姿を見たスーザックは、喜びの笑顔でも、感動の笑顔でもなく、下衆な笑顔を浮かべた。

 金が増える道具が来た、とでも思っているんのだろうか。


 「久しぶりですね。スーザックさん」


 どうしてコイツをさん付けしなくてはいけないんだ。

 自分でそう呼んでおきながらだが、謎だ。


 「おぉ! リウスではないか! まさか本当に連れて来るとはな! お前達よくやったぞ!」


 部屋の隅の方で立つ男達をスーザックは褒め称え、5人はヘコヘコと頭を下げた。

 5人は笑顔を浮かべているが、どこかぎこちない。

 余程スーザックに酷い扱いをされているのだろうか。

 可哀想に。


 「手紙読みましたよ。強くなったようだな、と書いてありましたが、どこかで俺を見たんですか?」

 「その通りだ。きっと覚えているだろうが、洞窟でファイアーウルフ達を監禁している時に、お前いただろう? 良い暴れっぷりだったぞ」


 俺、別に暴れてないんだけどなぁ……。

 襲おうとしてきた奴を軽く対処しただけだし。

 暴れてたの、覇獣士とグーレだけのような気がするけど、まぁいいか。

 

 俺は気になっていた事を質問しようとしたら、ミルマが先に質問した。


 「それを知っていると言うことは、あなたはその場にいたってことですか?」

 「そうだが」

 「俺のなか――」

  

 それ以上は言わせまいと、俺はミルマの肩に手を置いて落ち着かせた。

 ミルマがファイアーウルフだとは、気付いていないはずだ。

 もしバレたら大変な事になりそうだから、慎重に行動しなくてはいけない。


 「スーザックさんのこと見かけませんでしたが?」


 俺がずっと気になっていた事を質問する。


 「それはそうだろう。隠れていたからな」

 「隠れてた?」

 「ああ。この国の兵士の悲鳴が聞こえてな、どう考えても俺たちが敵う相手ではなかったからな、すぐに岩に隠れたのだ。そして、岩の影からこっそり覗いて、敵の姿を見ようとしたら、お前がいたのだ」


 俺は今の発言を聞いて、スーザックに直接頭がおかしいのか、と言ってやりたくなった。

 俺はこいつの仲間達を襲ったのだ。

 つまり、俺はスーザックの敵だ。

 それをスーザックは理解しているはず。

 それなのにも関わらず、俺に戻ってきて欲しいとか何を考えているのかさっぱりわからない。

 もしかしたら本当に、金のことしか考えていないのかもしれない。


 「それにも関わらず、俺に戻ってきてほしいと」

 「そうだ。お前がそれだけ強くなっていれば、十分に使える。正直言って、兵士達がやられていようが、どうでもいい。ただ、俺が生きて帰れればよかったしな。だから、またお前が仲間になっても何の問題もない」


 考えることがクズですね、とミルマは俺の耳元で囁いてきた。

 よかった。

 そう思っていたのは、俺だけじゃなかったらしい。


 「さぁ、リウスよ。説明も終わったことだし、もう一度このギルドに入るために手続きをしてくれ」


 スーザックは机から足をやっと下ろし、引き出しからペンと紙を出すと机の上に置いた。

 

 「ここに名前を書けば完了だ」


 なぜか俺が入る方向で進んでいるが、これっぽっちも戻るつもりはない。

 

 相変わらず、スーザックの身勝手さに呆れてしまう。

 俺は軽くため息をつき、紙を破いてしまおうと思った時、扉が開き数人の男達が入ってきた。


 「ただいま戻りまし……た……。何でお前がここにいんだよ……!」


 武装した巨体の男達の先頭に立つのは、俺が幼い頃勝手に親友と思っていたスウサだ。

 少し顔に傷ができているものの、そう大して大きい傷でないため、気付かない人も多いだろう。 

 それ以外は、特に変わった様子はない。

 だが、俺を見る目つきはあの日から変わっていない。


 「久しぶりだな。スウサ」

 「僕の名前を気安く呼ぶなよ」


 ちょっと性格がキツくなったか?

