89話 村
敵味方関係なく、多くの犠牲者を出したあの戦いから数ヶ月たち、俺はファイアーウルフの村に住み、村の発展に力を入れていた。
この村を守るために、さらに見張りは強化され、ファイアーウルフ達の戦闘訓練も行われるようになった。
まあ、戦闘訓練の相手は俺なんだけどな。
「あと一歩踏み込んでから攻撃しろ」
「ぐはぁっ」
頭を狙った攻撃を右に動いて避け、攻撃主に接近して腹に蹴りを入れた。
その間俺の背中は当然あいてしまう。
それを見ていた別のファイアーウルフが、炎を操って攻撃を仕掛けてくるが、全て触手で捕まえて消滅させる。
「それズルくないすかぁ!」
「確かにな。だが、敵はそんなこと言っても手は抜いてくれない。もっと、仲間と連携を取ることだな」
そのまま触手を伸ばし続け、文句を言った奴の腕に絡みつけさせて地面に叩きつけた。
「俺の勝ちだ。しっかり反省をすることだな」
俺の周りで倒れている奴にそう言い放ち、俺はその場を後にした。
結局あの戦いは、ヴァミアが撤退を指示したため、あの大勢の兵士達はすぐさま撤退していった。
すぐにでも、あの場から逃げたかったのだろう。
ていうか、今思えば俺がいたギルドの奴らに会わなかったな。
不思議だな。
そんな事はどうでもいいが。
そういえば、五大魔獣の氷結の白狼と時操の金鳥に敗北、と言う形になっているらしい。
この情報は、ヴァミアから伝えられた情報のため、間違いはないだろう。
スハンが死んだせいで、結構大混乱が起きているようだ。
それで、その情報を伝えたヴァミアだが、あの戦いの後ギルドを抜けて、この村に戻ってミルマと共に住んでいる。
現在この村は、獣人の国から支援を受けており、良好な関係だ。
そのため、よくグーレやミミィが遊びにくるのだが、その度にグーレにファイアーウルフ達が怯えているのでどうにかしてほしいとは思っている。
それとは反対に、ミミィは可愛がられている。
俺も可愛がっている。
ちなみに、ファイアーウルフ達を救出した後、獣人の国に戻っていったエンファだが、戦いの後仲間達と旅に出ると言い、魔獣の乗ってどこかへ行ってしまった。
時々帰って来るらしい。
俺は歩くのをやめて、所々置いてある椅子に腰を下ろした。
周りには、まだ小さな子供のファイアーウルフ達が走り回り、追いかけっこをしている。
買い物をしてきたのか、手には食材を持って家に帰っている者もいる。
「不思議だな……」
もし、カロスが1人で大勢の兵士たちを相手にしていなかったら、今俺の視界にいる者が殺されていたかもしれない。
向こうに走っていった子供達も、今はいなかったかもしれない。
そう考えるだけで、なんだか不思議な気分になり、カロスの行ったことの凄さが理解できる。
ゼーラが集めたカロスの魂は、この村の村長の家で保管されている。
そのせいか、初めてきたこの村に来た時よりも、村長の家の周りに多くの人が集まっている。
それが村長の負担になっていると思い、俺は一度保管場所を変えることを提案したのだが、
「とんでもない! この村の者を救ってくださったカロス様の魂と共に住めるなど、光栄のほかありません!」
と言われたので、場所はずっと変わっていない。
「美味しかったよ。また来る」
「ありがとうございました〜」
すぐ近くにある店からそんなやりとりが聞こえ、その方向に視線を向けるとベルゼルフが店から出てきていた。
「リウスじゃないか。訓練は終わったのか?」
「ああ。すぐに終わったよ」
「流石だな。多少はましになったのか?」
ベルゼルフは俺の隣に座って、足を組んだ。
「多少はましっていうか、結構強くなっているよ。前に比べたら本当に成長している」
最初は酷い、という言葉しか思い浮かばなかった。
全く連携は取れていないし、稀に連携が取れていても、個々が弱すぎるため全く意味がない。
そんな感じだった。
だが、今は全く違う。
今でも俺にはすぐに倒されるが、攻撃の一撃の重さや連携が凄く成長している。
今の状態は、フェイの戦闘能力と同等、もしくはそれ以上と思っていいだろう。
フェイがいたらなんて言っていなんだろうな。
素直に褒めていたか、まだまだですわ、とか言うのかどっちなのか気になるな。
「お前が褒めるとは、よっぽど良くなったのだな」
「俺は褒めるのがそんなに珍しいか?」
「珍しいに決まっているだろ。褒める内容は、今初めてお前の口から聞いたぞ」
「そうだったのか」
全く意識していなかったが、どうやら俺は褒めていなかったらしい。
「その言葉をファイアーウルフ達に聞かせてやるんだな。褒める事も大切だぞ」
じゃあな、と続けて椅子から立ち上がると、俺に背を向けたまま手を振って歩いていった。
「どこに行くんだ?」
「帰って寝る」
俺は大きな声でそう質問したが、大した返事ではなくて真顔になる。
あいつは本当に五大魔獣なんだろうか。
寝てばっかに思える。
ベルゼルフは、昔から洞窟に住んでいたらしく、寝心地が恐ろしいほど悪かったようだ。
この村に来て俺と見て回っていたら、急にここに住みたい、とか言い出し新しい家を建てて、現在この村に住んでいる。
「俺も戻るか」
両手を椅子について、力を入れて立ち上がって服の皺を伸ばす。
今日はちょうどいい気温だ。
俺の目の前に広がる、この平和な場所。
この平和が乱される事なく、ずっと続いて――
「リウス様」
「なんだ」
俺の真横に突如現れたゼーラは、顔に笑みを浮かべながら立っていた。
「もう驚かないのですね」
「何回もやられれば流石に耐性がついた。それで、何の用だ?」
「はい。それが、見張りをしていたものが侵入者を捕らえたそうで、リウス様に用があると言い続けているようです」
「俺に?」
「はい」
一体そいつは、俺に何の用事があるんだ。
頼むから問題を持ってこないでくれよ。
しかし、そう思っても行くしかない。
「仕方ない。すぐに向かう。場所はどこだ」
「この村の入り口です」
「わかった。ゼーラはそいつが逃げないように、俺が向かうまで見張っておいてくれ」
「承知いたしました」
ゼーラは笑みを浮かべたまま、綺麗にお辞儀すると音を立てずにその場から消えていった。
俺の頭の中で嫌な想像が色々膨らみながら、目的の場所まで進んでいった。




