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85話 仇

 エティラは手のひらを上に向けると、それに応えるかのように、音を立てながら風が集まって行った。

 枯れた草木を巻き込み、様々な色の砂を巻き込み、まるで主に従うかのように一つの場所に向かっていく。


 懐かしい……。

 懐かしいなぁ……くふふふ……。

 グーレの家族は確か……首を切り落として殺してやったなぁ。

 四肢を切り落として、その絶叫を聞きながら最後に首を落とす。

 あの時は久々に興奮した。

 この私を楽しませてくれるものは、まだこの世界にあるのだってなぁ。


 なら、こいつをどう殺すかなんて決まっている。

 私を楽しませてくれよ。

 

 「行け」

 

 凶悪な笑みを浮かべながら、そう言い放つと草木や砂を巻き込む暴風は、エティラの視線の先にいる者に向かって行った。


 そんな笑みを浮かべる表情とは、真逆の表情をしているグーレは歯を強く食いしばった。

 

 「それは……私の家族を殺したやつだろ!!!」


 怒りに支配された者は、冷静さを失う。

 だが、冷静さを失う代わりに、発揮する力は爆発的に向上する。


 グーレは、額に血管を浮かばせながら、拳に禍々しいオーラを纏う。

 そして、その怒りに支配された凶悪な拳は、全てを切り裂く風でさえ消滅させる。


 「は!? そんなわけがない……! 私のあの攻撃を受けて無事だった奴は今まで誰ひとりとして――」

 「ごちゃごちゃうるせぇぞ。私が死ぬ前に、お前を地獄に送ってやるよ」


 怒りに侵食される目を見開き、その拳をエティラに打ち込もうとした時、グーレの首が鮮血と共に切断された。


 「あー。言い忘れてたな。お前が消滅させたと思っていたやつ、消滅してなかったから。くふふふ。今頃言っても意味ないがな」


 エティラは今までにない程の笑みを浮かべながら、地面に落下していく頭を見ていた。

 落下していく時の風で、緑の髪が揺れて、まだ生暖かい血と共に空中に舞っていく。

 切断されたせいで、長髪だったグーレは、肩までしか伸びていない髪型になっていた。


 「最高だ。最高すぎる。こうして頭が落ちていくのを見るのは何とも……なぜだ……?」


 寒気を感じた直後、今起こっている現象の違和感に動きを止める。


 エティラは見ている。

 地面に落下していくグーレの頭を。

 なら、体は?

 なぜ、体は落下していかない?


 この現象を確認するために、後ろを振り返ろうと首を回すと、強い痛みとともに自分の腹から、腕が貫通しているのが見えた。


 「はぁ?」


 なんだ?

 どういうことだ?

 一体何が起こっている。

 この手は一体――


 「ふふふ……。まさかあれで殺したとでも?」

 「お……まぇ……なぜ……死んでいない……」


 意識が飛びそうな頭をなんとか引き留め、すぐ真後ろにいる人物に目をやる。

 そこにいるのは、無くなったはずの頭が再生しているグーレだった。


 「仕方ないから教えてやる。単に今の私が、お前より強いだけだ」

 「だからって……頭を……切断したの……だぞ……」


 グーレはふっ、と微笑みながら口をつか付けて耳元で囁く。


 「頭が切断されたからって私は死なない。それだけのこと」

 「馬鹿な……」

 「もう話は終わりだ。死ね」


 背中から突き刺す手を勢いよく引き抜くと、大きな穴から血が勢いよく噴き出て、グーレを赤く染める。

 だが、そんなことは関係なしに、血で染まる腕とは反対の腕でエティラの頭を掴むと、躊躇なく握りつぶした。


 それだけでは終わらず、頭を失った体を落下する前に捕まえると、腕を貫通させて開けた穴に、グーレの手から出現させた赤色の球体を入れ込んだ。


 「私みたいに再生されては困るからな」


 体を持つ腕を振りかぶると、小石でも投げるかのようにエティラを投げた。

 

 投げられた体は、一直線に飛んでいくのではなく、重力によって地面に引き寄せられながら落下していき、そして爆発した。

 

 「いい音がしたな。……昔からこれくらいの強さを持っていれば、もしかしたら……」


 グーレは空を見上げる。


 「母さん、兄さん、姉さん。見てたか? 3人の仇をとったぞ」


 そして、今まで誰にも見せなかった優しい笑顔を浮かべた。

 


 


 


 

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