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87話 皆の中に

 「お前が、新しい魔獣の王か?」

 

 俺に頭上から声がかけられ、絞り出すような声で俺は答える。


 「カロス曰く……そうらしい……」

 「そうか……」

 

 相手と話す時は、普通目を見て喋るにが礼儀だ。

 だが、今は目を合わせれない。

 顔が上がらない。

 冷たくなっていく、カロスから目を離す事が出来ない。


 「私は五大魔獣の一角、時操の金鳥のベルゼルフという」

 「……」

 「一つ質問したい。お前はこれからどうするのだ?」


 これからどうする?

 確かに俺はこれからどうするんだろうか。

 何も考えていなかった。

 こんな結末になるなんて、考えもしなかった。 


 「どうしようか……」


 フェイもカロスもいなくなって……俺って、どこにいけばいいんだろうか。

 また、居場所がなくなってしまった。

 俺は結局1人になってしまう。

 

 そんな世界はいやだ。

 行きたくない。


 もう、死んでもいいや。


 「お前、死んでもいいとか考えとるやろ」

 「……」


 ベルゼルフはしゃがみ込んで、俺の顔を覗き込んでくる。

 

 「だったらなんだ」

 「そんな考えは許さない」

 

 俺がどう思おうと勝手じゃないか。

 俺とお前は、たった今出会ったばっかだ。

 そんなやつが、俺に口出しするなよ。


 俺は覗き込んでくる顔を見て、睨みつける。


 「どうしてお前が、俺に口出しするんだ」

 

 はぁ、とため息をつきながら、ベルゼルフは立ち上がった。


 「あいつとは昔から関わりがあってな、五大魔獣の中ではそこそこ仲がいい方だ。だからな、あいつが慕っていたやつを放っておく事はできない」

 「でも俺はそんな事関係ない。お前の都合で口出しを――」


 そこまで言いかけた時、華奢な腕が突然視界に現れて胸ぐらを掴まれた。

 本当にこの腕の力なのか、疑ってしまう程強い力だ。

 

 「ああ、そうだ! 私とカロスの仲が良くて、それであいつが慕っていた奴を放って置けないなんて、お前には関係ない! でもな!」


 金の瞳に涙が浮かんだ。


 「あいつは、カロスは! ここに居る者の命を、守りたい命を守り切るために自分の命を犠牲にしたんだ! それなのにお前は! カロスに守られた命をどうでもいいって投げ捨てるのか! ゴミみたいに扱うのか!」

 「それは……」


 俺はそれ以上何も言えなかった。

 そんな風に考えていたわけでもなかったが、なぜか反論できなかった。


 ベルゼルフの声が頭の中で響き渡る。

 

 俺は納得してしまったのだ。

 もし、あそこでカロスが自分の命を犠牲にして戦わなければ、恐らく負けていたのだろう。

 カロスもベルゼルフもミルマと妹、ゼーラもいて勝てないほどの相手。

 そんな相手に、今の俺では勝てなかっただろう。

 そんな相手とカロスは戦い、自分の命を犠牲に他の命を救った。

 俺もその救われた1人だ。

 その命を無意識の間に、投げ捨て、ゴミみたいに扱おうとしていたのかもしれない。


 だけど……。

 「俺は結局1人だ。これから先、俺の居場所があるかなんて分か――」

 「お前の命はお前のだけじゃない! ここに居る奴も! 私も! もう自分だけの命じゃないんだ! カロスのおかげで今生きている! 私たちの命の中にカロスの命がある! だから!」


 突然俺の胸ぐらが解放され、そのせいで体がよろけると、ベルゼルフは俺を安心させるように抱きしめて、小さな声で発した。


 「俺は結局1人なんて、悲しいことを言うな。お前の中に、カロスはいる。それに、よく周りを見ろ。お前には、仲間が沢山居るだろ?」


 俺は頭を動かさず、首だけを動かして周りを確認する。

 ミルマと妹、ゼーラ、戦いが終わったのかいつの間にか来ていた覇獣士達が、心配そうに俺たちのことを見ていた。


 「やっと見えたか? お前には仲間が沢山いる。だから、1人なんかじゃない。今も、これからも」


 どうして俺は、勝手に1人だと思っていたのだろう。

 ひどい奴だなぁ……俺は……。

 俺には新しい沢山の仲間ができたのに、勝手に1人だと思い込んで。

 

 それに……。

 

 「俺の中にはカロスがいる」

 「ああ、そうだ」


 そう呟いた直後、俺の体温が一瞬下がったような感じがした。

 それはまるで、カロスが氷を出した時に感じた冷たさに似ていた。

 だが、その冷たさが、なぜか俺には温かく感じた。

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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