 そんな性格でいるから、皆から怖がられるんだろ。


 「スーザックさんから手紙をもらったからな。それがここに俺はいる理由だ」


 俺だって何の用事もなかったら、こんな場所になんてこねぇよ。

 嫌なこと思い出すだけだし。


 スウサはやはり俺のことが気に入らないのか、怒りを露わにしながら、大股でスーザックに近寄っていった。


 「ギルド長! 本当にこいつをここに戻すんですか!」

 「勿論だ。使える道具は使う。それが俺の方針だ」

 「俺、一言も入るって――」

 「絶対に僕は嫌ですよ!」


 俺の声は、スウサの怒声にすぐさまかき消されてしまった。

 俺は頭をかいて下を向く。


 よりによって、このタイミングで戻ってきたのが最悪だな。

 スウサにも会おうとは思っていたが、どうせなら2人だけで会いたかった。


 「おい、リウス」


 スウサは俺の方に体の向きを変えて、鋭い目で睨み続ける。


 「僕はお前が気に食わない。ギルド長から強い強いって言われるのがなぁ!」

 

 そんなこと言われても、俺は知ったことか。

 前は弱かったから俺を騙し、今は強いから怒る。

 どっちにしろ面倒くさいやつだ。


 「僕と戦えよ。リウス。僕の方がお前強いって証明してやるよ」

 「別に良いけど、どこでやるんだ?」

 「そんなの、ここに決まってるだろぉ!」


 俺の不意をつこうとしたのか、腰に差してある剣に手をかけて引き抜き、俺の首めがけて横に降ってきた。

 

 前よりは格段に精度も威力も上がっている。

 だけど、()()

 遅すぎる。

 そんな攻撃が俺に当たると思うなよ。


 首を目掛けて走ってくる剣を、俺は素手で受け止めてそのまま剣を粉砕する。


 スウサは勝てると確信していたのか、顔に笑みを浮かべているが、すぐに目を見開いて口を開けた。

 今目の前で起こった出来事が信じられない様子だ。

 スウサと共に入ってきた男達も、さっきまで笑っていたが、今は呆然と立ち尽くしている。


 「えぁ? 僕の……剣が……」

 「お前の攻撃、遅いな」

 「お……! お前ぇ! 僕を侮辱しやがったなぁ!」

 

 額に血管を浮かべると、握っていた剣を投げ捨てて俺に蹴りを入れてきた。

 だが、その蹴りも俺は片手で受け止めて、壁に投げつけた。

 手加減をせずに投げたせいで、壁の一部に穴が空いてしまった。


 「リウスのくせに俺を投げてんじゃねぇよ!」

 

 壁に強打した事も構いなしにすぐに体勢を立て直し、俺の顔に向けて拳を向けてきた。


 「あぁ……! 俺のギルドハウスが……!」


 スーザックは、部屋の端の方で身を守りながら何か嘆いているが、どうせならこのまま破壊し続けてやろうか。


 「その攻撃も遅いよ」


 俺の顔目掛けて振われる拳を、姿勢を低くしてかわし、下からスウサのみぞおちに向けて拳を放った。


 「ぐはぁ……!」


 今の攻撃は効いたのか、腹を押さえて地面に蹲った。

 それでもスウサは、下から睨みつけてくる。


 「何で僕がお前に負ける……! お前みたいな奴に……!」

 「そうだな。お前が俺を騙してくれていなかったら、強くなれなかったかな」

 「はぁ? 何を言って……」

 「それと」


 俺はしゃがみ込んで、出来るだけスウサの耳元に顔を近づける。

 そして笑顔を向けて、囁く。

 屈辱を味合わせるために。


 「お前が、弱いからだ」

 「俺が……弱い……?」

 「ああ、そうだ。何勝手に強くなった気でいるんだよ。お前なんて他の奴に比べたら雑魚だ。一回くらい弱い立場の奴の事を考えるんだな」

 

 俺は笑顔を浮かべたまま立ち上がり、服についた埃を手で払った。

 随分と荒らしたな。

 修理費は結構かかるだろうが、払わされる前に早く立ち去ろう。


 「スーザックさん。俺はこのギルドに入るつもりはない。今の俺には帰る場所がある。仲間もいる。だから、俺は戻らない」


 スーザックに向けて、俺はそう言い放ったが、俺を引き止める気はないようだ。

 というか、今の戦いを見てすっかり怯えてしまったらしい。


 「もう少しギルドメンバーのことを考えた方がいいですよ。でないと、いずれ死にますよ?」

 「死……? わ、わかった……。これから、気をつける……」

 「お願いします」


 では失礼します、と頭を下げてここを出ようとした時に、スウサに声をかけられた。


 「待てよ……」

 「なんだ?」

 

