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88話 魂

 「ありがとう……ベルゼルフ。俺、自分の事しか考えてなかった」

 「そうだな。でももう、大丈夫だろ?」

 「あぁ。大丈夫だ」

 「よし」


 ベルゼルフはそう言うと、俺の背中に回していた腕を離して、地面に寝ていたカロスを抱き抱えながら立ち上がった。

 俺を見て軽く笑顔を浮かべると、手を差し伸べてきた。

 その手を取って、俺は立ち上がる。


 「すまない。心配をかけさせてしまった」

 「本当に大丈夫ですか?」

 「大丈夫だ。心配するな」

 

 ミルマは俺に近づいてきて、俺に声をかけてきた。

 こいつは優しいなぁ、カロスが死んでつらいだろうに。

 ミルマはカロスに特訓させられたから、短い間しか関われなかったけど、それ以上の関係を築けただろうからな。


 「あ、紹介します。こいつが俺の妹のヴァミアです」

 「私の兄が世話になったようだな」

 「まさか、お前がミルマの妹だったとはな。あれだけ有名で良くバレなかったな」


 ギルド序列1位のリーダーは当然ながら、それに似合う活躍をしている。

 その分人前に出て、讃えられるわけだから国民全員知っていて当然のレベルだ。

 それなのに、ずっと人型でいてファイアーウルフだとバレなかったのは、なかなかすごい事だと俺は思う。

 

 「何だ。私のことを知っているのか?」

 「俺はお前たちの国に住んでいたんだ」

 「何? それなのにこの国に敵対したのか?」

 「まぁ……そうだけど……」


 ならば許さん、とか言われて剣を抜かれると思いちょっと身構えたが、特に何もされなかった。


 「斬られるかと思った」

 「失礼な奴だな。兄が世話になった奴を斬るなどするはずがないだろ」


 そう言いながら、ヴァミアはため息をついた。


 それにしても、ミルマが妹と再会することができて良かった。

 もしヴァミアがミルマの妹じゃなかったら、敵対していた可能性があった。

 そう思うと結構やばいな。

 魔王を相手にするようなものだからな。


 「リウス様、少しよろしいでしょうか」

 

 ゼーラが背後から俺に近寄り、声をかけてきた。

 俺が振り向くと、両手に大事そうにのせる青く光る球体が乗っていた。

 

 「いいけど……それなんだ?」


 結構強い光で辺りを照らしている。

 それだけ光を放てば当然ながら皆気付き、俺たちの方に目線を向けてきた。


 「これは、カロス様の魂です」

 

 ゼーラのその言葉を聞いた瞬間、俺の心臓の音は一気に加速していった。


 「カロスの……魂……」

 「はい。カロス様に頼まれたのです。我は今から死ぬ。だから、我の魂が削られていくたびに、そのカケラを集めて欲しい。悪魔だから出来るだろう? そう頼まれました」


 これはカロスの魂。

 そう聞いたら、青く光る球体と思っていたものが、一気に別の物に見えた。


 そして、大きな期待が膨らむ。


 「それがカロスの魂ってことは! 蘇らせることも――」


 だが、そんな期待もすぐに消し去られた。


 「いいえ。この場に魂が残っていようとも、死んだものを生き返らせる事はできません。悪魔である私も、時間を操ることの出来る時操の金鳥も」

 「そう……か……」


 それはそうだよな……。

 もし救えるなら、フェイだって救えていた。

 死んだ者が生き返れるなら、一体どれだけの人が悲しまなくて済むだろうか。

 死人が生き返るなんて、そんな都合のいい話が……あるわけがない。


 「死んだものは助ける事はできない。ですが、瀕死になった者を助ける事は可能です」

 「え……?」

 「誰にも直すことが出来ないほどの、あまりに酷い傷を負ったり、不治の病にかかってしまったとしても、このカロス様の魂があれば救うことが出来ます」

 「そうなのか……?」

 「はい。通常の生物の魂は弱すぎて集めることが出来ません。

 ですが、カロス様の魂は強く、これだけのエネルギーが集まっていれば、誰でも救うことだ出来ます。

 我の大切な存在が、これ以上悲しまなくても良いように、こんな我の魂を使ってくれ。そう仰っておりました」

 「凄いな……カロスは……」


 他の命のために、自分の命を犠牲にして守る。

 それなのに、犠牲になった後でも、さらに誰かを救おうとする。

 

 「敵わないな。あいつには」


 ベルゼルフのその言葉に、皆頷いた。

 俺はベルゼルフに近寄って、胸に抱かれているカロスの頭を撫でた。


 カロスにはさよならは言わない。

 俺がカロスに送る言葉は、

 

 「またな」


 いつかまた会う、その時まで。

 


 

 

 

 

 

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