表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/93

74話 感情

 『うーん、ナイトとでも名乗ろうか』

 

 何故こんな記憶が我の頭に流れてくる。

 あるはずにない記憶。

 いや、失われた記憶……なのか……?


 『魔物の王さ、俺が殺した』


 それは一体……どういうことだ……。

 今我の目の前にいる男に、魔物の王が負けたというのか?

 そんな事は……ありえない……!


 『安心しろ。押し潰したりなどしないから』


 我が負けている……。

 まるでさっきと同じような技で……。


 「思い出したか?」


 カロスが記憶を思い出したのと同時に、グラファは口を開いた。

 だが全く笑っていない。

 真剣な表情、そのもので。


 「貴様が……魔獣の王を殺したのか……」

 「……」

 「おい、カロスよ。大丈夫か?」


 急に戦闘が止まり、何故かカロスの様子がおかしくなった様に見え、ベルゼルフはカロスの隣に駆け付けていた。

 ベルゼルフは、様子が変化したカロスに声をかけるが、反応は帰ってこない。


 「貴様が……我の育ての親を殺したのか……?」

 「……」


 グラファは答えない。


 「貴様が……貴様が……!」

 「……」

 「カロス……?」


 カロスの毛が次第に逆立っていき、爪を剥き出していった。


 「貴様が魔獣の王を殺したのか!」

 

 怒りの声が激しい戦場に響き渡る。

 だが、カロスのそんな様子を見て、グラファはやっと表情を動かした。

 

 「何を……笑っている……。何が……おかしい!」

 「フハハッ! ようやく思い出したか。そうだ。俺はお前の育ての親。魔獣の王を殺した。期待していたほど強くなくて、残念だったよ」

 「ッ!!!」


 殺す……我が必ず……殺す。


 憎しみが、悲しみが、怒りが、溢れるほどの負の感情が、渦を巻くように混ざっていき、それはカロスを飲み込んだ。


 大地が割れるほどの勢いで地面を踏み込み、一気にグラファとの距離を詰める。


 「カロス!」


 ベルゼルフの静止を促す声も、もうすでにカロスには届かない。


 「氷桜、氷ノ珠」


 同時に技を発動して、一気に攻撃を仕掛けた。

 

 だが同時に技を発動するという事は、それだけ体力を消耗する。

 いくらリウスに回復してもらったと言えど、それでも体に蓄積された負担は計り知れない。


 細かな氷が空中に出現し、それら一粒一粒が刃以上の切れ味を持つ。

 

 「こんなにあっては邪魔だなぁ。流暗包廃(ウォーターヘイム)


 だが、グラファは水を操ることができる。

 氷を使うカロスにとって、相性が悪すぎる。


 守護するように、水はグラファを囲んで氷桜を消していく。

 

 「これでお前の攻撃も意味がなくな――」


 水の中からカロスに向けて笑顔を向けると、いつの間にか1センチ程の無数の氷の珠が、音無くして接近していた。


 避けられない……!


 音速に近い速さで移動する物体を、目視した瞬間から避ける事は不可能に等しい。

 無数の氷の珠は、水に直撃するのと同時に、その速さでグラファの周囲から水を消滅させていった。


 「ちっ……!」


 守られるものが無くなれば、後はカロスの思う壺。

 体勢が崩れたところを、氷桜で攻撃してカロスがトドメを刺す。


 我が……貴様を殺す……。


 「カロス……」


 ベルゼルフは焦っていた。


 今の戦況を見るとカロスが推しているように見える。

 だがそれは、カロスが感情的になってしまっていることで、ただ殺すことしか考えずに技を出し過ぎているからだ。

 技を出し過ぎたら当然体力は持たない。


 それに、感情的になると視野が狭くなってしまう。

 まだ余力を残しているグラファを相手に、感情的になってしまうのはあまりにも無謀すぎるのだ。


 どうにかしてカロスを落ち着かせないと……。


 「貴様は必ず我が殺す!」


 体勢が崩れたグラファに氷桜が襲っていき、体の様々な場所からとが流れていった。


 「細かいの邪魔だな! 流暗――」

 「氷一鋭(アイスサーク)


 もう一度自らの体を水で囲もうとするのを、カロスは一本の巨大な氷を撃ち込み防いだ。


 「ガハッ……!」

 「これでお前負けだ」


 白目を剥くグラファを、カロスは確実に殺すために口を広げて噛み殺そうとし――


 何故だ……?

 何故カロスが押しているのだ?

 ヴァミアとカロス、それに私で攻撃を仕掛けても余裕そうだったのに、なぜ今はカロスが押しているのだ。

 何か……何か嫌な予感がする。


 ベルゼルフは必死に考えていた。

 この戦いの中で、グラファは一体何を考えているのか。

 

 「ッ! カロス危ない!!!」


 だが、気付いた時にはすでに遅かった。


 カロスに噛み砕かれる寸前に、グラファはニヤリと笑った。


 「終わりなのはお前だ。白狼。黒水ノ虎(ブラックタイガー)


 これでやっと、我はコイツを――

 

 カロスの脳内で、グラファの死ぬ姿が浮かび上がった直後、横腹に激しい痛みが襲った。


 「残念だったなぁ」


 激痛で一瞬カロスの意識が逸れた隙に、グラファは低い姿勢で後ろに退避し体勢を整えた。


 

 

 



 

 


 


 

 

 

 

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