 下を向いたまま立ち上がり、よろよろと俺に近づいてくる。

 まるで、生きる屍のようだ。


 「お前……僕のこと弱いって言ったな」


 下を向いていた顔を上げて、俺と目が合う。

 その目は、赤く充血していて殺人鬼のような目だった。


 「その言葉、取り消せよ……」

 「……」

 「取り消せって言ってんだよ!」


 蹴りを入れたり、拳を放ってきたりするわけではなく、ただ全力で俺に走ってきた。

 俺は蹴りで気絶させようと構えるが、ゼーラが突然前に出てきた。


 「ここは私に任せてもらえませんか?」


 任せるって何を、と聞きたかったが時間がない。

 俺は少し後ろに下がり、その代わりにゼーラが前に出た。

 何をするのだろう、そう一瞬思った俺が馬鹿だった。

 ゼーラは狂気に満ちた笑顔をかえに浮かべながら、足を持ち上げスウサの顔面に本気の蹴りをお見舞いしたのだ。

 ゼーラの本気の蹴りが、一体どれだけの威力があるか想像もできない。

 恐らく、大木を破壊することは可能なのではないか。

 

 「これでスッキリしました。リウス様に散々言ったこの人間に腹が立っていたので」


 流石に少し心配になり、スウサの様子を確認しようと近づこうとするがゼーラに止められた。


 「安心してください。死にはしていません」

 「なら、良いと思いますよ」

 

 ミルマも冷たい目線をスウサに送りながら、そう言った。

 

 今のゼーラの蹴りで、スーザックだけでなく他の者もかなり怯えてしまった。

 俺達がここで何かやっていると、もしかしたら逆効果か?

 だとしたら、早く出ていった方がいいな。


 「スーザックさん」

 「な、なんだ?」

 「スウサをよろしくお願いします」

 「あ、あぁ……」

 

 そして俺達は、荒れ果てたギルドハウスを後にした。






 外の空気を肺の中に入れる。

 ゼーラを見ると、ミルマとスウサ達のことについて愚痴っている。


 「あんなに暴れて良かったのか?」

 

 ベルゼルフは顔に笑みを浮かべながら聞いてくる。


 「良いもの見れただろ?」


 俺はその質問には答えず、質問で返した。


 「まあな。カロスにも見せてやりたかったぞ」


 フッと笑って下を向く。

 ベルゼルフは今何を思ったのだろうか。

 

 「俺も同じことを考えていた。俺が住んでいたこの国を見てほしかったな」


 フェイ、カロス、元気にしてるか。


 俺は空を見上げる。

 空はいつでも広く、大きい。

 晴れている日もあるが、川を氾濫させるほどの雨を降らせることもある。

 でも、最終的に空は青く晴れる。


 「この裏に綺麗な花壇があるんだ。見ないか?」

 「是非見たいものだな」


 少し暗くなった雰囲気を変えようと、ベルゼルフを誘って裏に回った。

 ゼーラ達は話してるから、ほっとけばいいか。


 建物で影になっている道を通り、角を曲がると明るい明かりがさしていた。


 「あれ……?」


 数ヶ月前とは変わらない花壇がそこにあったが、今は花はなく野菜が植えてあった。

 野菜では晴れる気分も晴れない。


 「野菜になってるな」

 「野菜でもいいぞ。美味しいしな」


 そうは言っているが、寂しい目をしている。

 

 「ん?」

 「どうした?」

 「あれ見てみろ」


 ベルゼルフが急に首を傾げ、花壇の少し離れたら場所を指さした。

 そこを見てみると、ベルゼルフが指を指さなければ絶対に気付かなかった赤い花が咲いていた。


 俺たちは近づいて見てみると、赤い花の隣には銀色の花が咲いていた。

 どうして野菜が植えてあるところに、花が咲いてるんだ?

 風で種が飛ばされたのか?

 俺の頭には色々疑問が渦巻くが、ベルゼルフはそんなことは気にせずに銀色の花を撫でた。


 「野菜の葉の緑に紛れている分、綺麗に見えるな」


 ベルゼルフはしゃがんでジッと見る。

 俺もしゃがんで見てみると、ただの花には見えなくなってきた。


 ただの赤でも、赤ではない。

 ただの銀でも、銀ではない。


 赤い花は炎のように光り、銀の花は雪のように輝いている。

 その花達は、お互い反発するように、でもまるで寄り添っているかのように、風に揺られていた。


 俺はそれを見てフッと笑みが溢れた。


 「どうしたのだ?」


 ベルゼルフは不思議そうに、俺の顔を覗いてくる。

 

 「楽しそうだなと思って」

 「楽しそう?」


 俺は立ち上がって、青い空を見上げる。

 

 「2人とも、元気そうで良かった」


 赤い花と銀の花は、もう一度風に吹かれ、楽しそうに揺られていた。




          完

 

 

 

 


 






 



 


 

 

 

 


 


 

 


 


 


 



 

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

無事完結させられたのは、皆様に読んでいただけたおかげでもあります。

次回お作品も皆様に楽しんで頂けるように、書いていきたいと思います。

ここまで読んでいただけた方、本当にありがとうございました。


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